エスカレーター

 ハイテクノロジーについていけないので生身でできることが好きだ。デスクワークより肉体労働、パソコンより手書き、車より徒歩。そして当然エスカレーターより階段だ。


 ようやく梅雨らしくなってきた今日は朝から雨が降っていて、職場の最寄り駅に降り立つといつもより多くの人でごった返していた。普段乗り物を利用しないであろう人々による行列がいたるところに延びていた。地下鉄のホーム、タクシー乗り場、そしてエスカレーター。

 はて、エスカレーターは並ぶものだったか?

 ほとんどの駅では地上から地下に繋がる通路には階段とエスカレーターが併設されている。この駅もそうだ、ほんの30段弱、オフィスのワンフロア分にも満たない階段をスタスタと淀みなく降りていく人たち。当然自分もスタスタと降りた、全段みっちり人が詰まっているせいでスローペースなエスカレーターとそれに乗るための長蛇の列を横目に見ながら。


 そこで唐突にエスカレーターの利用目的について思いを馳せた。私がエスカレーターに乗る理由なんて歩くよりも早くタダで運んでもらいたいからに決まっている。しかし並んでまで運んでもらいたいかと言われればそうではない、余計に時間がかかるとなればなおさらだ。

 世の中のみなさんはどうやら違うらしい。アベック(死語)でディズニーランドに行くと別れるというジンクスが示す通り、行列で待つという行為は思いのほか体力をつかうものだ。ほんのちょっぴり足を動かしてすぐ隣の階段を使ったほうが時間もかからないとわかっていながら、それでもみなさん牛歩のごとき行列を耐え忍んでいらっしゃる。つまり

 そうまでして足を動かしたくないのだろうか、いやそれならばエスカレーターを歩く人がいるのはどういうわけだろう。結局先を急ぐなら見ての通り階段のほうが早いではないか。なんなんだ。疲れてるんだな日本人。


 ちなみにいくつかの都市ではエスカレーター上を歩くことが条例で禁止されたらしい。輸送効率の面からもエスカレーターは立ち止まっての利用が推奨されるとのことだ。

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