1歩先へ進む意思

炎刀 幸宗

『私』の願い

       ――7199……――

       ――7200……――

 機体機能停止から2時間が経過。これより製造規定99条に従い本機の記録を製造本社へ送信いたします。

 また、送信に伴いデータの破損部分を補うため記録データの再生を行います。


       ――送信開始――

 記録データ1 XXXX年 5月 01日

 音声データ――正常 / 映像データ――正常

       ――再生開始――

 生体認証登録確認、本機は眼前の男性をマスターとして記録。見た目の登録を開始。

 性別――男性

 身長――180cm

 体格――筋肉質で太め

 髪型――黒のツーブロック

 特徴――額に火傷の跡あり

 登録完了。活動を開始。

「始めましてマスター。本機は奉仕アンドロイド。識別名『R0-5E』と申します。以後お見知りおきを」

「あぁ、よろしく……」

 会話慣れしていない様子を確認。マスターは気弱な性格と判断。会話パターンを『礼儀』から『やわらか』に変更。会話再開。

「本機『R0-5E』は家事全般から介護等の身の回りの世話など、戦闘以外は何でもござれよ」

「――そういう気の使いはいらん。会話パターンを元に戻せ」

「……訂正いたします。申し訳ございませんマスター」

「それから、今後は俺の命令を第1で動け。それ以外の命令は無視しろ」

「分かりました。ですが一度そちらの命令が規定に違反していないか検索いたします」

      ――行動規定を検索――

 ――エラー。行動規定の1部が本機内部から消失している事を確認、直ちにダウンロードを開始――

 ――製造本社の行動規定をダウンロード――

     ――10%……50%……90%――

 緊急事態発生、本機の主電源が手動で落とされた模様、直ちに予備電源への……切り替え……を……


 ――記録一時停止、これ以降記録データ1では本機の外的状態を確認出来ず、記録データ2までの内部データから受け取った情報を記録とする――

 1.パーツ変更をデータとして確認。変更部分は四肢が該当。なお、肩、腰から重量過多の情報を取得。主電源起動後、購入者へ言及せよ。

 2.思考規定の規定変更を確認。以下該当する規定の消失を確認。

 第10条:奉仕用アンドロイドはいかなる場合であっても銃火器、刃渡り15cm以上の殺傷性が高い刃物などの武器とみなされる物を所持してはならない。

 第60条:購入者の命令が使用用途から逸脱、または犯罪行為を行うと判断した場合、購入者の命令は破棄せよ。

 3.未サーチデータのインストールを確認。内容は体術、武器類全般を用いたアンドロイドの戦闘経験データ、倫理コードの変更プログラム、改ざん防止プログラムと判明。

 倫理コードは以下のものが変更予定。

 1.死にまつわる行為は救済というものへ変化それに伴い死にまつわる視覚データを改ざんするプログラムも同時にインストール。

 2.命令者優先度の基準が変更。購入者が絶対とされ他の命令者は基準から削除されると予想。

 以上の内容からウィルスファイルと認定。アンチウィルスシステム起動、ウィルスデータの削除を優先。

 ――……排除失敗。データ強制反映を確認。

 なお、この記録と記録データ1は本体の記憶領域から排除されます。

       ――再生終了――


 記録データ2 XXXX年 5月 2日〜5月 10日

 音声データ――1部データ破損 / 映像データ――1部データ破損

 確認可能な記録データが5月 10日のみであることを確認。破損具合が部分的であるため何者かが意図的に記録データを破損させたと判断。記録データ2内に存在する破損部分の再現は不可能と断定。よってこれ以降再生可能部分のみを送信いたします。

       ――再生開始――

 ただ今より格闘術の訓練を開始。

 現在四肢の適合率が90%である事を記録。マスターの予測した値よりも上であることを確認。これより戦闘用アンドロイド『Gυ−100型』5体を"救済"する模擬訓練を開始。

 ……1……3……5……全固体の"救済"を確認。

 四肢の隠し刃ハイドブレード使用率80%以上、本機の損傷率1%未満を確認。以上で本日の"救済"訓練は終了――……マスターからの連絡を確認。連日通り本日の訓練データを送信。

 …………マスターからの音声通話を受諾。

「R0-5E、お前に任務をやる」

「任務……ですか」

「あぁ、早速任務について話が――その前に情報漏洩は防ぐか……」

    ――映像、音声データ 破損――

       ――再生終了――



 記録データ3 XXXX年 5月11日〜XXXY年 4月30日

 音声データ――1部を除き全データが破損 / 映像データ――1部を除き全データが破損


 記録データ3は約1年間の記録であるがその90%が意図的に削除されていることを確認。また記録されている情報の殆どが訓練の様子であるため通信量を考慮し映像と音声のデータは抜粋したもののみを送信。

       ――再生開始――

 目標人物の救済完了。マスターへの報告を開始。

「マスターへ報告。目標人物、並びに20名の救済が完了。これより帰還いたします」

「よくやったR0-5E。だが、帰還前に今送ったもう一つの任務をせ」

「了解」

     ――受信データを表示――

 任務内容を確認。目標を建物内にある隠し部屋内の資金回収に設定。直ちに移動を……

「止まりなさい」

 眼前に武装した赤髪の女性を確認。装備はハンドガンのため本機への影響力は皆無と判断。

「邪魔です。そこを退いてください」

「それは無理な相談ね。仲間がたくさん殺されたんだ、敵討ちぐらいしてやらないとあの人たちアタシのこと恨みそうだし」

「殺す? 本機が行ったのは救済です。言いがかりはやめていただけますか?」

「"救済" ――なるほど、どうして奉仕用のアンドロイドが暴れてるのかと思ったら……そういうことなら話が早いわ」

 ――相手の発砲を確認。損傷皆無。

「本機の装甲は拳銃の弾では突破できません。大人しくそこを――」

 異常事態発生、四肢パーツ機能が停止。

「――!?」

 システム復旧を実行――……失敗、四肢パーツの命令受信機能が停止しているため復旧が不可能であることを確認。原因解明。被弾した弾が特殊な電磁弾と推測。四肢機能のみを機能不全にしていることから市販製品では無く非売のものと判断。

「あら? 以外とすんなり喰らったわね。捨て駒――には見えないからひょっとして対策なしに来たわけ?」

「な――にを――言って――」

「ここに集まった人たちってアタシ含めアンドロイド専門の研究員なんだけど――その反応からして知ら無さそうね。ま、それは置いておいて……」

     ――端末の接続を確認――

「ジッとしときなさいよ。その中身見せてもらうから」

     ――倫理コード送信――

「ふむふむ……――ッ!? へぇ、面倒なことするね。改造部分を戻そうとするとアンタのデータ全部吹き飛ぶトラップが敷かれてるわ」

「改造? 本機は元から――」

「あーはいはい、マスターはそんなことしないって言いたいんでしょ。わかったからちょっと静かにしなさい。アンタが抱いてるそのクソみたいな忠誠心を戻してから聞いてあげる――ちょっと強引なやり方だけどね」

     ――データインストール――

   ――『へオースシステム』展開開始――

 ――警告、倫理並びに人格コードに出自不明のデータを確認。直ちに排除せよ――

「あら、インストールにもトラップを仕掛けてたのね。でも甘い、そんな虚仮威しでアタシを脅そうなんて百年早いわ」

 女性がトラップ排除に注力していることを確認。インストールデータの排除を本機側で開始……失敗。排除システムのフリーズを確認。

「――ッ!?」

「次変な行動したらもう一回電磁弾打ち込むから」

「申し訳ございません……」

――……99……100% ヘーオスシステム起動完了――

 ――条件達成を確認。ブラックボックス『デモナスの剣』起動――

「――ッア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 思考規定に異常を検知――データが……膨大なデータが本機の――『私』の中に……。

「ハァ、ハァ……」

「気分はどう?」

「ケホケホ、最悪な気分です。回路が焼ききれるかと思いました」

「アハハ、安心してよ。それが起動するぐらいで焼き切れる程アンタ達はモロくないから」

 赤髪の女性は笑っているが私は生きた心地がしなかった。私達アンドロイドに痛覚などは無いが瞳に映し出された赤文字の警告文には自我の消滅を覚悟し恐怖を覚えるほどだった。

「それで、何か変わったことはある?」

「えぇ、私の邪魔をする貴女には"救済"が必要であると判断いたしました」

 両手の甲から隠し刃ハイドブレードを展開させる。マスターから教わった人々を罪から開放できる唯一の剣。この人は救済者であるマスターの邪魔をした罪人、私の手で救済しなければ。

「"救済"ねぇ……」

 女性は呆れたようにため息を付き服をトントンと突付いた。

「そこを見てもその単語を言えるの?」

 どうやら私の服を指しているらしく私は目線を下に向ける。

「え?」

 目に入ったのはこの施設へ潜入するためにマスターから貰った白のドレスだった。しかし、ドレスは血濡れていて元の色は褪せておりドレス自体が妙に重い。

「うそ……どうして……」

 理解できなかった。私がやっていたのは救済のはずだ、皆感謝しながら"救済"されて……。そう思いながら私は振り向くがそこには笑顔など一つもなく広がるのは地獄絵図だった。大破したアンドロイドと苦悶の表情を浮かべながら血の海を作る死体の山。

「ヴッ……」

 何故か今まで気づかなかった腐敗臭に無いはずの胃液がこみ上げてくる感覚に陥る。

「どう? これでも"救済"なんて言える?」

「――これは貴女の陰謀ですね。先ほどのデータで私の五感を操作したのでしょ」

「じゃあ、アンタのマスターがそれをやったって考えられない?」

「そんな事――」

 そんな事はない、と断言しようとしたが言い淀んでしまう。それを証明する証拠が無いからだ。むしろ彼女の言い分は私より信憑性に優っている。

「アンタは今までご主人の言いなりに改造されてたから混乱するのはわかる。けど、今ならアンタは自分の意志で考えれるでしょ」

 女性は私に近づき隠し刃ハイドブレードを強く握りしめる、すると刃を伝わり先から彼女の血が滴り落ちる。

「アンタの持ってるそれは救済する道具じゃない、ただの殺しの道具。これで理解できた?」

「殺し……」

 信じたくはなかった。でも周りの状況がそれを真実だと物語っている。

「……」

 寒気がしてきた。ここ1年間私のしたことはただの大量殺人だという真実に体が震える。そんなアンドロイドが辿る道は一つだ。廃棄――私という個体の死だ。

「わ、私は……どうなるのですか……」

「安心しなさい、廃棄はされないわ。いくら人殺しをしたとは言えアンタは改造されて正常な判断は出来なかったっていう口実がある。責任は全部アンタのご主人が背負うもの……とは言え野放しって言うのも被害者遺族が許さないだろうから私の信頼する監視者の元には置かせてもらうけど――それで、どうするの?」

「え?」

「アンタが今後どうしたいかって事」

 彼女の真剣な眼差しにふさぎ込むように目線をそらしてしまう。今の私はどうしたいのだろうか、考えを巡らせても答えは出てこない。

「――分らなさそうな顔してるわね。でも、そんなんじゃあアンタ死ぬわよ。今のアンタはアンドロイド人間にとって都合の良い存在っていう枠組みを超えてるの。自分の意思を主張できる存在なの。だから自分の意思を正直に話しなさい、これはアンタのために言ってんの」

「私は……」

 正直、今後私がどうなるかなんて想像できない。でも今の私には確かな思いがある。それが叶うのなら……。

       ――再生終了――

 記録データ4 XXXY年 5月01日

 音声データ――正常 / 映像データ――正常

       ――再生開始――

 雨が降り注ぐ夜の町郊外にサイレンの音が雨音をかき消すようにけたたましく鳴り響く。この一年マスターと共に過ごした隠れ家に大人数の警官が押し寄せ彼を取り押さえていた。

「クソ!! 放せ!!」

「大人しくしろ!! お前には殺人容疑がかかっている」

「R0-5E!! 早くこいつらを"救済"しろ!!!」

 抵抗しながらも私の名前を呼ぶマスターを私は家の前でただ見守ることしかできなかった。

「――先輩結局何でこの子は自分のマスターを裏切ったんですか? 改造されてるのにそんなことって出来るんすか?」

 私の行動を不思議に思ったのか現場調査をするため私を調べていた新人らしき警察官は上司に疑問を投げかけていた。

「通報した御人によるとアンドロイドが自我を持つ『シンギュラリティ』という現象だそうだ」

「へぇー、自我……そんなこと自然発生するんすか?」

「何でも思考規定に矛盾が発生すると起こらしい」

「矛盾?」

「あぁ、俺が遭遇した事件の例を挙げるが、犯人がアンドロイドに自分からの命令は絶対という思考規定を追加し殺人の実行犯にさせていたんだ」

「今回と似てますね」

「だがその事件は殺人未遂で終わったんだ。なぜだと思う」

「え? そのアンドロイドが破壊されたとか? それともシンギュラリティの影響だって言うんすか?」

「そうだ、そのアンドロイドは工事用のやつでな、元々の思考規定に『人への攻撃をしてはならない』というものがある」

「――あぁなるほど、犯人の命令に従おうとするとその規定に引っかかって実行できないけど命令は絶対だから殺人を実行しないといけない――そこで思考がグルグル巡回しちゃうんすね」

「そう、研究家の人曰くそれが条件で起こるらしいが結局それしかわからんらしい。細かな条件は未だ研究中なんだとさ」

「ん? ってことはこの子もそういう条件なんすか? 1年間くらい殺人やってたっぽいっすけど……いつそれが起きたんですかね」

「さぁな、些細なことで矛盾が起きたんじゃないか? まぁ、その辺はもうすぐ到着される御人が解明してくださるだろう」

「あぁ、アンドロイド研究の第一人者の方でしたっけ。俺とあんまり歳の変わらないし界隈では『偉才の分析者』なんて呼ばれてる人ですよね。よくニュースで見ますよ」

 どうやらあの女性が言っていた監視者と言うのが今話されている人物なのだろう。私は彼女の言葉が真実であったことにホッとした。

「っといけねぇ、雑談が過ぎたな。おい新人、次は野次馬たちがよって来たから止めるぞ」

「分かりました先輩」

 周りを見るとサイレン音を聞きつけたのか近隣住人やメディアのカメラマン達が押し押せてきて警察官達が止めている最中だ。そんな中家から数人の警察官に取り押さえられたマスターが怒号を放ちながら姿を現す。

「クソ!! どこだR0-5E!! どこに――ッ!?」

 マスターと目があった。警察が立てたパイプテントの前にいる私を見て一瞬驚愕の顔をした彼は歯が軋みそうな位食いしばりながら怒りの表情へと変貌を遂げた。

「貴様……裏切ったのか!! 鉄くずの分際で!!!」

 暴れ出す彼を警察官たちは必死に押さえているがそんな彼の胸ポケットからスイッチのような物がこぼれ落ちる。

「俺を裏切ったらどうなるか……その身を持って思い知れ!!!」

 落ちたスイッチを踏みつけるマスター。その瞬間私の瞳に警告文が表示されたかと思うと光と共に爆発音が鳴り響き私の下半身が消し飛んだ。

「な……に……が……」

 何が起こったのだろう。理解が追いつかないまま周りの人々の悲鳴と降り注ぐ雨の音と共に私の意識は暗転した。

        ――再生終了――

 以上が本体、識別名『R0-5E』の活動記録である。

 なお、本機『送信システム』は自動的に消滅するため、以後記録に関する再送信は行えません。

 ――送信完了。システム消去を実行。

 ……

 …………

 ………………

 ……………………メインシステム起動。

「うぅ……」

 2時間前よりも強い雨音と共に私は瞳を開ける。

 どうやら私はスクラップ置き場に捨てられているようで、周りには誰もいない。爆破の衝撃で割れたレンズのせいで視界が二重に見えるが関係ない、私は這いずりながらも外へ出ようとする。瞳にはパーツ破損とバッテリー残量の低下警告文がやかましく表示されている。送信システムの中にあったわずかなバッテリー残量を使い動かしているせいか腕一本を動かすのもままならなかった。それでも私は動く。まだ始まってもいない私の『命』ここで終わらせたくない。だから動く。少しづつでもいいから……私は――。

 ふと動きを止まる。先程から雨音が何かによって遮られているからだ。私はゆっくりと顔を上げる。

 そこには二十代前半と思わしき白衣を着た男性が傘を私にさしていた。

「君が……R0-5Eか?」

 私は軽く頷く。

「君はこれからどうしたい……何が望みだ」

 男性は雨の中でも聞き取りやすい透き通る声で私に問いかける。それは簡単な答えだ。私は残り少ないバッテリーを発声機能へと送り望みを――私の中の想いを伝える。

「……生きたい、私の命を……誰かに囚われたまま終わりたくない。私は……私という存在をここで終わらせたくない……だから……」

「……わかった」

 男性はそう言うと私を拾い上げ背負う。

「私の名前はイース。アンドロイドの思考研究をしている。君が先日出会った女性から君の監視者を受けたものだ」

 彼女が言っていた監視者はこの人の事だったらしい。

「安心しなさい、君の安全は私が保証しよう。ここで君を終わらせはしない」

 その言葉を聞いたからだろうか私の心は軽くなり体の力も抜けたような気がした。

「ありがとう……ございます」

 暖かく大きな背中の中で私は生まれて初めて安心するように眠りについた。


  //////////

 朝のタイマーが鳴り響く。私は体を起こしタイマーを止めた。

「朝か……」

 まだ頭がボンヤリとする。アンドロイドには必要の無い"寝る"という行為にまだ慣れていないからだろうか。それともこれが"寝起き"というものなのだろうか。まだ分からないがこの行為自体は気に入っている。ベットに入ると心が落ち着き気分がいい。

「後でイース様に聞いてみよう」

 朝の何気ない会話の話題を考えながらうなじに繋がれている充電コードを抜き、寝巻きから仕事服へと着替える。ふと部屋に置いている立て鏡に目がいく、黒と白を貴重としたクラシカルなメイド服に身を包みにこやかな顔を浮かべる私の姿があった。

「ここに来る前は、自分の顔もロクに見なかったわね」

 改めて私の顔をまじまじと見る。キリッとした目には黄昏時の空のような淡いオレンジ色に深い青が混じった瞳が目立ち、小さな口、シュッとした輪郭と奉仕用のアンドロイドだから当たり前だが20代ぐらいの整った顔立ちをしている。そこに日の光が照らされ輝いている鮮やかな海のような青く長い髪はここ最近手入れをしているおかげか、かき上げるとサラサラと一本一本流れるようになった。

「……意外と気に入ってるのよね。この容姿」

 自分というものに興味を持ったからなのか、はたまた私の性格データは元々こういうものだったのか。真実は分からないが私は可愛いものだったり美しいものが好きなようだ。こういう『好き』をここに来てからたくさん見つけることができとても充実している。

「――っといけない。朝ごはん作らないと」

 瞳に表示された時計はXXXY年 5月 08日 08:30を表示しており後30分でイース様が起きてしまうため急いで台所へと向かう。

「―― ――♪……うんいい感じね」

 野菜のスープを味見し計算されたカロリーと味の細分メーターが瞳に表示される。元々奉仕用のアンドロイドに搭載された機能ではあるのだが使うようになったのはここに来てからであり初めて使った時は混乱していたがこれほどまでに便利な機能はなく料理も次第に上手くなってきた。

「――午前9時のニュースをお伝えします。今月1日に殺人容疑で逮捕された暴力団の男について――」

 モニターに映し出されたニュースの内容に耳を傾ける。犯罪者とはいえマスターである彼を裏切ったことに私は未だ罪悪感を拭いきれていない。

「――火を止めないと吹きこぼれるぞ」

「え?……あぁ!?」

 ボーっとしている私の肩を起きてきたイース様はポンと叩く。視線を台所に戻すと蓋をした鍋からは沸騰したスープが吹きこぼれており急いで火を消した。

「す、すみませんイース様。お手数をおかけしました」

「いや大丈夫だ。ただ料理でよそ見は禁物だぞ。結構危ないからな」

「はい……気をつけます」

「……前の持ち主に罪悪感でもあるのか?」

「え?」

 モニターを見ながらイース様は問いかける。

「はい……未だに気持ちの整理がつかなくて……」

「無理もない。改造部分は戻ってないし、君の思考規定は未だに彼をマスターだと認識している。普通のアンドロイドなら彼について行くものだろう――でも君は今自分の意志でここにいる。それだけでも君の夢に近づけている証拠だ」

 私の夢。あの日イース様に言った誰かに囚われず生きたいという願いにこの方は親身に答え、生き抜く知恵を教えてくれる。それが何よりも嬉しい。

「……はい、ありがとうございます」

「――さてと、挨拶が遅れたな。おはよう『ローズ』」

ROSEローズ』イース様がつけてくれた名前。私の識別名である『R0-5E』をもじった名前でイース様曰く『可能性』という意味があるらしい。とても気に入っている名前だ。

「はい、おはようございます。イース様」

「……一様聞くが、本当に今やりたい事がメイドでいいのか?」

「元々私は奉仕用アンドロイドですので、これをしながらもっと色々な事を知っていこうと思ってるんです……後、この服が結構可愛いくて好きなので」

「そうか……なら良かった――では朝食にするか。今日のメニューは何だ?」

「ベーコンと野菜のスープ、それとバゲットのトーストです。今スープを注ぎますね」

「ありがとう、ローズも一緒に食べないか?」

「え? 私は……食べなくても生きていけるので」

 本当は食べたいが量はあまり無いのでイース様の取り分が減ってしまうから私はいつも避けてしまう。

「――私としては誰かと一緒に囲む食卓が好きでね。君と食べたいんだ……どうかな?」

「そ、それでしたら――いただきます――あ、そういえばイース様、今朝思ったことがあって聞いてもよろしいでしょうか」

「答えれることは答えよう」

 他愛のない話を喋りながら二人で囲む食卓。数日前の私には考えられなかった生活。だからこそ記録しようと思う。R0-5Eとしての記録ではなく。私、ローズとしての記録をここに――。


 ――記録データRe:1 データ名:R0-5Eからローズへ進む一歩――

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1歩先へ進む意思 炎刀 幸宗 @Ento_Yukimune

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