第4話 Jane Doe
「ジョンドゥとかジェーンドゥって知ってるか?」
いつも通りの放課後、いつも通り俺は神の手違いで天界に降り立ったとしか思えない美少女男の娘、陸に雑談を持ちかける。
「こっちでいう"名無しの権兵衛"みたいな意味だよね?」
「さすが陸!物知りだな!紫音じゃこうはいかないぞ!」
「僕だってそれぐらいは知っているぞ!?」
対面に座る高身長低知能な残念イケメン紫音が失敬な!といった面持ちで反論する。
「この前、ジェーンドゥの解剖という映画を見たのだ。」
「あ~あの身元不明の遺体を検死するホラー映画だよね!」
「あれ、中々なホラーだと思うけど紫音見れたのか?」
「第一幕までは試聴したぞ?」
「序盤までしか見てねえじゃねえか!」
「心配しなくてもあれそんなに怖くないから大丈夫だよ~!」
かわいい顔しているが陸はホラー耐性が異常に高い。休日に三人で呪怨を鑑賞していた時も、紫音が震えている中おいしそうにキャラメルポップコーンをモシャモシャ食べいたのを思い出す。
「陸はホラー映画平気で見るよなー」
「うーん怖いとは思うけど超自然的な怖さはあんまり実感がわかなくてね…相ノ木もそんなにホラーを怖がるタイプじゃないと思うけど?」
「あーお化け屋敷とかは普通にビビるけど映画となると構成とか舞台装置とか制作的な裏側を考えながら見てしまうんだよなあ。」
映画好きのあるあるだと思う。
「ふっ…相ノ木は相変わらずひねくれているな。」
「どこかの単細胞はホラー映画を純粋に楽しめて羨ましいな。」
「誰が単細胞だ!!」
「ほら単細胞じゃねーか、すぐ怒る。」
「あははは、まあまあ二人とも落ち着いてよ。」
いがみ合う俺と紫音を陸が宥めるというテンプレートを行い
「そういえば、そろそろ夏休みだな。」
「そうだね!みんな夏休みは何するの?」
「やめてやれ陸…紫音に夏休みの予定があるわけないだろ?あったらあったでそれこそホラーだ…」
「ふっ、お前らもこんなマイナー部にいる時点で似たようなものだろ?」
ぐうの音も出ない。だけどコイツに言われるのは腹が立つな。
「それじゃあこの三人で色々予定を立てようよ!ホラー映画鑑賞会とか怪談とか心霊スポット巡りとか!」
「おい陸よ、なぜ予定が全部ホラーに寄っているのだ?」
「そうだぞ陸!紫音もたまにはマトモなことをいうな!」
「普段からマトモだが?」
「えーじゃあ海とか?でも水着恥ずかしいな…」
照れている陸を眺めつつ、俺は恥ずかしい水着を着ている陸を想像する。うん、とっても似合っているけど何か変な性癖に目覚めそうだ。
「男三人で海にいくことのどこに恥ずかしがる要素があるのだ」
「うーん、中学生の頃僕がハーフパンツの水着を着てると浜辺で騒乱が起こるからって、お姉ちゃんに女の子用のスクール水着をよく着せられてたんだ。」
なんだと!それは見たかった!!帰りにタイムマシーンを探そう!
「中性的というのも考えものだな…」
「女物の服を着るのは別にいいんだけどね。」
ん?別にいいのか?これはツッコミどころなのか??
「じゃあ特に問題はないんじゃないのか?」
「いや…自慢みたいになっちゃうんだけど…」
陸は一言前置きをして
「そのスクール水着にデカデカと"佐藤"って僕の名字が書いてあったから町で佐藤ちゃんっていう将来有望なかわいい娘がいるって噂になっちゃったんだ…」
今も十分噂になるかわいさだしそれは致し方ないな。
「そんなこんなでスカウトに追いかけられたりストーカーに追いかけられたり色々あってちょっとトラウマなんだよ…」
可愛すぎるというのも罪なものだ。陸が隣県からこの高校に来ているのもそういった経緯が含まれてるのだろう。
「そうだったのか…大変だったな…」
「はははありがとう相ノ木…でも海自体は好きだよ!あんまり人のいない浜だったらバッチコイだよ!」
「じゃあウチ、プライベートビーチ持ってるからそこに行くか?」
「相ノ木よ…お前そんなものを所持しているのか?」
おっと陸の水着を拝みたいが故に口が滑った。
「そんな漫画みたいな資産家って訳じゃないけどな、両親が医者やってるってだけだ。」
「ふっさすが中間テスト2位だな。」
「中間テスト、逆1位の紫音ほどじゃないさ。」
「なんだと貴様!!」
「もー相ノ木はいつも、ひと言多いんだから…でもじゃあ夏は相ノ木のプライベートビーチにみんなでいこうか!」
「おう!まかしとけ!陸も今度は名前がバレないように水着にジェーンドゥって書いとかないとな!」
「もう!相ノ木はひと言多いんだから!」
つづく
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