rab_0619

@rabbit090

第1話

 しくじっていた。

 「日光、強すぎない?こんなとこ来たのなんで。」

 「旅行。」

 僕は、間が嫌いだった、しかし息子はそれを許さない。

 「なんでなんで、いかれてるよ。」

 「…はあ。」

 子どもがいなかった頃、人前でため息をついたことなんてなかった。けど今は罪悪感のかけらも感じない、サラリーマンがすれ違い様一瞬僕の方を睨んだけど、気にならなかった。

 「パパ、鼻くそほじってないで答えて。」

 鼻くそ…!

 ちょっと前の僕だったら、絶対にありえない。

 だって、人に触ることができなかったし。人に見られているところで、鼻なんか、ほじるか。汚い。

 でも要するに、コイツは僕の子じゃない。

 そもそも、今はもう子どもなんてトレンドじゃない。育てるのが大変すぎるから、昔は、まあ生まれたら生まれたでなんとかなるよね、で済んだけど、世は資本多数決の時代だった。

 財力がある人間は、子どもを嫌った。

 なぜかは分からない、ただ、それが潮流になり、すでに10人に一人も子供を産まない、そんな時代が来てしまった。

 つまり、町を歩いていたって、僕はすごく奇妙なものを見るような目で見られている。


 息子は、バカだった。

 「パパ、学校でおっさん殴った。」

 「何してんだよ。」

 って、いっても意味ないんだけど、まだ小学二年生の息子は、教師を平気な顔をして殴るような子だった。

 学校は、子どもを断れない。

 そして行き着いたのがここ、

 「海だね。」

 「ああ、初めてだろ。」

 「いや、お母さんときてる。パパは知らないだろうけど。」

 「そうか。」

 「…そうだよ!なあ文句言えよ、お母さん、帰ってこないんだから、俺のことここに捨てるんだろ?」

 「………。」

 「え…?」

 黙った僕を見て、息子は言葉をなくした。

 でも、事実だった。

 ぶぅ子は、大学の知り合いだ。ぶぅ子は、ぶぅ子なんだけど、なんかかわいくて、モテた。

 けど、孤独だった。ちやほやされていても、いや、されればされるほど、あいつは不幸になっていた。

 そんな、理解不能な話を一方的にしてきて、じゃあ、この子を育てて、という横暴ささえ兼ね備えていた。

 もう、世界に愛情とか、なくて、捨てられたら過酷な人生を歩む。それは昔よりもっと、つながりもなく、一人で刻一刻と過ぎていく人生を、でもとても長い道のりを、タイミングを逃しながら生きていく。

 

 手を離す、もう終わりだから。

 職員が、

 「こっちよ。」

 と言い、息子の手を握る。

 「おい!!」

 息子は、強くそう叫んだ。

 しかし僕は、見なかった。優しさとか、そういう感情がすでに薄れていることは知っていた。

 ぶぅ子、お前、間違ったんだよ。

 そう、声に出して呟いた。

 

 

 

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