寺の裏 苔付く扉 風そよそよ

 寺の裏 苔付く扉 風そよそよ


 妙楽寺は、福井県小浜市野代にある真言宗の寺である。古く、歴史を感じる重みのある空間で、何より山に囲まれた人の少ないところに立地しているのがよい。京都のオーバーツーリズムの中で各寺に赴くとなると、何を見に来たのか分からない。印象に残るのは多量の外国人、バスの大混雑、「禁止」の看板だらけの小路、ファッション和人、そして不愉快そうな地元民の顔だろう。仏の心に少し触れたような感覚になって、そのときの仏の顔を覚えていられるのは、やはり妙楽寺のような静謐せいひつなるひそやかな寺であると思う。

 寺の外観を見る上で、私は寺の裏手に回ることを意識している。普通写真で紹介されない領域であり、最もシンプルで穏やかな時間が流れている場合がある。常ではない。掃除道具やがれきが置かれている寺もあるし、裏手に入れないようになっているところもある。

 この寺の裏手は素晴らしかった。扉に苔があり(もこもこしたものではなく、扉の木の傷をふさぐように控えめに生えている)、裏手からみた寺の裏(すなわち本堂それ自体の後方)には、木々の緑が陽光を受けて明るくたなびいていた。その光景は、何か別の世界へ入ったかのような感覚であった。

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