第6話

登校してみんなに挨拶をした際の片桐さんの笑顔は、前のあの明るい笑顔とは違ったものになっていた。

心から笑えている笑顔ではなく、作っているかのような笑顔だった。



俺が気がつくレベルなのだからクラスのみんなも気がついているであろう。


心配して周囲の女子達が片桐さんに話しかけているが、前のような元気は今の片桐さんにはない。

どんな言葉をかけられても、大丈夫の一点張りで受け答えをしている。


「星奈が元気がないとは言ってはいたがここまでとは」


小声とはいえ思ったことを口に出してしまった。周りの人に今の独り言が聞かれていないかヒヤヒヤしてしまった。

片桐さんと女子やりとりを遠目でみていたら、担任がやってきてホームルームが始まった。


担任は教卓につき、挨拶をするとともに、星奈の事故についての話を始めた。


「みなさん知っているかとは思いますが、如月さんは不幸な事故で亡くなりました。とても悲しい事故でした。如月さんの追悼の意をこめ黙祷を捧げたいと思います。」


この言葉の後クラス全体で星奈への黙祷が行われた。中には泣き始めてしまう人や、事実として受け止めきれていない人もいたが、この数分間はクラス全体が星奈へ向けて黙祷をしていた。



黙祷が終わった後、ふと俺は片桐さんが気になり彼女の顔を見てしまった。

片桐さんの表情は悲しみの表情だけではない、何か別の感情を抱えているそんな表情をしていた。

何故片桐さんがあんな表情をするのかが、

あの時の俺にはわからなかった。




始業式のため早めに学校が終わった俺は、遊ぶことなく帰宅し、片桐さんを以前のような明るい子にすることについて考えていた。


「片桐さんを元気にするとしてもあの表情が気がかりなんだよな。」



何故あのような悲しみ以外の別の感情を抱えたような表情をしているのか。

星奈から聞いた話だと、お葬式の日からずっと夜寝る前に泣いているということしか現状知らない俺には片桐さんのあの表情には謎が深まるばかりであった。



「さて、どうしたものか。」


星奈との約束を果たすとしても、片桐さんの本心を知らないと元気にするとことは難しいであろう。


そう考えていると、スマホが鳴り出した。

画面を見ると最近は見慣れたとある番号からだった。


『もしもし、何かあったか?星奈。』



『何かあったか?じゃないよ!董哉も見たでしょ。今日の七海ちゃんのあの元気のなさを。』



『ああ、ちゃんと見たよ。前までの明るい片桐さんじゃなかったな。まるで必死に繕っている見たいだった。それにあの表情....』



『そうだね。あの表情は私も気になった。だからさ董哉、七海ちゃんの本心をちゃんと知った上で元気にしてあげてほしいの。』



『でも本心を知るといっても、どうすればいいんだよ。』


『そんなの簡単じゃん。董哉が七海ちゃんに話しかけて何を思っているのか聞けばいいんだよ。』



星奈は簡単と言いながらとても難しいことを提案してきた。



『お前も知ってるだろ?俺そんな片桐さんと仲良くないぞ?本当に友達の友達みたいな感じなんだぞ。』



そうなのだ、いくら星奈の親友と言っても俺はあまり片桐さんと親しい関係ではないのだ。



『大丈夫だよ!董哉も七海ちゃんもすぐに仲良くなれるよ!』



『そんな根拠のないことを言われてもな。今日の会話を見ていてたら、俺も軽く受け答えされるだけだと思う。その片桐さんが本心を話してくれるか?』



『そんなの董哉が根気強く話に行くしかないよ。ずっと話しかけていれば七海ちゃんも心を開いてくれるよ!』



すごい簡単そうに言っているが。難易度はとても高いものである。

しかし星奈との約束の為だやるしかない。


『わかったよ。難しくはあるが、最後まで諦めずやってみるよ。』


そう星奈に返事をし、俺は明日から片桐さんに話しかけて心を開いてもらえるよう決心をした。

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