第2話 名もなき村
グラスゴーの民たちが、アマーリエに対し「病からの解放者」と叫んだのには訳があった。
辺境の地に西方諸国列強たちの食指が伸びずに、辺境の名を甘んじたままでいられた理由の一つに「風土病」の存在がある。それは、石灰質の痩せた土壌を苦労して開墾する農民たちを悩ませ、毎年、少なからぬ犠牲者を産んでいた。
『土から赤い泥が出てきたら、すぐに焼き払い、二度と近寄ってはならない』
その泥に触れた者は、三人に一人という確率で皮膚が崩れ、赤い糸を引き始めるという。
病名を“赤糸病“。
農民たちは、いつ湧き出すかも分からない、その泥に怯えながらも、税と食いぶちのため、畑を耕し続けていた。
病が怖くても、他の土地には移れなかった。
辺境の封建領主たちは、民の移動を認めず、家業の生業を世襲と義務付けているのだから、生き続ける限り、農民たちに選択の余地は無かったのだ。
アマーリエたちは、意図せずにだが、その病の元凶に立ち向かうことになる。
話は、アマーリエたち一行が故郷を追われ、辺境に侵出してから3日が過ぎた頃まで遡る。
クラーレンシュロス伯ルイーサ・フォン・アマーリエと、配下の騎士22名とその従者たち50名からなる騎士一行は、空腹と疲労に耐えながら、辺境の深部へと馬を進めていた。
この地に詳しいという紋章官ロロ=ノアの先導により、一行が目指す先は、シュナイダー侯領。封建貴族が治める地であったが、クラーレンシュロス伯領とはそう遠からぬ距離だというのに、その近況はまったく知られていない。西方諸国からの関心を失って久しく、侯爵家の血筋が続いているのかすら、アマーリエたちは知らないのだ。
放置されるまま、木の根に押し上げられていびつに変形した、いにしえの街道。
点在する低木の茂み。
腰まで伸びた草。
石灰岩が溶けて生まれた、深い窪み。
円形に陥没したその窪みの底に、時折、澄みきった深い池があった。
トビケラの飛び交う地下のオアシスで、水を補給し、身体を洗う。
期待した魚は、影も形も見えない。
「あそこに、何かいるぞ」
騎士クルトが、窪みの周囲をかこむ岩壁を指差した。
蔓に覆われた岩壁は、よく見ると小さな洞窟のような穴が無数に開いて複雑で、まるで巨大な蟻が住む巣のようになっている。
クルトは、数人の従者たちと協力し、壁の穴に潜り、大きな哺乳類を一匹捕獲して来た。
「ネズミでしょうか…」
騎士ワルフリードが身震いをする。
大型犬ほどもある、ゴワゴワの毛に覆われた哺乳類には、毛の生えていない長い尾があった。
「腹に、袋がある」
騎士ハルトマンが、クルトが捕えた獲物を詳しく調べ始めた。
「齧歯類だな。この手の動物は食えるが、念のため内臓はやめておこう。根に毒を持つ草は多い、それを食べている可能性もあるからな」
「すごい色の歯だな…」
クルトは、熟しきったカボチャのような色の歯を見てつぶやく。
「捌くのは、俺がやろう。内臓には、傷を付けないように気をつける」
クルトは短刀を取り出すと、首元を切り裂いた。
「心臓の位置が分からないから、首から血を抜く。逆さにするから手伝ってくれ」
ハルトマンは、彼と二人で後ろ足を持って持ち上げると、慌てて、従者たちが二人に手を貸した。
ともに背が高く、均整の取れた体躯を持つ、この二人の騎士たちは、クラーレンシュロス伯の騎士ではない。
クルト・フォン・ヴィルドランゲは、北方の広大な森林地帯シュバルツシルトの出身で、その地を領有するシュバルツェンベルグ公爵の配下。ほんの少し癖のある金髪を短く刈り、肌は白く、瞳は冬の空のように青い。
ハルトマンの出身は、西の大国パヴァーヌ王国があるパドヴァ地方の片田舎。主君はパヴァーヌ王家に属する侯爵家だと語っていた。白髪が混ざった長髪を、後ろでまとめている。日焼けした肌に、灰色の瞳を持っていた。
二人の歳は、一回りは差があるだろう。若く生気に満ちたクルトに対し、ハルトマンは肩の力が抜けた熟練の風情があった。
二人は北の森で開催されたトーナメントで出会い、意気投合し、アマーリエの旅にも同行していた。
「なぁ、クルト卿よ。この場に、味についてとやかく言う者はおらぬだろう」
古参のスタンリー=ハーレイが、口髭を撫でながら意見する。
クルトは破顔して応えた。
「了解だ。生のまま食うとか言い出す前に、さっさと解体するよ。だが、その前によく洗ってからだ。ダニは厄介だからな」
クルトは水場を汚さぬよう、野営用のオイルコットンを使い、従者たちに何度も水を運ばせ、馬用のたわしで丹念に汚れと虫をこそぎ落とす。それがひと段落すると、胸から腹までの皮と皮下脂肪を慎重に裂き、肋骨を広げて内臓を引き抜いた。次に肛門をナイフで丸く切り抜き、喉の気管を切断して、内臓の分離が終わる。
腹部に溜まった血を洗い流し終えると、木に吊り下げて皮剥ぎに移った。
騎士たちはクルトの周りに集まり、骨の継ぎ目の腱を絶って分解していく、彼の手際の良さに感心した。騎士の中に、狩りを趣味とする者は非常に多い。鹿や猪を自ら解体できる者も、少なくはないだろう。だが、初見の動物をクルトほど手際よく解体できる者は、そう多くは無かった。
「肉の中にも寄生虫がいるかも知れない。よく焼いてから食べてくれよ」
切り分けた肉をクルトが運んでくると、すでに火の準備を終えていた騎士たちは歓声を上げる。
「香草を摘んでおいたから、香辛料の代わりに、一緒に食べてください」
クルトの幼馴染で、彼の従者でもあるハーフエルフのル=シエルが、山盛りのハーブを提供した。
水と緑に溢れた窪地のオアシスで、騎士たちの焼肉パーティーが始まる。
アマーリエは、ほろほろと解ける肉を手で割き分けながら、頬いっぱいに名も知れぬ動物の肉を頬張った。
「パサついているけど…やっぱり、肉ね…肉だわ…肉が一番」
「草も食えよ、蛮族じゃねぇんだから」
クルトは肋肉を手に、彼女の隣に腰掛けた。
「塩がないのが、致命的だな。甲冑を着たまま汗を流して…そろそろ、スタミナが持たなくなるぞ」
「ロロの話では、間も無く集落があるみたい。ろくな路銀もないけれど、そこで物資を調達するんだって」
クルトはため息をひとつ、そして肉を齧る。
「不安よね…私も、不安。いったい、どうすれば軍隊なんて、手に入れられるのかしら。それにはいったい、どれほどの時間がかかるのかしら…」
クルトは無言で肉を咀嚼する。
アマーリエは、急に辺りを見渡し始めた。
「ロロがいないわ。どこへ行ったのかしら?」
「なぁ、アマーリエ」
骨を投げ捨て、クルトがアマーリエに顔を近づけると、アマーリエは思わず身構えた。
「あんまり、奴に頼りすぎるな。ここにいるのは、お前の軍隊だぞ」
「軍隊って…」
アマーリエは、クルトの瞳を見て、言葉に詰まった。
「ロロは…」
目を逸らし、話を続ける。
「私が雇ったのだから、私の好きにするわよ」
「いつ、金を払った?」
「それは…出世払いでいいって…言うから」
クルトはアマーリエの肩に手を掛け、強引に目を合わせる。
「お前は知らないんだろうが、奴は有名人だ。だが、善人の類じゃない」
「おやおや、ひどい言われ様ですね」
背中からの声に、クルトは振り返らずに答える。
「身に覚えがあるはずだ」
「私は、為政者たちのお手伝いを生業としております故、それはもう、たくさんの方々から喜ばれておりますよ。しかしながら、反対に多くの恨みも買うのが宿命…やれやれ、胃が痛まない日はありません」
「誰なの?ロロ」
アマーリエの問いかけに、クルトは振り返って眉を顰めた。
アマーリエとのやりとりを古参たちに見られ、彼らの角を立てぬよう、クルトは周囲に気を配っていたつもりだった。騎士たちが肉に夢中であることを確認して、声をかけたのだ。だが、目を向けるまで、その者の存在を感知できていなかった。
「肉の香りに釣られて、顔を出した兎ですよ」
男装の女エルフの隣には、ボロを纏った小柄な女エルフが立っていた。
「さぁ、私の雇い主に、あなたの名を告げなさい」
そう促されたエルフは、掠れるような小さな声を発する。
「…レオノール」
まるで、拾われてきた子猫のような印象だった。
「北の湿地帯から沸き出た蛮族に、集落を奪われたそうです。今は天涯孤独の身…何やら他人事とも思えませんでしたので、私が見受けすることにしました」
「見受けって…今の状況で…」
アマーリエは狼狽を隠せない。
「大丈夫ですよ。この娘の面倒は、私が見ます。なかなか、育て甲斐がありそうですしね」
そして、ロロ=ノアは腰を曲げ、座ったままのアマーリエに顔を近づけると、顎をそっと指先で触れる。
「あなたの面倒も、引き続き、私が見ます。お天馬姫が二人になった程度、何ともありません。どうぞ、ご安心ください」
「肉食の獣を兎と偽る奴だ。忘れるなよ」
クルトが嫌味を込めて、アマーリエに忠告した。
食事が終わると、まだ日が高いうちに集落を目指して出立しようと、ロロ=ノアが告げた。
ひとときの楽園との別れに、誰もが後ろ髪を引かれる。
結局、名も知らぬ大ネズミの肉を、ロロ=ノアもレオノールも口にしないままだった。
道中、草むら中に横たわる死体を発見する。
ロロ=ノアが一行に静止を命じると、自身単騎で先行し、道端に伏した死体を調べる。
細身の蛮族の死体の様だ、とアマーリエは思った。
ロロ=ノアが腰のレイピアを抜き、死体を小突く。
アマーリエは馬を移動させ、草むらの死角から抜けて死体がよく見える位置についた。
まるで麻袋のような粗末な服を身につけた、蛮族の死体。
その脇腹が、奇妙だった。
地面と接する部分が、雨で風化した石灰岩の様にズブズブとなり、剣先が服を持ち上げると、糸を引いた。
戻って来たロロ=ノアは、騎士たちに辺境に蔓延る風土病について、説明をした。
「赤糸病は、接触することで感染すると言われています。他に死体があっても、くれぐれも、近づかぬよう、お気をつけください。感染は必ずではありませんが、感染後の死亡率は10割です」
目指していた集落は、人気がなく、すでに荒廃していた。
焼けた家屋があったため、何者かの襲撃があったのかも知れない。集落を襲う者は、蛮族の他にも挙げればキリがない。
廃墟を通過しながら、辺境に暮らすことの過酷さを、騎士たちは痛感せずにはいられなかった。
しかし、その夜、騎士たちはささやかな晩餐にありつく事ができた。
屋根のある場所で、暖かい芋汁、薄めたどぶろくを手に、4日ぶりの休息に騎士たちは大いに喜びあった。
廃屋が並ぶだけであった集落の跡地から、いにしえの街道を半日ほど進んだ先に、別の集落があったのだ。名もない小さな村に過ぎなかったが、村長は騎士たちを自宅に招き、精一杯のもてなしをした。
「ほれ、姫。俺の酒を呑め」
小柄ながら、固い筋肉の上に贅肉を包んで丸めたような無骨な騎士オラースが、上座のアマーリエの元までどぶろくの壺を手にやってくる。彼は、彼女に杯を空けるよう仕草をし、飲み干したことを見計らって、自分の壺の酒を並々と注いだ。
「おい、量が少ないんだ、水で薄めんと行き渡らんだろう」
スタンリーが苦言を呈するが、赤ら顔のオラースはそれを手であしらう。
「あなた、もう酔っているの?」
アマーリエの問いかけに、彼はウィンクをして返す。
面倒なので、一気に呑み干してやった。
オラースは目を丸くした。
「オラース、姫はザルなんだ。知らないのか?」
シュタッツに声をかけられ、オラースは呟いた。
「貴重な酒を無駄にした…」
壺を抱えたまま、彼はヨタヨタと歩き、一人で飲み食いしているギレスブイグの肩を掴み、彼に無言であしらわれると、仲の良いジャン=ロベールの隣の席を見つけ、どかと腰かけた。
アマーリエが舌打ちすると、村長が彼女の杯を満たしてくれた。
「あ、ありがとう。皆、底なしですから、適当なところで切り上げてください」
人間族とドワーフ族のハーフの様な印象の村長は、ふくよかな頬に微笑みを浮かべる。
「何をおっしゃりますか。西方のご立派な騎士様たちをお迎えできて、身に余る光栄です。せっかくの機会だというに、この様な粗末な設えしかご用意できず、恐縮でございます。きっと、先祖も不甲斐無きやと悔やんでおりましょうて」
村長は家族を紹介し、次いで村の暮らしぶりから、農産品、加工品などの話をアマーリエに聞かせた。
「道すがら、廃墟を見ました。辺境の暮らしは、さぞや大変な苦労なのだろうと胸を痛めましたが、この村のように逞しく、勤倹力行に努める方々もいらっしゃる事を知って、暗夜に灯りを見る思いです」
アマーリエが返答している間に、村長の隣にやってきたクルトが、膝を付けてテーブルに片手を掛ける。
「で、村長殿のお望みは、何だ?」
「ちょ、クルト。せっかくのご厚意にそんな言い方は失礼よ」
「アマーリエ…」
クルトは右手で顔を拭く仕草をする。
「そんな、望みなど、滅相もないことで。何も気にせず、ご歓談いただければ、それで…」
「村長…」
クルトは、目を合わせずに仕草を交えて、ゆっくりと話す。
「俺は、まだるっこしいのは苦手なんだ。それに、トラブルを解決したければ、早く伝えた方がいい。そうでないと、皆酔い潰れて、明日は昼まで寝ることになるぞ」
「それは、構わないのですが…」
村長は困り顔で、汗を拭う。
その様子を見たアマーリエは周囲を見渡し、自分のすぐ背後にロロ=ノアがいることに気づいた。目が合うと、彼女は無言で頷く。
アマーリエも頷き、クルトと村長の話の成り行きを見守ることに決めた。
「実は…蛮族に、村の若者が連れ去られまして…」
村長は、近くに控える妻と目線を交わした後、意を決した様に、静かに語り始めた。
村長の話はこうだ。
二週間ほど前の深夜に、蛮族の群れが村を襲った。村人は抵抗したが、その際に娘を一人、連れ去られた。
翌朝、村長は若者たちを集め、総出で蛮族の住処を襲撃しに出かけたが、強い抵抗を受けて引き上げざるを得なかったという。
「その娘を、取り戻していただきたいのです…とはいえ、もう生きてはいないかも知れませぬ。せめて、その亡骸だけでも見つけ出し、きちんと埋葬してやりたい」
アマーリエたちが神妙な雰囲気なのを悟った騎士たちは、いつの間にか馬鹿騒ぎをやめていた。
静かな部屋の中で、村長は顔をこわばらせて、そう伝えた。
「どうやって、住処を見つけたのだ?」
ハルトマンが、村長に問いかける。
「最初の襲撃の時に、跡を付けさせたのです」
ハルトマンは、片眉をあげて質問を続ける。
「ほぉ…なかなか手際が良いな。相手は、何体ほどいるのだ?」
「襲撃して来た者たちは、おおよそ50体ほどかと…」
「でかいのはいたか?」
「いえ、人ほどの大きさと、小鬼が半々程度かと」
「住処では、どれほどを相手にした?」
村長は口ごもる。
「なにぶん…地下遺跡の中に棲みついておりましたので、全体像は…」
「地下遺跡…そこまでの距離は?」
「一日半ほどでございます」
村長がそう答えると、オラースが腰を上げた。
「ならば、早朝に出立し、一晩の野営の後、昼頃に攻め入ろう!」
ハルトマンは彼へ向けて手で制し、アマーリエの目を見つめた。
アマーリエは、背後を振り返る。
ロロ=ノアが発言した。
「我々の目的は、蛮族退治ではありませんよ」
「だが、兵は詰まるところ、民に他ならない」
クルトが、間髪おかずに言い放った。
ロロ=ノアは、アマーリエに視線を戻す。
アマーリエは、しばらくロロ=ノアを見つめてから、クルトを見て、ハルトマンを見て、騎士たち全員へ視線を送った。
誰も、何も言わなかった。
最後に村長を見ると、彼は手を合わせてアマーリエに懇願した。
アマーリエは一度口を開きかけ、考えをまとめ直してから、再び開いた。
「皆の気持ちは分かっています。私もきっと、同じ気持ち…この村の人たちは、今まさに夜の闇に怯え、固く戸を閉ざして朝の到来を願っているに違いありません。オラースの言う通り、明日の日の出と共に出立し、蛮族の根城を襲撃し、これを根絶やしにします!」
一瞬の間の後、ロロ=ノアが杯を掲げながら叫んだ。
「辺境の騎士団に勝利を!」
『勝利を!』
騎士たちが続いて発し、一斉に杯を空けた。
アマーリエは大きく目を開き、部屋に灯るたくさんのランタンの光を、その若草色の瞳に映し出した。
翌朝、アマーリエはジト目で騎士たちをぬめ付けた。
「だから、早く寝ようと言ったのです。結局、朝まで呑んで、この為体ですか!」
あの後、肩の重りを外した村長が、景気付けと称して秘蔵の葡萄酒樽を持ち込んだ。くだを巻いた騎士たちに、何だかんだで朝まで付き合わされたのは、アマーリエも同じだったが、彼女が甲冑を着込んで外に出ると、ロロ=ノアとレオノールの二人だけしかいなかった。
当てがわれた騎士団長用の小部屋に戻り、全員参集の報告を待った。ようやく呼び出された時には、すでに昼になっていた。
「食糧も水も、村長が整えてくれました。レースのハンカチーフは、お忘れでないですね?さぁ、それならば、出発しましょう」
「皆、大人の年齢だろうに。人間というのは、だらしがない」
ロロ=ノアの揶揄にも、レオノールの身分をわきまえない嫌味にも、誰も反論する者はいなかった。
従者と馬を2組だけ村に残し、騎士団は出立する。
蛮族の襲撃が、騎士団と入れ違いに起きてはいけない、という話も出たが、ロロ=ノアは戦力の分散は極力避けたい意向を述べ、早馬だけを残すことにしたのだった。
現地までの道案内として、地下遺跡まで跡をつけた村の狩人が同行する。
村人たちは、総出で騎士たちの出立を見送ってくれた。
空高くにはヒバリが鳴き、地面にはツグミの群れが虫をついばむ。
白い雲はゆっくりと青空を泳ぎ、春の風は頬に心地が良い。
昨日までとは、まるで別の土地のように思えた。
変わったのは、土地の印象だけではない。
馬の背で、互いに語り合いながら進む騎士たちの様子を見て、アマーリエは彼らの表情が昨日までとは一変していることに気づく。
自明の理だ…アマーリエは思う。
故郷奪還のための旅とはいえ、昨日までは逃避行の延長だったのだ。それが、今日からは村の人々を救うための戦いの開始…明確な喫緊の目標を得たのだ。相手は蛮族。剣の神の守護を得た“剣の子ら“にとって、それは大義に他ならない。
人族と蛮族は、“戦記“に記された古代より、互いに生存圏を争い合い続ける宿的同士なのだから。
「村人たちを見て、どう思った」
ハルトマンが、クルトに語りかけた。
「あぁ、それだが…怪我人が、少なかった…特に、若者たちの怪我人は、老人たちと同じ程度の比率でしかない」
謎かけでもしているのだろうか…アマーリエは、二人の会話に耳を傾ける。
「そうだな、それに、二週間前の傷とも思えん」
「だな」
ハルトマンの応えに、クルトは相槌を打った。
二人は、それきり会話をやめてしまう。
「…」
アマーリエは、目を寄せて思案した。
「ちょっと、何の話?気持ちが悪い。どこに、どういう意味があったの?」
藪から棒に間が悪いが、堪えきれず、ついに問いかけた。
「あぁ、気にするな。ただの深読みだ」
クルトにいなされて、アマーリエはハルトマンに視線を向ける。
「あまり、愉快な話ではないぞ。クルト卿は、それを斟酌して口を噤んだのだ」
「いいから、教えて」
間髪置かない返答に、ハルトマンは両手を広げて観念した。
「娘一人だけを助け出す、という話がそもそもおかしい」
「…どうして?連れ去られたのでしょう?奪い返したいじゃない」
「深夜の襲撃だぞ?きっと、それは奇襲であるべきだ。戦闘のごたごたで、娘一人だけ、根城まで持って行かれたと何故、断言できる?」
「翌朝、点呼を取ったら、いなかったのよ。小さな村でしょう。みんな顔見知りなのよ」
「では、根城を襲撃した際に、誰も死ななかったのか?その者の死体は、ほったらかしで良いのだろうか」
「だから、死ななかった、という意味なんじゃないの?きっと、恐ろしくなって、ろくに闘いもできずに逃げてしまったのよ。命のやりとりなんて、実際に怪我を負うまでは、なかなか踏み込めるものじゃないから」
「二週間も経てば、浅い怪我ならあらかた完治する。だが、早朝から子どもを抱いて見送りに出られるほどの軽傷者が、何人もいたのは何故だ?」
「深かった怪我が、ようやく治りかけてきたから」
クルトが、笑った。
「アマーリエ、お前は意外に才能があるな」
「どういうこと?もしかして、私を馬鹿にしてるの?」
アマーリエは鞍の上で身を反転させて、クルトに噛み付く。
血相を変えたアマーリエに、降参の意思を手のひらで伝えながら、クルトは答えた。
「そうじゃない。思考することは、大事なことだ。俺たちには見えていない、事情や心情がそこにあるのかも知れない、そう慮ることは大切だと言っている。その点で、君は優れている」
煙に巻かれたような表情をして、アマーリエはハルトマンに向き直った。
「話を続けよう。なら、何故、村の柵は補修された形跡がない?次また、いつ襲われるのか、分からんのだ。家はまばらだが…村長の家など、村の中心となる場所に、石垣を築くのが、この場合の真っ当な対応だとは思わないか?」
「それは…」
アマーリエは顎に手を当てた。
「柵を作ったら、ダメだと言われた?」
ハルトマンは、ニヤリと笑った。
「そういう場合も、あるだろうな。つまりは…」
「交渉している!?」
アマーリエは手をポンと叩いた。
「村の襲撃は、実際にあったのだろう。村長は、“最初の襲撃“と言った。村は、二度以上、襲われている。あの道案内が跡を付けたのは、二度目以降の襲撃の時だろう。だが、一度目は跡を付けなかった。その必要性は、少なからずあるはずなのだが…その時には跡をつけたことが露見する危険性の方を重視したのだろう」
「…その割には、村の被害が少ない」
「そういうことだ」
アマーリエは、前方5m先を歩く狩人の後ろ姿を見やった。彼は、話が聞こえている可能性が高いのに、一度たりと振り向きもしない。アマーリエは結論づける。
「跡をつけたのは、現状維持では村の将来が無いと悟った、二度目の交渉時ね。多くの怪我人が出たのも、その時。さらに言えば、地下遺跡への遠征は行われていない」
「それが、被害者一名の理由だろう」
「でも、蛮族との交渉なんて知れたら、ボードワンあたりは…うぉッ」
戦の神アドルフィーナの司祭位を持つ、老練の騎士が、アマーリエのすぐ背後に馬をつけていた。
「今は、目を瞑るしかあるまい。今度ばかりは、な。西方でも片田舎では、珍しくも無い話だ。ましてや、ここは辺境…アマーリエ、彼らの生活を守ることが、自身の悲願に繋がると心得よ」
アマーリエは唇を噛み締めた。
「あっしは、ここまでで…あの、帰らせてもらいやす」
崩れ落ちた石灰岩の断層に、地下遺跡の入り口はあった。
“戦記“によれば、辺境の地と呼ばれるタラントゥース半島は、西方に人類が足を踏み入れた最初の大地とされている。その最南端の岬には、無数の古代遺跡群が眠り、今では蛮族たちが跋扈する未踏の土地へと成り果てている。これらの古代遺跡は堅牢な構造であることが多く、中でも地下にある遺跡は、夜行性の蛮族が棲まうには、絶好の楽園とも言えた。
断層面に露出した通路の途中のような入り口は、周囲の岩石とは材質の異なる、青黒い石が用いられている。蔓に覆われてはいるが、今なお、綺麗なアーチ型を保っていた。
「お前の村には、俺たちの仲間が待機しているのだ。お前も、連絡係としてここに残れ」
癖の強い黒髪を不均等に伸ばしたギレスブイグが、道案内の襟首を掴んで持ち上げた。間近で顔を覗き込まれると、彼は首をカクカクと何度も上下に動かした。
「人選をした方が良さそうだ」
アマーリエは、黒装束の騎士ギレスブイグの意見に頷く。
「まず先に、斥候隊に入り口周辺の索敵と、罠の警戒を行ってもらう。何事もなければ、騎士だけの先遣隊12名で侵入します。私と紋章官も、これに続くとして…残りの者は、騎士1名に従者を5名ずつ配置して、10個の小隊を編成してもらいます」
「僕も先遣隊に加わるよ!」
ミュラーが、元気に手を挙げた。
アマーリエは目を細めて、彼の視線を押し返す。アマーリエの亡父は、剣術道場を開き、ミュラーは幼い頃から彼女と共に学んだ。アマーリエは、彼が古代王朝期の文献や、骨董品、建築物に興味を持っていることを知っていた。
ミュラーの手を下ろして、代わりに自分の手を挙げようとする騎士たちに、小柄な彼は押し潰される。
「なお、人選に関しては抽選とします」
くじ引きの準備を従者たちが行なっている間、騎士たちは道案内の役目を終えて早々に帰りたがっていた狩人を囲み、無理矢理に情報を聞き出した。
それによれば、捕まったのは羊飼いをしていた娘。どうやら、孤児であるらしい。
いよいよ、推察に真実味が増してくる。
また、狩人は少年時代に、この遺跡を遊び場にしていたらしい。
話では遺跡の奥行きは20mほどで、土砂に埋もれて先には進めないという。
だが、帰還した斥候隊の報告とは、異なっていた。
確かに天井が崩れた形跡はあったのだが、土が退けられ、奥まで道が続き、それはすでに多数の裸足の足形により、踏み固められているという。
「こいつが、それだな」
ギレスブイグが、遺跡の入り口の脇にある、こんもりとした山を指差した。
すっかり草に覆われて気付き難いが、そう言われてみると、掘り出した土砂を積み上げた形跡のようだった。
斥候隊が敵に遭遇することはなかったが、どうやら内部は十字路が連続する造りで小部屋が複数あり、その中には汚物や小動物の骨山があったという。
くじ引によって、先遣隊の面子が決まった。
第一小隊 騎士団長アマーリエ、副長ミュラー、参謀ロロ=ノア、参謀補佐レオノール、クルト
第二小隊 隊長ボードワン、ハルトマン、シュルト、ノイマン
第三小隊 隊長オランジェ、カルロ、ボルドー、ルキウス
残りの騎士たちは、遺跡の外で臨戦体制のまま、待機となる。長期戦を覚悟しての“戦略予備“という役割だ。従者たちは、野営陣地の設営にあたる。
松明の準備が終わると、ロロ=ノアが一同に告げる。
「話によれば、大型の蛮族はいないようです。しかし、奥に潜んでいる、という可能性もまだ、あります。接敵した隊は、単独で対処せずに、遅滞に努め、応援を呼ぶようにしてください。敵の戦力次第では、後退し、遺跡の外で一網打尽とする手筈とします」
ロロ=ノアは、号令をアマーリエに託す。
「では、出立します!」
幾分、小さな声の号令を受け、騎士たちは2列縦隊で遺跡の中へと足を踏み入れた。
松明に照らされた石壁は、しっとりと濡れ、内部はひんやりとした空気で満ちている。
土が被った石畳は、若干奥に向かって傾斜しており、鉄履では歩きにくい。
ミュラーが石壁に短剣を当て、興奮気味に語る。
「見てくれ、刃が欠けたよ。一見、砂岩に見えるけど、もっとずっと硬質な岩だ」
「何がそんなに嬉しい?」
ボードワンがげんなりと呟くと、彼は一度、天を仰いでから捲し立てた。
「ここいらの岩盤は、石灰岩だ。いったい、どこからこの大量の石材を運んで来たんだい?」
「後ろがつかえてるんだ。悪いが、進んでくれないか」
オランジェが苦情を述べる。
ミュラーは首を振って、歩き始めた。
すぐ左脇に、大きめの部屋があったが、崩れ落ちた土砂があるだけで、特に何もない。やがて20mほどで、土砂崩れの痕跡に辿り着いた。
互いに手を差し伸べ合いながら、土砂の山を乗り越えると、道の傾斜が無くなる。
地盤が動いたのかも知れない。
湿気がいっそうに増し、騎士たちの冷えた甲冑の表面が結露し始めた。
ほどなく、十字路が現れた。
「ボードワンは、右手。オランジェは左手をお願いします」
アマーリエの指示を受け、ボードワンはニヤリと微笑んだ。
「何?」
アマーリエの問いに、ボードワンは「何でもない」と答える。
正面の道を、アマーリエの小隊が進んだ。
隙間が開いた石壁からは、木の根が垂れ下がり、髭のように細く伸びた先から水滴をしたらせる。
それらが顔に触れるたび、アマーリエは肝を冷やした。
「隊長、少しお止まりください」
レオノールのかぼそい声に振り返ると、彼女はロロ=ノアに肩を貸していた。
籠手を脱いでロロ=ノアの首筋に手を当てる。
「体温が下がっている。引き返した方がいい…」
その手を、ロロ=ノアが優しく握り返した。
「生理ではありませんよ。精霊力の問題なのです。急激に力を失ったため、眩暈がしているのです。すみませんが、少しだけゆっくり歩いてくだされば、それで結構。じきに身体がなじみます」
「いいから、腰を下ろして。皆も少し休みましょう」
「俺が前に出て、辺りを警戒しておく」
アマーリエの呼びかけに、クルトが答えた。
レオノールに支えられながら、ロロ=ノアは大人しく腰を下ろす。
彼女は地面に付いた手の平を、汚れを気にするかのように、しげしげと眺める。松明の灯りでは、血色を窺い知ることはできなかったが、重症の様子でもない。軽い貧血、といったところかと、アマーリエは思った。
「すぐそこに、小部屋がある。調べておく、ミュラーはアマーリエの側にいてくれ」
先頭に出たクルトが戻って来て、そう報告すると、また一人で進み出す。
「ちょっと、何かあったら…」
「何かいたら困るから、安全を確かめておくんだろ」
クルトの持つ松明の灯りが、壁の中に消える。
ミュラーは肩をすくめてみせた。
それにしても、カビ臭い…アマーリエは、内心で毒づいた。
強い湿気と、土とカビの臭い、そして、うっすらと腐臭もする。
あまり長居していい環境とは、思えなかった。
ほどなくして松明の灯りが現れ、そのまま近づいて来た。
「何か、あったの?」
アマーリエの問いに、クルトの返事は曖昧だった。
「何か、妙な物があるんだが、俺じゃ分からない。もしかすると、ミュラーやロロなら、分かるかも知れない」
「…では、行きましょうか。少し座ったら、良くなりましたから」
レオノールが、まだ早いと告げるが、ロロ=ノアは笑を浮かべて立ち上がった。
アマーリエは、ふと浮かんだ疑問を口にした。
「レオノール、あなたは、平気なの?」
彼女もエルフ族であり、多少の精霊術を会得していると聞いていたからだ。
「座位が異なります」
「ざい?」
ロロ=ノアは、アマーリエの腰に手を当て、先に進むように促した。
クルトが見つけた部屋の扉は、蝶番が錆びて崩れており、すぐに内部を伺い知ることができた。
大きな部屋だ。
ミュラーが、アマーリエを押し除けて中へ踊り込んだ。
壁いっぱいに棚が置かれ、錆だらけの機械がそこに並ぶ。中央には大きな机があり、その上には血管のような形状の管が無数に交差する、奇怪な機材が置かれている。
ミュラーは古物品収集を趣味としていて、古代の建築などにも詳しい。彼にしてみれば、宝の山に出会したような心境だろう。
ミュラーがその表面を撫でると、土埃がはがて、透明感のある材質が現れた。
「クリスタルをこんな形状にするなんて…どんな技法なのかしら」
アマーリエが感嘆の声を上げると、ミュラーがそれを否定した。
「これは、クリスタルガラスじゃないよ。いわゆる“古代の御業“というやつだ」
「何に使う道具なの?」
アマーリエの問いに、今度はロロ=ノアが、ふふと笑って答えた。
机の端から、四角い塊を持ち上げる。
「その答えはきっと、これに記されているはず」
「本かッ…見せてくれないか」
ミュラーは、彼女の手から土まみれの塊を奪い取る。
「重い…古代の書物だよ。装丁は牛皮か?中身も…古代の書物は、今よりもずっと、上質な紙を使用してるんだ。とはいえ、湿気の所為でページがひっついてる。これは、一度持って帰って、丁寧に調べる必要があるね」
言い終わるが早いか、クルトがさっと本を奪い、机にドンと置き、バッと開いた。
メリッ…という音が聞こえた。
「あぁ!なんて事をッ」
クルトはミュラーを片手で抑えながら、松明の灯りを本に近づける。
「なんだ、白いページで文字が見えないぞ」
次のページをめくろうとする彼の手を、ミュラーは手を伸ばして抑える。
「繊維の結合が弱くなってるんだ。いったん、綴り紐を解いて、慎重に分解しないと…」
クルトは手を払うと、構わず次のページを開くが、メリメリと紙が剥離しただけだった。
「あぁ、だから、繊維の結合が…」
「古代の研究なんて、今はどうでもいい。すぐに見れないなら、諦めろ。ここが、敵の根城だって事を忘れたのか?」
「忘れちゃないけれど…」
どこからか拾い上げた小瓶を松明にかざしながら、ロロ=ノアが二人のやりとりに口を挟む。
「とはいえ、精霊の減退と、古代の研究施設、気になるところです。今回ばかりは、私は戦闘では役に立ちそうにありません。ほんの少しばかり、二人でここを調べてみたいのですが?」
「お前が戦闘で役に立つところは、まだ一度も見ていないぞ」
クルトの皮肉に、エルフの紋章官は片目をつぶって応える。
「でも…それは、今やるべき事なの?」
流石に、アマーリエも否定した。
ロロ=ノアは、小瓶の蓋を開けると、左手の平にそれを垂らす。
「ロロ様ッ、どんな薬物かも…」
レオノールが、悲鳴にも似た声をあげた。
ロロ=ノアの手のひらから、肉が焼けるような音と、臭いがした。
「酸の類なのか?すぐに水で洗わないと…」
クルトの声に、彼女は手のひらを見せて微笑む。
「私の手は、なんともありません」
「じゃ…何が焼けたんだ?」
「それを、調べるのです。なるべく、早急に済ませます。よろしくて?」
アマーリエがミュラーの顔を見ると、彼は激しく頷いた。
ため息混じりに、アマーリエは承諾した。
「では、私とクルト、レオノールで捜索を続けておきます」
「私は、残ります」
…。
レオノールの断とした宣言に、アマーリエは、思わず返答に窮した。
説得か、命令か、それに迷ったのだ。
口を開くよりも前に、ロロ=ノアが申し出る。
「すみません。この娘は、書物の解読に集中しきっている二人が、魔物に襲われることがないよう、警護をしたいと申しているようです。まずい言い方なのは、今後、改善するよう私がお約束いたしますので、ここは何とぞ」
「行くぞ、アマーリエ」
不機嫌な態度を露わにしながら、クルトがさっさと部屋を出てしまう。
ミュラーが本を抱えながら、アマーリエに声をかける。
「他の小隊と合流するんだ。クルトの腕は確かだが、二人だけでは危険だよ」
アマーリエは、困り顔で部屋を後にした。
松明を持たないアマーリエは、慌ててクルトの元に駆け寄る。
しばらく無言で歩いてから、急にアマーリエは愚痴をこぼした。
「だんだん、イライラしてきたわ。何が、二人だけでは危険だよ、よ。どの口が言うのかしら、まったく」
「あのな…ミュラーのやつも大概だが、俺は、お前にこそ文句を言いたい」
「なんで、私…あぅ」
言いかけて、アマーリエは何かにつまずいた。
クルトが近づいて、松明を照らす。
薄汚いボロを纏った、半裸の蛮族だった。
クルトが剣先で突くが、反応はない。
「土が被っていない。腐ってもいないな。死んだばかりに見える」
「仲間割れ?」
「どうだろう…傷を見て…待て、何だ…これ…」
足で身体をひっくり返そうとすると、糸のようなもので地面に張り付いている。
身を屈めて松明を照らすと、腹部の皮膚が溶けるように爛れ、その垂れ下がった皮膚が石畳の隙間に挟まっていた。
「何だよ、こりゃ…気持ち悪いな」
「昨日見た死体と同じだわ」
「のたれ死んでいたやつか」
「そう」
「…伝染病なのか?」
クルトの言葉を合図に、二人は死体からさっと飛び退いた。
二人は無言で顔を見合わせると、同時に頷きあう。
そして、踵を返そうとしたその瞬間、地下通路に悲鳴が轟いた。
「ひゃぁ!何っ!?」
「カルロの声だ。こっちだ!」
クルトは、アマーリエの手を引いて走り出した。
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