第10話 足りない、足りない

―――――――――実家。


「母さん、ごめん。」


母の痕の付いた体で彼女を抱き寄せていた。


「なにが?」

「また傷つけた。酷い事言った。」

「ちょっと傷付いた。でもあの日以来。」

「麗美…どこも行かないで。お願い…誰にも行くな。」


母の手を僕の首へと導いた。


「行かない。あんたがいればいい。」


麗美から唇を重ねた。



「……。」


僕は目をぎゅっと閉じた。


「どうしたの?」

「…麗美。」

「うん?なに?」


僕は麗美を強く抱きしめた…。


「…もう嫌。」

「なにが嫌?」

「足りない…母さんが足りない…。」

「泣かなくていい。」

「麗美…足りない。足りないよ…。」


母は少し困った顔をしていた。


僕は…やっと気付いた。

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