第9話 消えてなくなる
「流星!!…」
ベランダから浮く寸前、凜音に引き戻された。
「良かった。間に合った…。」
「凜音…なんで?もういいじゃん。凜音も楽になれるよ?俺居なくなったら。」
「ならないから。だから一緒に居るの。」
「…じゃあ母さん消して。俺の中から母さん消して。」
「…苦しいよね。」
「凜音…助けてよ。」
「…大丈夫。私いるよ?ちゃんといるよ?」
「…母さんが無くなっちゃうよ。」
「…お母さんと話す?暫く話してないんじゃない?」
―――――――――――――――。
凜音は母を自宅に呼んだ。
母は少し心配そうな顔で僕を見ていた。
当の僕は凜音の傍から離れなかった。
心が苦しい…。
そんな僕に母が言った。
「流星、あたし男作っていいかな?そうしたらあんたも苦しまなくていいんじゃない?どこかで諦めつくでしょ?」
「……好きにして。母さんなんもわかってない。俺が好きだった麗美はもう居ない。もういい。消えろ…消えろ!!…お前なんか母親でもなんでもない!!消えろ!!……」
僕は過呼吸を起こしていた。
そんな僕に真っ先に体が動いたのは母だった。
母は僕を包み込んで背中を撫でた。
「大丈夫…ゆっくり呼吸して…ゆっくりでいいからね…」
頭がフラフラしていて、真っ白になりそうだった…。でも反面、久しぶりの母の匂いに安心している自分もいた。
――――――――――――……暫くして落ち着くと、僕はずっと母に包み込まれていた。
「麗美…」
「なに?」
「麗美が消えてく…もうほとんどない。どこ探しても俺の体に麗美が居ない。」
すると、母は凜音に話しかけた。
「凜音ちゃん。あたしと同じことしてあげられる?それを求めてるこの子の事受け入れられる?」
「……出来るとは言えないです。でもなんでそうなっちゃったんですか?そうしなきゃいけないんですか?」
「流ちゃん。本当はあたしと対のモノ入れたいんでしょ?」
「うん。」
「ねぇ。そうしたらずっと私といられるもんね。」
「『対のもの』?」
「麗美の背中にはでっかい虎がいる。赤い目の。俺も入れたかったのに反対された。この人に。」
「理由、覚えてる?」
母は僕の頬を両手で包み込んで僕の目を見た。
『背負わない苦しみより、背負う苦しみの方が大きい時が来るから』
「そう。いい子。覚えてたのね。」
僕はたまらず母を抱き寄せた。
「凜音ごめん。。俺、この人殺していい?そうしたらお前も苦しまなくていい。俺の変な姿も見せなくていい。」
「あたしはそれでいいよ。あなたに殺させるなら本望だから。」
「……私、無理だ。ごめん。」
「麗美、戻っていいか?」
「戻っておいで。」
「…麗美でいっぱいにして。毎日死にたい。麗美が居なくて…死にたい。」
「……重症ね。でも大丈夫。もう独りじゃない。」
―――――――――――――――翌日、荷物をまとめて母の元へ戻った。
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