第3話
広く無機質な部屋。中央に置いてあるベッドに、今は規則正しい息遣いで呼吸をしている人間の女の子。汚れていた衣服は綺麗なものに変えられて、特に酷かった手の傷も治されている。
キイッ、パタン。
「ガウ?」
扉を開けて虎の魔獣の幼獣が入る。扉の取手は頭上にあるが、魔法を操り自分で開閉することができる。ここのダンジョンマスターが魔法に特化した世話係を作った結果である。
ピクピク、ピンッ!
部屋の中に入って、耳をぴくぴく動かして中の様子をうかがっていた幼獣は、何かに気づいたらしく耳を立てる。
「……ぅ」
「ガウッ!」
パタタタッ。
幼獣は中央にあるベッドへと向かって走る。そこにいる人物の世話をするのが自分の役目だと本能で察して。
トンッ、ポスン。
ベッドの上に着地をする。もちろん、女の子を潰してしまわないように。
クンクン、クンクン。ペロッ!
「ガウゥ」
タシタシ、タシタシ。プニッ、プニ。
匂いを嗅ぎ、頬を軽く舐める。そして軽く身体をタッチしたり、自分のプニプニな肉球を押し付けたりする幼獣。まるでそこに眠っている女の子に、早く起きてくれと催促するようにその行動を繰り返す。
「ぅんっ……」
何回か繰り返された後、くすぐったそうな声が漏れる。しかし、まだ眠ったままである。
「グルゥ……」
プニニッ、チョンチョン、タシタシ、ペロッ!
先ほどの行動に鼻先を押し付けることを追加して、また同じことを繰り返す幼獣。
「ううん……っ」
先ほどよりも、はっきりとした声を出す女の子。くすぐったさから逃れようとしているのか、幼獣から距離を取ろうと寝ている姿勢を変える。
「グルッ!」
逃げちゃダメというように、離された距離を縮める。そうしてまた先ほどと同じ行動をする。
「う、う〜ん?」
パチリ。しつこく繰り返されたせいか女の子が目を覚ました。
「あ……れ?」
パチクリ瞬きを繰り返す。その後、ゆっくりと身体を起こして自分の体が綺麗にされているのと傷がないことに気づく。
「私の傷、治っている?」
まじまじと傷だらけになっていたはずの手を見る女の子。本当に治っているのかを確認するように、手を握ったり開いたりしている。
「私、どうなったの?」
不思議そうにあたりを見渡す。すると……
「ガウッ!」
「きゃあっ!」
待っていましたというように、一生懸命起こしていた幼獣が女の子の胸元に飛び込む。勢いよく飛び込んだせいか、女の子はふたたびベッドに横になってしまう。
スリスリ、スリスリ。女の子が起きた時に一時的に離れていた幼獣は、やっと起きたのかと言うように自分の頬を女の子に擦り付ける。
「え……、虎? ちっちゃいから、まだ子供かな?」
ベッドに寝転んだまま、自分にスリスリしている幼獣を見る女の子。虎は虎でも魔獣の虎であるが、魔の気を出していないので間違えるのは無理もない。
「キュゥ!」
幼獣は自分がお世話をする女の子が起きて嬉しいのか、甘い鳴き声をあげる。
「あなたはこの部屋の持ち主のペットかな?」
虎がペットって聞いたことがないけれど、と女の子が言う。
「キュウウン?」
幼獣は女の子に話しかけられて擦り寄るのをやめる。何? と聞くように首を傾げる。
「私はどうしてここにいるの?」
「グル?」
「ここはどこかな?」
「グルッ!」
「誰が私を助けてくれたの?」
「グルルッ!」
「どうしよう……。なんて言っているのかさっぱり分からない。私の言葉に返事をしてくれている気がするんだけれど」
「ガウッ!」
「っ!」
どうしようと悩みながら幼獣を撫でる。ひとなでした途端、あまりの肌触りの良さに驚き撫でる手が止まらなくなっている。
「はわわわわわっ! 撫でる手が止まらないよ〜っ!」
なでなで、なでなで。毛並みに沿って撫でられている幼獣。気持ちがいいのか、されるがままである。
その後女の子の手が離れるまでしばらく時間がかかった。
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