第2話

 正気のない表情で、ぼうっと扉を見つめる女の子。彼女を保護することに決めたのでこの部屋の扉は間もなく消えるだろう。


 さて。保護することを決めたのはいいが何からすればいいのか分からんな。とりあえず、傷の手当てが先か? それとも汚れを落とすのが先なのか? 人間を、しかも女の子を拾った(保護した)ことはないので、どうすればいいのか悩んでしまう。


 いっそのこと、配下の者に世話を任せるのもいいのかもしれないな。


「人間の女の子の、世話ができそうな者……」


 今いる配下の者たちを思い浮かべてみる。


「うう〜む……?」


 人間、女の子、世話。やっぱり、可愛いやつがいいだろう。勝手な判断だが。そして世話がちゃんとできる者。ザッと思い浮かべてみる。



 ――数分後――



「――いないな」


 いくら考えても、今の配下にはいなさそうだ。うっかり殺してしまいそうで危ない。仕方がない、いないのならば……


「作るか。新しく」


 俺、ダンジョンマスターだし。新しく作り出すのもいいのかもしれないな。


「どうせなら、彼女に合った配下を作ろうかな?」


 何がいいのだろうか? 男だったら、かっこいいドラゴンとかゴーレムとかを考えるんだが。世話ができるかは別として。


 消えそうな昔の記憶を掘り起こす。俺がまだ“人間”だった頃の、遠い昔の記憶……。


「ぬいぐるみ……か?」


 女の子といえば可愛いぬいぐるみがいいのかもしれないな。問題は何のぬいぐるみにするかだが。


「犬、猫、兎、熊……いや海の奴らも。迷うな」


 実際にはあまり可愛くなさそうな生物も、デフォルメされて可愛くなっていたな。いっそのこと、ドラゴンをデフォルメ……? 可愛いよな? そうする?


「グルルゥッ!」


「うわっ!」


 いっそのこと、デフォルメして可愛くしたドラゴンにしようとしたら、新しくレアボス部屋に配置しようとしたモンスターに止められた。 何でだよ?


「デフォルメだぞ? コロっとした感じで、可愛いぞ?」


「グルルッグルッ!」


「ダメ? 自分のデフォルメがいいのか?」


「グル〜ッ!」


 成程、確かにこいつのデフォルメも可愛いはずだ。なんてったってモフモフだからな。特に腹の毛が気持ちよくておすすめだ。


 こいつは白いトラの魔獣で特別に背中に翼を生やしました。普段は畳んでいて攻撃や飛ぶ時に開くぞ。なんと羽は攻撃手段にもなる優れものだ! かっこいいだろう? 俺が作りました!


「お前の姿もいいんだけれどな。かっこよすぎて、泣いちゃうかもしれないし。デフォルメで慣らさせてから会わせよう」


 凛々しくてお気に入りの魔獣。俺が気に入りすぎてすっかりダンジョンに配置をするのを忘れていました! 最近ダンジョンで暴れたいと本人? 本獣? からの催促で、特別なレアボス部屋を作ったんだけれどなぁ。


「ごめんよ〜、お前の活躍の場を作ったんだけれどな。また新しく作るからもう少しだけ我慢をしておくれ?」


「グルッ!」


「ありがとう」


 こんなに優しくてかっこよくてしかも強い。俺が女だったら惚れていたね。……今男の俺でも、すでに惚れていたか! かっこいいし好みのやつだからな。作りだしたの俺だし。


「さてと、あの子用の世話係はお前をデフォルメしたぬいぐるみにしよう。魔法を使えるようにすれば世話はできるようになるよな?」


「グルッ!」


「お前をデフォルメするからには最高のぬいぐるみを作ってみせるぞ! きちんと世話もできるように、高精度の魔法も使えるようにして……」


 さっそく、どんなやつを作ろうか考える。虎の魔獣がお腹を見せて寝っ転がるので、その素敵なモフモフを堪能させてもらう。


「うう〜ん? この腹の毛を再現するには……」


 モフモフ、モフモフ。気持ち良すぎて撫でる手が止まらない。なんてものを作ってしまったんだ!


「ガルゥ!」


「ああ、すまない。お前の腹の毛が気持ちよすぎてな? 撫でる手が止まらないんだ」


 いや本当に止まらない。表面はさら艶に見えて、触るとふわモフ。作るときに、こだわっただけはある。


「ぬいぐるみではなくて幼獣にするか?」


 可愛くて世話ができればいいんだろう? 別にぬいぐるみではなくていいか。今更な気もするが、気にしない。気にしない!


「さっそく作ろう!」


 こうして俺は、彼女専用の世話をする虎の魔獣の幼獣体を作ることにした。ぬいぐるみは自分専用にあとで作ろう。






 その後、幼獣体を無事に作り終えたのはいいが、その間女の子を放置したままなのを忘れていたのは反省します。

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