パーティーメンバーに置いていかれた

エミリー

第1話

 とあるダンジョン内にある部屋。重苦しい気配が漂い始めている。もうすぐしたら、この部屋の主人であるボスモンスターが、姿を現すだろう。


「どうして!どうしてっ!何で開かないの?」


 今はもう、固く閉じられてしまっている部屋の扉の前で、必至に扉を開けようとする者がいた。


「イリス、ミレーヌ、クリスティ、キャロライン、ケイトっ! 開けてよ! いるんでしょう?!」


 仲間の名前だと思われる名を叫びながら、必至にここから出してと叫ぶ。


「どうして?どうしてよ! なんで私だけ置いていったの!?」


 どうやら1人だけ、仲間に置いていかれたらしい。必至に叫んで両手で扉を叩く姿は哀れである。すると、扉の外側から声がした。


「叫んでいないでさ〜、戦う準備でもしたら?」


「そうそう! ボス部屋だもんね。準備でもしたら生き残れるんじゃない?」


 仲間ではなかったのか?酷い言い草である。


「ミレーヌ?キャロラインも……どうして?助けてよ。私は支援職なの、知っているでしょう? 戦えないのも!」


 仲間の吐いた暴言が信じられず、また必死に叫び、仲間?に助けを求める。


「せっかくミレーヌ達がアドバイスしてあげていたのに。準備もしないで、あっさりボスにやられちゃうなんて、面白くないじゃない?」


 くすくすと笑いながら、また別の仲間が言う。いや、会話の内容からして仲間ではないだろう。


「ケイト……? みんな、どうしちゃったの?」


 わけもわからず、呆然と仲間の名を呼ぶ。顔を青くして、ガタガタと震えている。部屋の中は涼しいが、それが原因ではないだろう。


「うるさいな〜。早く死んでくれない?」


「えっ……?」


「うわっ!クリスティったら、直球!」


「みんなもそう思っているくせに」


『そうね』


 さらに言葉が悪化した。可哀想に残されたほうは、目を真っ赤にして泣いている。だが、ここまで仲間に一斉に見捨てられるとは……。実はメンバー達に何かしたのか?仲間だった者達から死んでくれと言われるとは。


「あんたばっかり、みんなから可愛がられてウザいのよ」


「そうよ。気になった人ぜーんぶ、アンタに優しいのよね。ムカつく!」


 ……ん?


「それでみんなで話し合って、私たちの手を汚さずに、あんたを消す方法を考えたってわけ」


「ダンジョン内で死ぬのはよくあることよ。ここから出たら可哀想な冒険者パーティーよ、私達は。大切な仲間を失った……ね?」


 なるほど、計画されていたことか。このボス部屋にわざと1人だけ残されたのか。ダンジョンで命を落とすのは、残念ながら、決して珍しくはないことである。

 

 ボス部屋でモンスターに襲わせる。確かに自分達の手を汚さずに済むだろう。嫌な頭の使い方をするな。そんなんだから、周りの人達も意中の男達も寄らないのではないだろうか。


「……」


 残されたほうは、ぼうっと扉を見つめている。目は泣いて真っ赤だし、扉を叩いていた両の手は、真っ赤に腫れ上がっている。血も少し滲んでいて、見るからに痛そうである。


 叫んで助けを求めるのも、扉を叩いて助けを求めるのも、無駄だと分かってしまったのだろう。自分が仲間にわざと殺されるために、置いていかれたということも……。


「あれ? もしかして、もう死んじゃった?」


「確かに。声も扉を叩く音も聞こえなくなったしね」


「ここがボス部屋なのは分かるんだけれど、レアボスでしょう?ランダムで現れる、滅多に出現しない部屋! 何がいるか分かっていないもんね。音がしないんじゃ、死霊系モンスターだったのかな?」


「そうかもね、音がしないし。あっさり殺された可能性はあるけれど」


 殺させにきたとはいえ、あまりにも軽すぎる会話である。1人の、かつての仲間の命が失われてしまったかもしれないのに。

 私怨で殺人をする。手は汚れないと思っているらしいが、わざと仲間を置いてボスモンスターに殺させようとするのは、立派な犯罪行為である。真っ黒である。そして、汚れている。


「つまんないの。泣き喚く声が聞きたかったのに!」


「悪趣味ね。最後に聞く声がそれでいいの?キャロライン」


「いいのよ。ちょっと可愛いからって周りにチヤホヤされてさ!イリスも一緒でしょう?」


「あ、さすがにバレていたか。」


『イリス達だけじゃなくて、私達もね』


 ふふふふ、と笑い合う声は事情を知らなければ、仲のいい仲間との会話である。実際はパーティーメンバーの1人をわざと、ボス部屋に置いてきて殺させようという、殺人をしているところだが。


 それも、戦えない支援職。戦えない者を逃げられない、他のモンスターよりも強いと言われるボス部屋に置いていく。まさに悪魔の所業である。


「ここにずっといるわけにはいかないし、そろそろ行こっか?」


「そうね。あっさり終わったのは、つまらないけれど……。いなくなってくれて、嬉しいわ」


「ちょっと、クリスティ!」


 やっぱり罪悪感がある仲間も……


「そんなに嬉しそうな顔をしていたら、怪しまれるでしょう!私達はこれから、メンバーの1人を失った、可哀想なパーティーを演じるんだから」


 いなかった。罪悪感のカケラもないのか、逆に感心してしまう。


 そうこうしているうちに、彼女達はここから離れていく。どうやらこのダンジョンを出るらしい。


 ご丁寧に目には涙を溜めて、さも仲間を失い悲しくて仕方ないという、表情を作りながらダンジョンを出ていく。

 その演技を続けて、冒険者ギルドに行くのだろう。……仲間の1人を失ったと報告をするために。


 今もぼうっと、扉を見つめている少女。初めの方には確かにあった生気が、今は感じられない。目のハイライトも、消えてしまっている。




 これからどうしようかと、初めてのボスの仕事で張り切っていたモンスターと顔を合わせて、悩む。今までの経緯を知ってしまったし、殺すのはちょっとな……。

 俺はここのダンジョンマスターではあるが、あんな殺人犯と一緒にはされたくはない。


「やれやれ、仕方がないか」


 しょうがない。ダンジョンマスターの気まぐれとして、あの少女を保護しよう。……張り切っていたアイツには悪いが、別の機会に暴れてもらおう。

 ……あの連中がきた時とかな。


 そう思いながら俺は、少女の元に向かった。

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