異世界ふしぎ発見(1)
「いいか、ヨシュア少年。あすこに見えるがスライムだ。あのブヨブヨしたヤツ」
アマノにそう言われ、ヨシュアは彼と共に茂みに隠れながら目線を追った。
(――――いた。本当にいるんだ)
アマノの言う通り、視線の先、うらぶれた粗末な柵で囲われた墓地に、墓石を舐めるように凭れ掛かっている薄緑の粘液体の塊がいた。
「はい、見えました」
その塊は、人の上半身程の大きさで、意思を持っているかのようにユラユラと、数本の腕染みた触手――もとい、粘液を空へと伸ばし、何かを捕まえようとしている。
粘液の中には数羽の鳥がその羽を広げて沈んでいた。中には、消化されたのか、肉片のようになっている鳥もいた。
「スライムはな、基本は山とか森とか洞窟とかでな、人がいない場所で死骸とか糞とか、そういうモンを食って生きてる。コイツは偶然、墓地まで降りてきちまったみたいだな。あんまり害があるモンスターじゃねェけど、ジジイとかガキは運が悪いと食われっちまうからな。今回は討伐クエがあったって訳だ」
二人は墓地から数メートル離れた茂みで、身を寄せあい、講義を開いていた。
「見ての通りブヨブヨだろ? じゃあここでヨシュア少年にクエスチョン!! アイツはどうやって倒すでしょ~~か!?」
アマノは指を立て、ヨシュアに問う。
「クエスチョンって……異世界ふしぎ発見ですか? あーはいはい、ちゃんと考えますから……えーっとですね、炎で焼く?」
ヨシュアは、自身の元居た世界でのゲーム知識で答える。
「外れ。アイツは炎を当てると飛び散るんだ。しかも有毒なガスを出しながらな。離れて魔法を当てるなら効果的だが、俺達ではそれは無理だな」
「そこはシビアなんだ異世界……。じゃあ、氷魔法で凍らせて砕く?」
「あっ、そういう倒し方もあるかもな……って言うか、わざわざスライムにそんな魔法撃ってまで殴ったことないから答え用意してなかったな……」
返答を待つヨシュアを放っておいて一人思索に耽り始めたアマノに、ヨシュアは思わず質問した。
「あっあの! スライムって木刀で倒せるんですか? 僕が思ってるより一回り大きいんですけど?」
「ん、あー、倒せる倒せる簡単だ。何ならそこら辺の慣れたジジイなら鍬でも倒せるよ、安心しな。じゃあクエスチョンのアンサーな? アイツの重心をよく観察してみろ。あんな不安定な位置でいくらネバネバしてるからってバランスいいよな?」
言われた通り、スライムは墓石の上まで登ってそこでも触手を空に伸ばしている。不思議と、ユラユラと今にも零れ落ちそうなのに上手にバランスを保っていた。
(言われた通り……ただのゴミが沢山入ってるようにしか見えない粘液体だけど、しっかりと何かしらの目的……意思があって動いているのが分かる。つまり、それを司る部位があるはず)
「脳か……何かこう、神経のようなものがあって、それを潰すとかですか?」
ヨシュアの答えに、アマノは嬉しそうに「お~」と声を上げる。
「正解だ! よーく見ると、身体の中に色が少し濃い部分があるのが分かるか。……ちょっとこっち来い、陽の光が当たってる方が見えやすい。アソコがな、スライムの弱点。”核”って呼ばれる部分な。あそこがバランスを取ってるんだ。そこをな、何でもいいから刺激を与えると倒せる。でもな、スライムもバカじゃないから外部から刺激があるとその核を隠したり動かしたりするから、そこは上手く一撃で仕留めるか、広い範囲で潰すか、頭の使い所だ。じゃあ――やってこい!」
元気よくそう言われ、戸惑うヨシュア。アマノはじれったくなり、「ん!」とヨシュアを指差し、「ん!!」とスライムへと指を動かした。『早く倒してこい』という事である。
「剣の使い方は教えたな。振り方も後で教えてやるが、とりあえず自分で振ってみないと話も分かりにくいだろ? ほらとっとと晩飯代稼いで来い!!」
背中をバンと強く叩かれ、ヨシュアは転げるように茂みから飛び出す。
「あっ、言い忘れてたけど、スライムの死因一位は溺死で二位は窒息死だからな」
彼の言葉と不安に背を押され、おずおずとスライムへと近づいていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます