狩りに行こうぜ!
僕はアマノさんに連れられ、晴れてギルドの一員となり、スライム退治に出掛ける事となった。スライムは村外れの墓地近くに出るらしく、アマノさんが言うには、歩いて30分ほどで着く所とのことだった。
僕は着の身着のまま、木刀だけを持ち、アマノさんも同様の姿で村から出て、ただ街道を歩き続ける。その中で、アマノさんは時々立ち止まり、僕に基本的な剣の握り方と使い方を教えてくれた。
「――そうだ、右手が前で左手が後だ。人差し指と親指で、こう、挟むように持つ。左手は……そう、その一番後ろの所が柄頭って言うんだけどな、そこから少し離してこう持つ。そうだ。俺の持ち方を真似してみろ。それでな、今は木刀だけど、俺みたいな刀を持つならな、親指が鍔に付かないようにするんだ。人差し指だけが僅かに触れる程度。いいぞ、お前は上手いな。それで、握る強さはな、人の指ってのは人差し指と親指が力が強いんだ。だから、そこの指は軽く抜いて、他の三本に意識を向けろ。その三本は強く握り込むんだ。そう――そうだ。それで、今、お前は刀と腕が一直線になってるな? そう持つとな、手の関節が動かしにくいんだ。だからこうやって、少し曲げて持つ。すると動かしやすいだろ」
僕が見よう見まねで真似する様を、いつもとは違う僅かに笑みを浮かべた優しい顔で褒めながら教えてくれた。そして、時々、僕の腕を触り、位置を直してくれたその手には、夥しい程の古傷があり、中には肉が抉れてそのまま治ったような跡もあり、この人が自身を”剣鬼”と嘯くのも真実味があった。
「俺もそんなに人に教わった訳じゃねェから、教え方が悪かったら、ごめんな」
「いえっ。すごく分かりやすいです!!」
僕は本心でそう言った。すると彼は笑いながら「そっか!」と言い、僕に瓢箪の水筒を投げ渡してきた。僕がそれを「いただきます」と飲み始めると、道沿いの草が生えた場所に座り込み、そっぽを向き、頭を搔きながらこう言った。
「お前に知ってほしいのは、だ。……何て言うか、あくまで、コレは命を奪いかねないモノって事だ。実際、命を落としかけたお前なら、何となく命ってモノがどういう事か分かるよな? 命を大切に、って言ってるんじゃない。命を粗末にするなってのが正しいか? どんな命でも、だ。そんで……んーー、俺は、お前にはそんな簡単に命を奪って欲しくないって言うか……でも斬らなきゃ分からない事もあるし……まぁ、なんだ。お前がどうしたってこれから学んでいくのは”殺しの技”だ。綺麗事言っても、な」
手元の木刀が、やけに重く感じる。ズシリ、と掌に圧し掛かってくるような感覚だった。
「つっても、俺が教えられるのは剣の事だけで、剣ばかりの人生だったからな。だから、これから俺がお前に教えていく上で、お前が少しずつ強くなって、いつか人を殺して、そんでその重さに耐え切れなくなって、また人を斬ろうとしたら――俺が、お前を殺してあげるから。あぁ、これだ、そう。これが言いたかった。俺が責任持ってお前を殺してやるから、お前も死ぬ気で精進しろよ」
物騒な物言い。だけど、やっとこっちを向いて笑ってくれたアマノさんは、とてつもなく頼らしく、何故か僕は誇らしかった。
僕が言葉に詰まり、コクコクと頷いていると、どこか気恥ずかしくなったのか、アマノさんは顔を赤くして、立ち上がりながら街道に生えた草を千切って口に咥えると大声で、
「さ、歩くぞ! サクッと退治してお前の飯代と風呂代を稼ぐぞ!!」
先に歩いて行ってしまう。僕は木刀をギュッと握って後を追った。
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