閃光
「――もうやだ、お嫁にいけない……」
裸に剥かれて泣いているヨシュアを尻目に、それぞれ四人は集まって額に汗を浮かべて話し合っている。
「異世界人って言っても俺らと変わらないのな? っていうかアイツ、この”刀”って単語も分かってたし、俺と出身同じかと思ったけど、全然違うしどうも文化が違うのかなと思ったけどアイツの世界と俺らの世界、そんな変わってるように感じないんだよなぁ」
「魔法の代わりに科学と化学が進んでいるのしょう? 人の治療も刃物で切り開いて直接切った貼ったするようですし……下腹部の手術跡も盲腸を切り開いたそうですよ。野蛮と言うべきか革新的と言うか……素晴らしい! 脳の使っていない所が刺激されます!!」
「それより! 魔法四元素全部使えたわよ!? 実際に見てみるとこう、嫉妬するわ~! これで奇跡も使えるんでしょ!?」
「らしいのう……ワシも魔法を使えたら拳技に拡がりが出来そうと思ったけど出来なかったしのう……過去に戦った奴等の中には稀にはいたが、大体どちらかは疎かか、そもそも身体の魔力を無駄に使うばかりで良い考えとは言えなかったしの」
「だったら仲間に強化魔法とか撃ってもらった方が早いしな。俺も炎の剣使いたかったなぁ……初めて魔法剣士と戦った時、めっちゃ羨ましかったもんなぁ、弱かったけど」
「そもそも魔力の構造上、どちらかに偏らせないと消費が激しくなってむしろ弱くなったり死にやすくなったりしますからね。全力疾走しながら詩を歌を歌うようなものです、走りを優先すれば聞くに堪えない歌になり、歌を優先すればそれは走っているとは言えないような速さになってしまう。時々、そのバランスを上手く取れる者がいるだけで、それならば全力で疾走するか歌った方が往々にして強くなるものです」
「その点、この、”魔力を吸い取る力”ってのは凄いわよ! だって私が全力で撃った光の呪文も吸収して、それと同じくらいの魔力を身体に容れてられたもの。でも、攻撃魔法は、魔力は吸収できるけどダメージは負っちゃうみたいなのが勿体ないわよねぇ」
「それはその吸収した魔力で治癒魔法を使えばいいのでは? ダメージを極力抑えて身体を治し、余剰の魔力を攻撃に回すなど……いや、魔法を使った後も魔力が残存するかなど、どのくらいまで使えるかは実際試してみない事には……」
「それだ! ちょっとワクワクしちゃう! 何を教えたら効率良く強くなるのかしら! アタシ、奇跡が使えたら組み合わせたかった魔法が何個もあるのよね~」
ウットリとした表情のベルに、高速で眼鏡を上げ下げするバトウ。リンは話に疲れ、床に転がり、欠伸をかきはじめた。
「あとはこの、相手の使った――あっ、アレ?」
ベルは急にふらつき、床にへたり込んだ。
「あれ、何か、身体が重たい……?」
「ベルティエ、あなた魔力切れですよ。きっと色々魔法を久しぶりに使い過ぎたのでしょう? いくら興奮したからと言ってもそんなに気合入れなくても――ンッ!?」
次いで、バトウも立ち眩みでも起こしたのか、テーブルに腕を付いて倒れるのを庇った。
「おい、バトウ……おぬしも魔力が随分と抜けておるぞ? 普段から鍛えていないから……全盛期より随分弱くなっていないか?」
「毎日鍛えてるのでそんなはずは……」
脂汗を流している二人を見ながら、顎を撫でていたアマノが、ふとある事に気付いて、大声を上げる。
「そういえばまだ、ヨシュアから魔力が抜けてねェ……お前ら、直接吸われたんじゃねェか!?」
彼の言う通り、ヨシュアの身体の中には未だに二人の魔力が残っており、パンパンに彼を満たしている。
「そんな……ッ! 非ィ魔法的なァ……!!」
「魔力を吸うって、そんなっ! そんなの、呼吸でこの部屋の空気を全部吸い込むとか……そういうレベルの話でしょっ」
「そこの二人は休んどきなさい……ワシも人がそういう事が出来るって聞いたことがあるのは特殊な手段を――例えば邪教の儀式とかそういう手順を踏んで可能になるという話があると言っておったな」
「呪具とかっ、呪われた武器でっ……そういうのがあるって……」
息も絶え絶えのベルを椅子に座り直させながらアマノが代わりに話す。
「あーはいはい、俺が代わりに話すから。アレだろ? 曰く『人の精気を吸って切れ味を増す刀』とか、『神の声が聞こえるという法衣だと思ったが、寿命を吸い取る呪われた服だった』とか、そういうアレだろ? えっ、じゃあ何だ? コイツはもしかして――」
「「「「――呪われてる?」」」」
四人が同時に同じことを疑問に思い、
「「「「――いやぁ、ないないない」」」」
四人が同時に笑いながら手を振って否定する。
「人が呪われた、ならよくある事ですが”呪いを与える人間”なんて、そんな不可思議な事象、聞いたことがありません」
「そもそも呪いの定義を決めねば。言葉のニュアンスで”呪いを付与されている”と”呪いを付与する”という媒介か媒体かで話は変わってくるのはないじゃろうか」
「異世界人ってみんなこういう体質なんじゃね? 考えるだけ無駄じゃね? 他の世界の事なんて考えても時間の無駄だぞ」
「アンタみたいなのが世の中溢れてたら魔法はここまで発展しなかったでしょうね……とにかく、人に害する可能性があるなら、そのパターンと条件を見極めてないと」
「いや明らか、触れてる時間の長いヤツラだろ。俺とリンは魔法使えねーからあんま触ってねーもん。ねぇ?」
「うん。肉付きの確認くらいかの。鼻息荒かった二人に押し出されてしまっての」
「鼻息なんて荒くしてない!!」
「事実誤認ですね。気高きエルフは美しく生きるので。凡俗な欲求とは無縁なのですよ」
即座に否定し、立ち上がる二人は、必死に平静を保っているが足が生まれたての小鹿のように震えている。
「眼鏡光らせる程の事かね、全く……」
「そうじゃそうじゃ、若い男の身体に興奮していたなど、誰が他の者に話そうか。ワシらだけの秘密じゃよ」
「言うやつじゃん! 言うやつじゃんそれ!!」
「だから言わんと言うとるに。なぁ、アマ坊?」
「なぁ、信じてほしいよなぁ」
「絶対言うやつ~~~~!!」
四人が喧々諤々と話してる間、一人ぽつんと暇をしてしまったヨシュアは、自分の腕を見るが魔力などが宿っているように見えず、思わず
(本当かなぁ……)
と疑っていた。その疑問は即座に行動となり、
「……光よ、あれ」
小声でそう言うと、右手の人差し指の先で、ぽっ……と小さな光が灯った。
「わっ……」
自分一人で出来た、本当に魔法が実在する、と言った感動が彼を包んだ。その光に触れても熱さも感じず、不思議な光に、自身の手で包んで灯りの加減を楽しんでいると、
「――ん?」
光が、徐々に強くなってきた。思わず、そのままてで握り込むも、隙間から漏れる光が少しずつ強くなり、ついには掌を貫通して光が射すようになり、ヨシュアは未だに騒いでいる四人に見つからないように背を向けるも、どんどん光が強くなり、
「あぁっ……!!」
彼も直視できなくなり、屈み、輝き、まるで超小型の太陽にようになった指先を掲げる。こうなると、流石の四人も異常に気付き、
「あっねぇ! ちょっと……!」
「やばくね!?」
「むう、目が焼けるぞ……!」
「ヨシュア君! 魔法を止めたまえ! 魔力の供給を止める、指先への魔力の流れを絞めるイメージで!!」
四人とも腕や手、帽子で光を遮る。咄嗟にバトウが魔法の止め方を教えるも、そもそも見えない流れを感じるというのがヨシュアには難しく、
「……わっ、分かりません! 弱くなりましたか!?」
試してみるも、光は強さを増すばかり。ついには、瞼を閉じていても貫通するまでの輝きになり、
「目っつーか脳が痛ェ!! ヨシュアっ、どうにか止めろ!!」
「指先を冷たくするっていうか、血液の流れを止める感じ!! 魔力の流れを――あぁ見えないんだった!!」
「こうなったら私の奇跡で――」
バトウが奇跡の詠唱を始めようとしたその時、
「――――こっちの方が速いわッ!!」
飛び出した者がいた――リンだった。彼女は、最早光に埋もれた部屋の中、光源の中心点で影すら搔き消えたヨシュアに向かって疾走する。
目は開けられない。ましてや、輝きが強すぎて視神経に痛みすら感じ、常人ではまともに立っていられず、床をも光に染められ水平感覚すら保てない白い世界で、リンは自身の肉体の感覚、そして、”先ほどまで見えていた世界”の記憶を頼りに突き進み、
(魔力は見えん……なら、これだけ近寄れば……!)
おおよその、ヨシュアの近くまで来ると鼻を引くつかせ、
(風呂に入っておらん饐えた臭い――ここじゃ!!)
嗅覚でヨシュアの輪郭を捉える。そして即座に背を曲げている彼の顎の先端を、
「――シャラァッ!!」
音すら遅れてやってくる疾さで、優しく、手刀を掠めた。
「……………………ぇ」
それだけで、ヨシュアの意識は切断。魔力の供給も止まり、彼はそのまま床へ、受け身も取らずに頭を強く打ち付けて倒れる。
色を取り戻した部屋で、リンは額を拭い、倒れたヨシュアを見下ろし、
(ゴーレムの使い方も知らずに使役しているようなモノか、危ういのぉ……)
と彼の存在を危惧した。
三人は未だ目の調子が戻らず、目を擦りながら、リンの横へ並ぶと、床の上で伸びているヨシュアを見下ろし、誰となく呟く。
「……今後は、取扱注意ってことで」
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