見知らぬ天井

 音がした。静かだが、人が話しているような、そういう気配がする。僕からすると慣れない生活音で、強い違和感から目が覚めた。


 「………………」


 見慣れぬ天井。見知らぬ場所。ゆっくりと手を掲げると、


 「――もう光ってねェぞ、ヨシュア少年。お前もう、勝手に魔法使うなよ」


 アマノさんの声に、僕は思わず勢いよく身体を起こした。


 僕に掛かっていた白い掛け布団がめくれ、その向こう側にアマノさんが椅子を前後逆にして座っており、背もたれに頭を乗せて手をヒラヒラと振っていた。


 「あの――」


 「ここはどこ、だろ?」


 彼の言う通りの疑問を口から出そうとしていたところだった。粗末なベッド、匂う埃と古本の香り、何もない、木板で作られたこの部屋には、今自分が横になっているベッド、アマノさんが座っている椅子、そして少し離れた場所にあるテーブルとランプ、そして様々なガラクタが放り込まれた木箱が散乱していた。そして、どうやらここは一階では無いらしく、窓のすぐそこには青々と茂る木が間近に見えた。


 「ギルドの二階だよ、俺の部屋だった場所だ」


 階下の音は、人々の声だったのか。


 「……ギルドって、本当にあるんですね?」


 「あるだろ。ギルドって言葉通じんのか? 相変わらずトンデモ人間だな。本当は異世界から来たんじゃなくて狂ったフリしてんのか?」


 アマノさんは頭をボリボリと掻き、「……んな訳ねーか。そんな体質なヤツ見た事ねーし」と独り言を呟いた。


 「お前、この服に着替えろ。流石に臭いぞ、あと身体におかしい所とかあるか?」


 そう言いながらアマノさんは、僕に、”僕が思い描くその通りの麻の服”を投げ渡してきた。彼はそして僕に背を向けたので、”早く着替えろ”という事なのだろう。


 「特にないです。出来れば後で身体が拭きたいぐらいなのと……あと、あと、さっきはすみませんでした、ご迷惑をおかけしました」


 服を着替えながら、ぼんやりと先ほどの事件の事を思い出して、謝った。軽はずみで迷惑を掛けたことが、恥ずかしかった。


 「いや、アレはベルとバトウが……いや、俺達が悪ふざけし過ぎたせいだよ、悪かったな。この村にも風呂場はあるけど、急ぎなら身体拭けるようにしてやるよ」


 「いえ、そこまでは……」


 労われるのが、あまり経験が無くて嬉しかった。何でこんなに見知らぬ僕のためにここまで面倒を見てくれるのか、服を着ながら考えていた。


 「終わったか……お~うおうおう、俺のお下がりだけど、ブカブカにならなかったな! 身体鍛えてた甲斐があったな! ほい、あとコレ!!」


 着替えが終わった僕にアマノさんが投げ渡してきたモノ。それは――木刀だった。

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