第3話 初夜

 夕飯を食べ終えて、お風呂に入って、二人で布団に入る。


「今日は俺、そっちの布団使うよ」と、いつも使っている布団を指さす。


「...はい」と、何か思うことがあるっぽい葵ちゃん。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093079622819939


「...こっちの布団で寝たかった?って、そんなわけないよね...。俺のにおいしみ込んでだいぶ臭かったでしょ」


「そ、そんなことないです...。すごく...安心できました...」


「じゃあ...そっちで寝る?」というと、嬉しそうに何度も首を縦に振る。


 そうして、二人で布団に入るとすぐに電気を消す。


「それじゃあ、お休み」というと、「...あの...その...今日言ってた...その...」と、布団の中で葵が呟く。


「...ん?なんだっけ?」


「えっと...お、お互いのこと...話すって...」


「あぁ、忘れた。といっても何から話すべきか...」


「まずは...生年月日から...とか?悠人さんが何歳か...知らないです...」


「そういえばそっか。俺は1995年6月15日生まれ。つい最近29歳になったな」

「...私は2006年6月1日生まれです...6月...15日って...その...」


「そうだね。葵ちゃんを拾った日だね」


「...誕生日...だったんですね...」


「うん。今までの人生で一番いい誕生日だった...かな」


「...そ...それは...//」と、もぞもぞするのが何となく音でわかる。


「そ、それじゃあ、次ね。血液型は?俺はO型」


「私は...A型です...。趣味...は何ですか?私は読書です...」


「...ゲームとかかな?じゃあ、初恋はいつ?俺は小4の頃かな?


「私は...い、今かも...しれません」と言われ、今度は俺がもぞもぞしてしまう。


「そ...その子は...どんな子でしたか?初恋の子は...」


「どんな...か...。大人しくて優しい女の子だったな」


「ど、どういう外見の女の子がタイプですか?」


「どういう...」


「か、髪の長さとか...お、幼い方見た目のほうが好きとか...年上のお姉さん的な人がいいとか...」


「...髪は...どっちかというと長い方が好きかな。見た目は...まぁ、幼い方が好きかも...べつにロリコンとかではないよ?


「そ、そうですか...わ、私の見た目は...どうですか...?」


「...かわいいと思う//」


「そ、そうですか...//嬉しいです...//」


「葵ちゃんは?どういう人がタイプ?」


「...悠人さん...みたいな人...」


「...う、うん//」


「「...//」」


 今度は二人でもぞもぞする。


 こんな年になって青春みたいなことができるなんて...。


 昔いわれた嫌な言葉が頭をよぎる。

『あんたのことなんか...』という言葉。

今でも鮮明に思い出すことができるそんな言葉を。

 

「...明日、婚姻届取りに行ってくるね」


「...本当にいいんですか?私...なんかと結婚して...。私...いいお嫁さんになれる...気がしないです...ぶ、不器用ですし...きっと...すごく...重くて...うんざり...するかもしれませんよ?...迷惑もいっぱいもかけてしまいそうですし...」


「別に。俺も...重いと思うよ。そもそも誰かと付き合うなんて初めてだし...」


「...い、一緒ですね...//」


「そうだね。これから...一緒にちょっとずつ分かり合えるといいな」


「...はい...。あの...」


「ん?何?」


「...好きです...。悠人さん...」


「うん。ありがとう...。うれしいよ」



 好きだよとは返せなかった。

もちろん、葵ちゃんには行為を抱いている。それは間違いない。

しかし、俺のこの感情は...いや、彼女のそれもまたもしかしたら...好意ではなく依存かもしれない。昔の俺がそうだったように。

けど、今はそれでいいと思った。

彼女の中で生きる希望ができたのならどんな形でも...。


「それじゃあ...おやすみ」


「...はい。おやすみなさい...」


 それから数分後、「悠人さん?」と声を掛けられる。


「ん?どうした?寝れない?」


「...はい。...こ、怖いんです...。朝、目が覚めたら...この夢が覚めてしまうんじゃないかって...だから...その...や、やっぱり...何でもないです...。お、おやすみなさい...」


 夢か。

彼女にとってはそうなのかもしれない。

人生で初めて差し伸べられた手。

そんなの夢だと思ってしまってもおかしくはない。


「どうしたいの?言ってみて?」


「だ、大丈夫です...お、おやすみなさい...」


「言いたいことがあったらはっきり言ってほしいな」


「...でも...」


「いいよ。なんでも言って?全部かなえてあげられるかはわからないけど...」


「...そ、そっちの...布団に入ってもいいですか...?」


「え?」


「や、やっぱりなんでもないです!...お、おやすみ...なさい...」


「...いいよ?入っても」


「...本当ですか?い、いやじゃないですか?」


「嫌じゃない。うれしいよ?」


「...でも...そ、そういうのはしばらくなしだって...言ってたから」


「まぁ...その...それは俺側の問題というか...理性の問題というか...それに一緒に寝るのは...まぁOKかな」


「...悠人さんになら...私は...いつでも...//」


「そういうのは...しばらくなしだからね?」


「はい...。悠人さんが私を好きになってくれた時に...」


 そのまま彼女は俺の体に抱き着いてきた。

がんばれ...俺の理性。


 それより問題なのはこれからのことだ。

この先どうするべきだ。本当にこの子を匿って生きていけるのか?一生?

それは本当にこの子のためになっているのか?


 そんなことを考えているうちに初めての人のぬくもりに包まれながら眠りにつくのだった。



 ◇6月17日(月) AM6:15


「...おはようございます」と、俺より先に起きていた葵ちゃん。


「朝、早いね」


「...はい。いつもこの時間には起きていたので。...朝は何食べますか?」


「まぁ...じゃあ、お味噌汁と...ごはんをいただこうかな...」


「わ、わかりました...」と、気合を入れる葵ちゃん。

どうやら料理は得意らしい。


 卵焼きとごはんとお味噌汁に納豆...というTHE日本人のような朝食が用意される。


 うん...おいしい...この卵焼き最高だ。

それに味噌汁も...かなりいい塩梅で作られている。


「....おいしいよ」


「あ、ありがとうございます...」と、かわいく笑う。


 それから昼くらいまで二人でのんびりと過ごしていた。

適当にテレビで入っているサブスクのホラー映画をつけていると、興味津々で隣に座る葵ちゃん。


「ホラー好きなの?」


「あ、あんまり見たことないです...。ゆ、悠人さんは?」


「うん、好きかな?」


「そ、そうなんですね...。怖いのはむしろちょっと苦手かもですけど、...挑戦したい気持ちはあります...。ゆ、悠人さんとなら見れる気がします」


「...じゃあ見てみる?」


 そうして、そこそこ人気のホラー映画を見てみることにした。


 結局映画中、ずっと俺の腕にしがみついていた。

体をビクンとさせながらも目を背けることなくちゃんと見終えるのだった。


「...こ、怖かったです...けど...ちょっと...面白かったかもです」


「今度からは一人で見れそう?」というと、ものすごい勢いで首を横に振る。


「そっかそっかw」


 とても幸せな日々だった。

特別なことは何もしなくても、彼女と一緒にいるだけで、特別に感じた。

多分、付き合うとはこういうものなのか。


 なんだか周りのカップルはいつだって喧嘩していて、ギスギスしている感じなのだが、葵ちゃんとはどうやらそんなことにはなりそうになかった。


 ずっと1人は楽だと思っていて、一人暮らししてからは誰かと生活するのは窮屈だと思っていたが、その考えはどうやら間違っていたとのだろう。


 そうして、時間ギリギリに婚姻届を取りに行って、ご飯を食べてお風呂に入って...あっという間に三連休最後の夜がやってきたのだった。


「あぁ、明日から仕事か...」


「が、頑張ってください。家のことは私がやるので...。それと、ば、バイトも探すので...」


「いきなりそんな無理しなくていいよ?ゆっくりでいいからね?」


「で、でも...」


「むしろ、家にいてほしいんだよ。家に帰ってきて一人だったらさみしいし...ね?」


「...はい。と、とりあえず...今は...お言葉に甘えて...私でも出来そうな...お仕事探してみます。あっ...お、お弁当...作りますか?」


「弁当...。いや、いいよ。無理しなくて」


「こ、これくらいはさせてください...。それに...悠人さんには元気で居てほしいですから...。明日からは私がお弁当作りますね」


「うん。そうだ...婚姻届けもはやく書かないとね。証人は...誰がいいかな」


「わ...私には書いてくれる人が...思い浮かばないので...」


「俺のほうで二人分用意するから大丈夫だよ」


「...わ、私たち...ほ、本当に夫婦...になるんですね?」


「そうだね」


「...あの...」


「ん?」


「だ、大好き...です...。お、おやすみなさい...//」


「うん。おやすみ」


 まだ大好きと返してあげられないことが悔やまれる。

けど、彼女には気安くそういいたくなかった。

ちゃんと好きだと...そう思えるようになってから言いたいんだ。

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