第22話 デンバーの夜に抱かれて
マリーの突然のカミングアウトには、本当にびっくりだった。マリーによると入学してすぐの頃、なんとなく良いなと思って居たある日、学校から帰る時に雨に降られてしまった。その時、校舎の入り口で空を睨んで居たら、背後からロバートの声がした。「雨、やみそうに無いから一緒に傘、入ってく?」マリーがその声に反応して後ろを振り向くと、ちょっと照れた様にロバートが立っていた。そう、困っているシュチエーションの優しさは、ハートに刺さる。
彼は、二人で傘に入ろうと言ったのに、彼の左の肩は傘からはみ出しており、すっかり濡れて居た。マリーの方にしっかりと傘を差し掛けて居たから、彼女はそれほど濡れて居ないので不思議に思って、ロバートを横目で見たら、ちょっと俯き加減に下を向いたまま、無言で歩いている。その優しさに、やられてしまったと、マリーは照れながら彩に話してくれた。
「私、この旅の中でロバートに告白しようと思うの。彩、応援してくれる?」
「うん。私たち友達だもの。応援する。」と言って二人は握手をして、改めて友情を確かめた夜だった。
暫くして、ディナーに行こうとジェイムスがやってきた。ロバートはホテルのロビーで待っているらしく、3人はエレベーターで一階に向かった。
「ロバート、お待たせ。」と彩が声をかける。しかし、マリーは俯いたまま、小さな声で「お待たせ。」と一言だけ呟く様に言った。
4人は連れ立ってデンバー夜の街に歩き出した。レストランは予約をして居なかったが、とにかく街に行けばなんとかなると言いながら、歩って行ったが、すでにクリスマスが近い。どこもレストランは一杯で、なかなか見つからなかったが、街を少し外れた所に、ひっそりと隠れ家の様な店を見つけた。多分、観光客相手というより、地元に根差した感じのレストランだった。それほど大きな店ではないが、何人かの客が既にテーブルで食事を楽しんでいる。入り口で店員の女の子に「4人で、予約が無いのですが大丈夫ですか?」とジェイムスが尋ねると「ちょっと待ってて。」と言い、キッチンに聞きに行った。少しして戻って来た店員の子は「お客さんラッキーだよ。さっきキャンセルが入ったから大丈夫。」と言って右手でOKマークを出した。
「この店は地元の人気店で、予約が無いと入れないのだけれど、特別今夜は大丈夫」と、にこやかに言った。店員に案内されながら店の奥に進むと、暖炉があり、その横のテーブルに案内された。先にジェイムスが先頭で入っていったので、そのまま奥の席に座る。その隣にロバートが座ろうとした時、彩が「ロバートごめん、こっちに座って」と向かい側の席を指して、ジェイムスの隣に彩が座った。ロバートは驚きながら「彩ってそうゆう感じ?」と笑いながら席に座ったが、彩は慌てて「違う違う。いつも男子、女子で座るから、たまには良いかなって。」「ロバート変な勘違いしないで。」と睨むと、すかさずジェイムスが「えっ、勘違いなの?」と素っ頓狂な声を挙げた。「ジェイムスの意地悪。」と彩はジェイムスの事も睨んだ。「だから、そんな深い意味は無いけど」と言いながら、「やっぱり無いんだ。」とジェイムスがしつこく彩に突っ込む。「もう!」と言いながら彩はジェイムスを叩く格好をして見せた。
そんな騒ぎをよそに、マリーが頬を赤らめて、そっとロバートの隣に座った。
全員が座ると、メニューを広げ、それぞれ食べたいものを注文した。オーダーを聞いた店員はメニューを下げながら、にこやかに下がっていった。少しして料理が運ばれて来て、みんなでシェアしながら小皿に取り分け、楽しい食事が始まった。みんな、未成年なのでアルコールは飲めないが、シャンパンに代わるジュースで乾杯をし、想い出の夜がまた1日増えた。4人の宴は盛り上がり、登り始めた満月が屋根の位置よりも高い所に来るまで続いた。
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