第23話 旅の夜空に

すっかり空腹を満たした4人は、ブラブラと通りを歩いた。自然とロバートとマリー、ジェイムスと彩が並び、前後で歩いている。意図的では無いにしろ、自然な流れでそうなった。そのまま歩いて行くと、広場の様な所に出た。そこはラウンドアバウトになって居て、夜間、通行量の少ないこの時間はまるで公園の様にも見える。そのセンターのスペースには大きな樅木が立っていて、クリスマスツリーの飾りがしてあった。数日後に控えた聖なる夜に、感謝と敬意を表す様な壮大なツリーで、LEDライトなどの電飾のほかライトアップもされて居た。交差点まで4人は進み、その前に立ち尽くし、口々に「凄い」とか「綺麗」と感嘆の声を漏らしていた。車の来ないことを確認し、そこに近づく。近づいて見ると更に迫力があり、7〜8mは有ろうかと言う樅木にいろいろな飾りがしてある。その他にも、恋人で宛てたで有ろうメッセージカードや家族に宛てたメッセージなどが、所狭しと飾ってあった。写真にメッセージを書かれている物や従軍している夫に宛てたメッセージなんかも目につく。それぞれが、メッセージを見つめる中で、ロバートが突然立ち止まり、みんなを振り返った。いつもなら大人しい、どちらかと言えばば内気な方のロバートが、緊張した面持ちで、咳払いを一つ。「皆んな、聞いて欲しい。」といい声を張る。少しの間を置きマリーに向き直った。おもむろに片膝を地面に付き、マリーの手を取った。見上げる様に彼女を見つめる。何が起こったか、いまいち理解して居ないマリーは明らかに動揺している。そしてロバートはゆっくり口を開いた。「マリー、僕は初めて君を見た時から、ずっと気になって居ました。そして、出会って3ヶ月ずっと君を見ている僕に気がつきました。僕は君が好きです。大好きです。僕と付き合ってください。」と言い俯いた。

 沈黙が流れる。彩は気付かぬうちにジェイムスの腕にしがみついて、事の成り行きを見つめている。小刻みにマリーの手が震える。「ロバート」と小声が漏れる。そしてハッキリ「ロバート、私も。私もあなたが好き。でもずるい。そんな素振りちっとも見せなかったのに。」と言い大粒の涙をこぼした。その手を握ったままロバートは立ち上がり、マリーを優しく抱きしめる。ロバートの背中に回されたマリーの腕はまだ小刻みに震えていた。「本当は私、この旅の何処かでロバートの告白しようって、彩に相談してたのに。」と泣き笑いをしながら、ロバートを抱き返していた。

 告白劇の行方を見守って居た二人も、ほっとして気がつく。彩が「あぁ、っつ」と言ってジェイムスから離れる。「ごめん、私…」と言いかけた言葉をジェイムスが遮って「大丈夫?僕は気にして無いから。」とちょっと顔を赤ながら言う。

 さっきまでチラついて居た雪は既に止んで、いつの間にか上がった細い月が樅木の上に出ていた。そして夜空には透き通る様な濃紺の夜の帷が降り、辺りにはちりばめられた星空が広がって居た。暫く、そこに4人は居たが、流石に寒くなり宿に戻る事にした。ロバートとマリーは腕を組み、肩を寄せ合い歩く後ろ姿は、それだけでも幸せオーラでいっぱいだった。そして、彩とジェイムスは二人のあとを少し離れて歩っているが、気付かぬうちに手を握りながら歩いていた。シンと静まりかえった街は、気温もぐんと下がっているが、風はなく体感的にはそれほどでも無い様に感じる。しかし、繋いだ指先だけが互いの温もりを感じる。いつの間にか4人の若者は2組のカップルになっていった。

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