第10話 憧れの街の風景

 この連休は、彩にとって刺激の多い休みになった。同級生の麻美が、明確な目標を持っている事や、彼女が生まれた環境や彼女の家族に触れてみて、軽いカルチャーショックの様な刺激を受けた。


 連休が明け、授業が再開すると、皆笑顔で登校して来た。男子も、女子も思い思いの休みを満喫し、キラキラ輝いていた。

「麻美ちゃん、おはよう。連休中は本当にありがとう。楽しかった。」

「こちらこそ、彩ちゃんがすごい目標を持っていること聞いて、私も頑張ろうって思えた。ありがとう。」

こんな会話で二人は再開した。

 此処から学校行事は沢山あり、体育祭や学園祭、各運動部の県大会や全国大会など多岐に渡りある。それぞれが、目標と目的を持って学生生活を謳歌いて行く。


 彩は担任の先生と、机を向かい合わせて座っている。

「私、アメリカに留学したいんです。」

 担任の毛塚先生は、数年前に教員になり比較的生徒に年齢が近い先生で、スラッとした体型の美人教師だ。

男子学生の間ではマドンナ的な、女子学生には憧れの的の存在の教師だ。

「町井さん、留学を希望と言う事だけど、何か目的と言うか、志望動機の様なものは有るの?」

「はい、実は、中学2年の時に両親が離婚しました。しかし、うちの両親は少し変わっていて、離婚しても交流はあるし、父が再婚する予定の方と、私や母が仲が良いんです。そんな両親たちをみていて、自分の人生は、自分で決めなければって思った時、何かにチャレンジしようって思いました。そして、その事を父の再婚相手の方に相談したんです。そしたら応援してくれるって、言ってくれました。その他に、その方のお友達がニューヨーク在住で、お仕事をされていて、サポートもお願いできる事に成っています。」と一気に話をした。

 それを聞いて居た担任の毛塚は「そう、そこまで準備できているなら、私が口を出す必要はなさそうね。」と一旦言葉を区切った後「若いうちに海外を知る事は、とてもいい事だと思う。私も留学の経験者だからよく分かるわ。」と言った。

「えっ?先生も留学を?」と彩が驚いた表情を見せると。

「そんなにビックリしないで。こう見えても先生だって、若い頃は沢山夢を持っていた時もあるのよ。」と苦笑した。

 いよいよ、自分の本当の道を行ける。いや、本当の自分の行きたい道を探しに行ける。と感じ、体が震える様な感覚を覚えた。

 その日の夜、彩は母親に対して先生との面談の結果を報告した。

「担任の毛塚先生も、留学経験者なんだって。だから、経験則からも賛成してくれたの」というと「そう。良かったわね。パパや玲子さんにも報告しないと。」言った。

そんな会話をした日の週末、彩は健司たちのマンションに向かった。少しの不安と、昂る気持ちを抱えて。

「ねぇ、パパ。私、英会話スクールに通いたい。留学に際して、英語力の証明書を提出しなければいけないし。もう少し英語力を鍛えたい。」

「そうだな、どこか良いスクールが有るのかい?」

「うん、担任の毛塚先生が留学するときに通っていたスクールを紹介してもらったわ。」そういうと、取り寄せておいたパンフレットを健司に見せた。

「いよいよ、彩ちゃんも旅立つのね。」と少し寂しそうな表情で玲子が言う。

「うん、一番寂しいのはママだから、お願い玲子さんママをお願いします。言わないけれど、絶対そう思っていると思うから。」

「だいじょうぶよ。私も健司さんもちゃんと分かっているから。心配しないで。」

と言った。

「あと、パパの一眼レフカメラを貸して欲しいの。あっちに行ったら、写真の勉強したい。」と言うと、健司が「ほう、それは意外だったな。彩もカメラに興味があったんだ。」と言うと、「偶然、麻美ちゃんと出かけた時、ソール・ライターっていう人の展示を見たの。だから、ニューヨークなんだけれど」と言いなが、小さく舌を出した。「驚いた、まさか彩の口からソール・ライターの名前を聞く日が来るとは」と健司が目を丸くした。

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