第9話 夢に向かって

 翌日、昼食をとった後、麻美と麻美の母親と三人でフルーツを食べている時、突然麻美が母親に向かって「お母さん、話があるの」と言い出した。

「私ね、モデルの仕事をしてみたい。休みの前の日曜日に彩ちゃんと出掛けている時に、スカウトされたの。で、その後モデル事務所に電話してみたら、面接してくれるらしいけど、行っても良いよね?面接」

 流石に麻美の母親も驚いていたが、以前からモデルがしたいと母には言っていたらしく「お母さんはいいと思うけど、お父さんがねぇ」と答えを渋った。

「まだ1年生になったばかりだし、もう少し様子をみてからの方が良いんじゃない?」と言ったが、麻美は首を横に振り「1年だから良いのよ。2年とか3年になってからだと、大学受験に差し支えるでしょ?」

 彩は、側で聞いていて、尤もだと思った。しかし、麻美の母は「タイミングを見てお父さんには話すから、もう少し待ってくれない?」と言った。

 母親は、すぐに賛成してくれると思っていた麻美とすれば、ガッカリで少し不機嫌になったのだが、彩の「ちょっとだけ様子見様よぅ。私も親に相談して、行く時は付き合うから」と説得したら、機嫌が治った。

 そんな麻美の行動力を目の当たりにして、彩は自分はどうなんだろう。自分の夢に真っ直ぐだろうか?と疑問を投げていた。

 その日の夜、2歳上の麻美の兄が、去年の夏の花火が残っていると言って持ってきた。庭先に出て、線香花火に火をつけたが、やはり湿っていて上手くいかない。幾つかの花火に火をつけ、ようやく花火ができたのが、最初の線香花火だった。

 麻美と二人で、じっと花火を見ている。彩は数ヶ月前までは、ここで麻美と花火をしているなんて、想像もつかなかったのに、今はずっと昔から友達だった様な気がしていて、嬉しかった。

 一時して花火が消えた後には、暗闇と静寂が戻った。空を見上げると満天の星が輝いており、彩は絶句した。暫く夜空を眺めながら「麻美ちゃん、すごい。こんなにすごい所で育ったんだね。羨ましい。」と本音が漏れた。

「そんな事ないよ。だってここの近くにはコンビニないしさ、携帯の電波だって最近は安定してきたけど、少し前は、繋がりが悪かった。私は田舎が嫌い」と言い放った。しかし、それが本音ではない事は彩にも分かった。仲の良い家族と、自然豊かなこの場所が、麻美の感性を育んだのだとも思った。

 麻美の部屋に戻ると、ひとしきりモデル事務所に入る為の話で盛り上がった。麻美が「彩ちゃん、可愛いから絶対受かるよ。私なんか自信がない。でも、成りたい。モデル。」と言った。「麻美ちゃん、私ね、本当は誰にも言ってないけど夢があるんだ。それはね、留学してアメリカに住んでみたい。」

「えっ、すごいじゃない。もっと教えて。」と麻美は目を丸くした。

「両親には、高校が受かったら留学しても良いと許可も貰っているの。実は、パパが再婚というか、付き合っている人の知り合いが、アメリカにいて、話をしてくれる事に成っていてね」と言いかけた時、麻美が「それじゃぁ、彩ちゃんいなく成っちゃうの?嫌だ。せっかく友達になったのに」と暗い顔をした。

「ごめん麻美ちゃん。私、留学の為に先ず受験をして、受かったら1年の秋から留学しようと考えてる。寂しいんだけど、麻美ちゃんがモデルになる夢を真っ直ぐに、お母さんに話してるの見てたら、私もしっかりしなきゃって、思った。」

「そっか。やっぱり彩ちゃんも大きな夢があったんだね。だからきっと私たち気が合うんだよ。」と少し涙を浮かべながら言った。

「そうだよね。目標のない人生なんて歩きたくないよね。」と彩も頷いた。

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