第7話 カミングアウト
季節が変わって行く事は誰でも知っている。しかし、忙しい現代人たちは、その移り変わりに気づく人は少ない。
桜が散り、太陽の光がコントラストを強める頃には、木々の新緑も鮮やかな緑から、濃い緑へと移り変わってくる。そして吹く風は、穏やかな春風より少しだけ熱を帯びてくる。
「ねぇ、彩。連休はどうやって過ごすの?」と麻美が聞いて来た。
「うん、まだ未定。」
「だって二週間後だよ?休み」
「麻美は?」
「私は自宅に戻る。よかったら遊び気に来ない?すっごい田舎だけど。」と苦笑いをする。
「埼玉だっけ?、群馬だっけ?」
「埼玉だけど、山の中。これからの時期は、川遊びや、ハンググライダーとかで楽しめるよ。」
首都圏で生まれた綾にとって、田舎と呼べる所がない。強いていえば、母親の祖父母が住んでいる千葉だけれど、そこそこの田舎ななので、大自然豊かなんて感じではない。
「うん、お母さんんに聞いてみる。」
そして、その日学校から帰宅し、母親の和子が仕事から戻ってくると早速話をした。
「ねぇ、ママ。連休さぁ、友達の家に泊まりに行ってもいい?その娘寮生活している娘で、実家が埼玉の山奥らしくて、行ってみたい。」というと、買い物袋から食材を取り出しながら「そうねぇ。」と少し考えている。
袋から出したものを冷蔵庫に次々仕舞いながら「パパに相談してみたら?ママは良いと思うけど、一応。」
「うん、話してみる。」と言って、早速LINEした。
結局、お世話になるだけでは申し訳ないので、連休の初日は、麻美が彩の所に泊まり、翌日、ディズニーランドに行き、その後に麻美の家に行くことで、話がまとまった。
そして当日、学校が終わった後、麻美がやって来た。
「いらっしゃい。」と和子が声をかける。
「ママ、話していた小林麻美ちゃん。」
「小林です。今日はお世話になります。」と言い、ペコっと玄関でお辞儀をした。
「さあ、入って。今、紅茶を淹れるから、ソファーで待ってて。」そう言いながら和子はキッチンに引っ込んだ。
二人がリビングのソファーに腰を下ろし、携帯を取り出して、明日の予定を話し合っている。
「やっぱり、シーの新しいエリアに、まず行こう。」
「うん、それからランドに戻る感じ?」
「うん、後は混み方次第かな。」
そんな話をしている所に、和子が紅茶を入れて戻っときた。
運んできたトレーには、三人分の紅茶のほかに、和子の焼いたクッキーが添えてあった。「このクッキー、ママのお手製なの。私、大好き。食べて。」
「わぁ、素敵。頂きます。」と言って一口食べると、ほんのりメープルの香りがした。「美味しい、彩ちゃんこんな美味しいクッキー食べて育ったの?羨ましい!」と大袈裟なリアクション。
それを和子は微笑ましく眺めていた。
その日の夕食を終え、あやの部屋に布団を敷き、二人の会話は深夜まで続いた。
「ごめん、彩ちゃん。私、言ってなかった事があるんだ。」と急に真剣な表情で麻美が話し出した。
「えっ、何?急に、怖い」
「実はね、私、電話しちゃったんだ。」
「どこに?」
「モデル事務所」
「ええっ、マジ?で、どうなったの?」
「それがさぁ、今度面接しますって言われて、でね、一緒に来てくれない?」
「ちょっと待って、私は良いけど、親に相談しないと」
「だよね、急がないから。行ける日をこちらから連絡するって言ってあるし。実家に帰ったら、私、お母さんに相談しようと思ってるの。」
「わかった、少し時間頂戴。」
その日の夜、彩はしこし興奮気味で、なかなか寝付けなかった。
布団に入った麻美は、すでに小さな寝息を立てている。
「モデル事務所かぁ。」と声にならない様な小さな声で呟く。みんな自分の夢に向かっているんだと妙に納得した。
『高校は通過点』と言っていた彩も、いざ高校生活が始まり、友達が増えてくると高校生活を知らぬ間に楽しんでいる自分がいた。私の夢はアメリカへの留学。そうしたらみんなと離れ離れになっちゃう。複雑な気持ちで夜を過ごした。
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