第2話 月日は流れて
それぞれの人生が上手く回り始め、時は過ぎた。約束通り3人は温泉に遊びに行ったり、買い物に行ったり、食事をしたり、本当に仲がいい。しかし、あっという間に彩は中学3年生になり、すでに受験に向けて本格的に勉強に打ち込んでいった。塾にも通い、休みの日には、友達と図書館などに出かけて行ったりして、兎に角勉強をした。全国模試でも希望校の判定はよく、このまま順調に進めば間違いなく希望校は通りそうだった。
そんなある日、和子に改まって話があると言ってきた。
「ねぇ、ママ、お願いがあるの。」とちょっと難しい顔をしながら話しかけてくる。
「どうしたの?」と和子が聞くと、大きな封筒に入ったパンフレットを見せてきた。
「私ね、高校に進学出来たら、留学したい。駄目ならホームステイでも良い。お願い。」和子はびっくりして、すぐに言葉が出なかった。彩が持ってきたパンフレットを無言で受け取り、幾つかを見た後「そうね、パパに相談してみようか?」と言った。「うん、でも、そしたら希望の高校に受かってからにしようかな。」と言うので、「自信ない?」と聞くと「どっちの自信?」と言うから「高校の合格と、パパからの留学OKの両方」と言って笑った。すかざず「大丈夫、両方自信あるし、入試までまだ半年あるから、もっと追い込むもん」とちょっと膨れた。
そんな彩を見ていて和子は、私の知らないところで、どんどん大人になっているんだなと思った。
健司と玲子はその後、それぞれの上司に話をした。特に健司の上司は二人の話を聞くと「わかった、僕に任せてくれ。2課の課長とも相談して、室長経由で社長に話をするから。悪いようにはしない。」と言ってくれた。
それから数日が過ぎ、健司と玲子は社長室に呼ばれた。
「町井君、前田君、久しぶりだね。掛けてくれ給え。」と笑顔を向けてくれた。
社長に促された二人は「失礼します」といってソファーに腰を下ろした。
「その節には、二人ともよく頑張ってくれた。おかげでわが社も株が上がった。事情は室長から報告を聞いて居るが、本来、出張でそのような事があると、他の社員によくない影響が出ては困るので、余り良い返事はできないのだが、町井君も体を張って頑張ってくれたし、家の事情も聞いて、丸く収まっているらしいので、今回は大目に見よう。ただしだ、やはり今まで通りとはいかないので、どちらかは部署移動なり転勤を考えて居る。その辺は室長と人事部長で話を詰めている。まぁ、悪いようにはせんから、安心してくれ給え」と豪快に笑っていた。
程なくして二人には辞令が下り、健司は課長に昇進、玲子も別部署ではあるが課長になった。特に玲子は、後輩たちを育成するための新設された部署での課長のため、やはり昇進だった。オフィスは少し離れた場所になるが、今まで住んでいたマンションから十分通勤できるため、引っ越しをせずに済んだのは社長や室長の配慮だったのだと思う。
和子から健司に連絡が来た。「彩のことで相談に乗ってほしい」との事だったので、玲子に話したら、「私が一緒でも大丈夫ならうちのマンションに来てもらった?」と言うのでそう返したら「お邪魔して良いなら、玲子さんにも聞いてほしいから是非」と返事が来た。健司と玲子は顔を見合わせて「どんな相談なんだろう?」と首をかしげたが、話は彩の留学のことだった。
健司が「そうか、彩もそんな事を考える様に成ったんだ。」と呟く。
和子も「私もそう思ったわ。いつまでも子供だと思っていたけれど」としみじみ言う。それを聞いていた玲子も「大丈夫、彩ちゃんはしっかりしているし、なんだったら私の友達、ほら覚えてる?映画館で偶然会った早苗。彼女は確か今ニューヨーク在住よ。何だったら話してみるから」と言った。それを聞いた和子は、それまで少し顔を曇らせていたが、「ホント?やっぱり玲子さんすごい!」と驚嘆していたが「私が凄いんじゃなく、友達。彼女はイタリア人と結婚して、世界中を相手に仕事をしているはわ。きっと彩ちゃんにもいい影響があるだろうし、彼女なら大丈夫。」そう言って和子を励ました。
「彩には黙っていてね、あの子なりに自分が納得してからパパに話そうとしていたから。」と和子が言った。健司はそれを受けて「そうだな、彼女の主体性を大切にしよう」と返した。
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