第3話 ユースティシアとルーファス




 コンコン、とドアを叩く音がした。


「ティシア。いるか?」

「! お兄様!」


 ユースティシアの部屋に一人の男性が入ってきた。

 ユースティシアと同じ金髪碧眼の青年だ。

 ルーファス・レイノルズ。

 青年はユースティシアの三つ上の兄だった。

 ルーファスはユースティシアを境に捉えると、ふっと微笑む。

 リリーは一歩下がり、仲睦まじい兄妹な時間を提供する。


「今朝は急務が入って会えなくてすまない。デイビッド様がいらしたと聞いたが、本当か?」

「はい。午後に用事があるとのことで、つい先程、王城へと行ってしまいました」

「そうか」

「はい」


 ルーファスはリリーにユースティシアと同じジャスミンティーを用意してもらい、話し始める。


「どんなことを話していたんだ?」

「執務についてもですが、今後の社交関係が多かったです。デイビッド様が王位を継ぐためにもわたくしの協力が不可欠だと……。今度、エレノア様とのお茶会があるので、頑張らなくてはならないと思いました」

「エレノア様か。たしか、フェリックス様の婚約者だな」

「はい。そうです」


 デイビッドの兄、第一王子のフェリックス・グラントは、デイビッドの政敵だ。

 明るく奔放なフェリックスは王位を継ぐ気がないようだが、側近はそうもいかない。

 王位継承権第一位のフェリックスは一番王に近い。

 そのためデイビッドはフェリックスを敵視しているのだ。

 そんなフェリックスの婚約者、エレノア・ブラッドベリーはユースティシアと同じ、公爵家の一人娘だ。

 これまでにも何度かお茶会をしているが、デイビッドとフェリックスの王位争いが激化してからは一度も会っていない。

 個人的にエレノアと友人関係のようなものにあるユースティシアには、少し複雑な気持ちだ。


「他には何かあるか?」

「そうですね……学校を卒業してから一緒に過ごす時間が減ってしまったことを悲しんでいました。今後も予定がなければ毎日来るつもりだと」

「わかった。ありがとうティシア。……ちっ、あれぐらいでは足りなかったか」


 最後の言葉は小さかったためユースティシアには聞こえなかったが、さほど重要でないと判断した。

 耳の良いリリーには聞こえていたが、何事もなかったかのようにするのが最適解だと考え、空気に徹するのだった。



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