第2話 ユースティシアとリリー
デイビッドは午後に用事があると言って、昼になる頃に去って行った。
また明日も来ると約束して、ユースティシアは別れた。
部屋に戻ったユースティシアは、リリーに話しかける。
「……リリー」
「はい、なんでしょう」
チョコレートのような甘い髪に、黒を基調とした白のフリルのメイド服を纏った少女、リリーは幼少期からユースティシアに仕えている。
リリーはユースティシアが唯一本音を言える貴重な人物だ。
「私、ちゃんとデイビッド様と話せていたかしら」
「はい。ユースティシア様は誰がどう見ても完璧なレイノルズ公爵家の誇るユースティシア様でした」
「そう。なら、いいのだけれど……」
ユースティシアは知っているのだ。
デイビッドが自分を道具として利用していることに。
最初は純粋に愛されていた。
ユースティシアもその愛に応え、愛し、愛された。
だが、だんだんとデイビッドは変わった。
デイビッドが王位を狙い始めると、公爵令嬢で社交に長けたユースティシアは一層愛されるようになった。
執拗に、過剰なほどに。
それによりユースティシアはわかってしまった。
デイビッドが、ユースティシアを逃がさないつもりなのだと。
そこからは早かった。
ユースティシアはデイビッドを愛する婚約者のふりをして接し続けた。
相手は王族なので婚約破棄は難しく、また過去にデイビッドに愛された事実もあるため、ユースティシアはそうする以外の方法がわからなかった。
このことを知るのはユースティシアとリリーだけだ。
きっとリリーがいなければ、ユースティシアは罪悪感で今以上に苦しむことになっていただろう。
「ユースティシア様」
リリーは一歩前に出て、ユースティシアに紅茶を差し出した。
ユースティシアの鼻をジャスミンティーの良い香りがくすぐる。
一口飲むと、ユースティシアはほっと息をつく。
「……ありがとうリリー。とてもおいしいわ」
「ユースティシア様のメイドですから」
「ふふっ、リリーは謙虚ね」
ユースティシアは柔和な笑みを見せる。
「リリーがいてくれてよかったわ」
「! 私も、ユースティシア様がいてくれて嬉しいです。お会いできたことが私の人生最大の幸福です」
「それは大袈裟よ」
「大袈裟ではありません。本当のことを言っただけです」
くすくすとユースティシアが笑う。
ユースティシアが十六歳の少女としていられるのは、リリーと二人きりの時だけなのだった。
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