後継者問題

外気温35℃、外は10年に一度の猛暑ということですが、店内は23℃設定の天国。


 わたしの主戦場であるシャンプースペースも、個別のエアコンにより、快適なシャンプーライフを過ごしています。


 しかし、今……わたしの手は熱湯にさらされ悲鳴をあげている。


 50°より少し低いくらいの温度のお湯。素人の手なら10秒も対応出来ないだろう。


 そんな中、わたしはお客様の髪を洗っている。熱い、熱い、熱い、熱い、熱いわ〜!


 こちらのお客様、常連の方なんですが、お湯の温度にうるさいのです。うるさいと言うと失礼でした。申し訳ございません。


 だいたい、シャンプー台の温度40°〜42°くらいでしょうか、カラー後のシャンプーはもっと低いです。


 ですが、こちらのお客様の場合……もっと熱く、もっと熱く、もっと熱く……約50°……死にます……手が……


 これは、わたしクラスしか出来ません。いや、させられません……可哀想だから、手荒れで苦しんでる子達が……


 ここは、わたしに任せて君たちは先を急げ!と送り出します。


 しかし……熱い……熱いよぉ……身体はエアコンで冷えてるのに手だけ熱いよぉ……


 話を伺うと、頭が冷えるのが嫌いらしく、超熱湯で洗ってね、とおっしゃるんです。絶対良くないと思うんですよ。油分を落とし過ぎて、乾燥の原因になり痒みも出る。(わたしの手も)


 でも、説明してもダメなんです。ちょっと怒っちゃうので、おとなしく言われるがまま、させてもらってます。


 いつかこのお客様も、誰かに引き継がないといけないと思うと、胸が痛みます……くっ……ツラい……


「あぁ、気持ち良かったぁ」


 ふぅ……ありがたい……この言葉でわたしの真っ赤になった手も報われる。果たして、わたし以外に、こちらのお客様を満足させる事が出来るのか……一人、一人、わたしの下にいるシャンプーマン達を見渡す。


 この中に……わたしの後継者が……


「私、あなたのシャンプー以外は嫌なの。あなたがスタイリストになっても、カットを指名するからシャンプーしてね!」


 え?……後継者……


「ありがとうございます♪(可愛いらしい声)」


 後継者問題解決!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る