揺れ動く影
ウィリディスの砂漠地帯。
王都が見渡せる岩場の上で、
一人の青年と少女が佇んでいる。
時は夕闇が迫ろうとしており、
段々と暗く肌寒くなってくる頃合いだ。
揺れ動いていた2人の影が
闇と一体化してきていた。
ウィリディスは木々が多いが、
空島特有の砂漠地帯もそれなりにある。
だからこそ、
暑い昼とは打って変わって、他の王国同様に夜になると底冷えするのだ。
本来、
この時刻には街へと急ぐのが普通だが、
青年と少女に先を急ぐ様子は見えない。
「あの、本当のほんと〜にその作戦で行かれるんですか? 引き返すなら今だと思うのですが」
少女は自信なさそうに青年を見上げる。
ベールから覗く乳白色の髪がサラリと彼女の肩に流れた。
「今さらどうしろって言うの? 勿論、僕だって不安だよ。……でもさ。何もしないで手に入るものなんて、碌なものじゃないって心底分かったから」
「それは、……そうですけど」
青年は
ターバンから目元に垂れた前髪をさっと手で払う。
空島には珍しい銀髪と左右違う瞳の色で、
年頃の娘であれば、目を奪われる整った容姿。
(何というか、下手な小細工するより真正面から打つかった方がいい気がするのは私だけなのかな?)
少女はどう言葉を紡いでいいのか迷い、
そして口を噤んだ。
「僕は彼女をあそこから連れ出してあげたいんだ。……僕をどん底から連れ出してくれたのは他ならぬ彼女なんだから」
「じゃあ、そのまま伝えたらいいじゃないですか! なんでまた、こんな回りくどいことを?」
少女の言葉に
青年がだらりと肩を落とした。
「……仕方ないだろ? 僕は自分に自信がないし、それに……」
青年はすっと目を細めた。
闇にどれだけ紛れようと、
彼が彼女の光りを見失うことはない。
遠くから
淡く輝く光がこちらへと近づいてきていた。
(ルドの月読どおりだ)
「彼女はいつだって予測不可能。こちらの予測をはるかに上回ってくるんだから。だから、こちらもそれを上回るくらい大胆に行動しないと」
彼女は
普通からは遥かに程遠い人だ。
それだからこそ、
何にも囚われない強さを持つ人でもある。
「自由な彼女の心を掴むためなら、少しの演出と計略なんていくらだって創り出してみせるよ」
「……何というか、そのやる気を別の方向に活かされたほうがよいと思うのは、私だけなんでしょうか?」
「何か言った?」
「いいえ、別に」
少女は青年に気づかれないようにため息をつく。
後に、
このときの少女の言葉に従っていればと
青年が思い知るのはしばらく後のことである。
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