第6話 今、できること。


どれほどここにいたのだろうか?


気がつくと、

モアナは城壁の外にあるいつもの場所にいた。


そこは深淵の森の入口で、

低木が生い茂っている。


空島の中で、

ここまでの森があるのはウィリディス王国くらいだろう。


他国は森といっても、

本当に小規模の低木が集まっているだけに過ぎない。


それは

他国を行き来しているモアナだからこそ実感として知り得ることだ。


辺りはすっかり陽が落ちて、

ウィリディスの街の中心に位置する王城がミナレットによって照らされている。


モスクを模した王城が

神秘的な雰囲気を漂わせて、新月の夜にその存在を強く主張している。



あんなに

大規模に王城を照らすようになったのはいつだっだろうか。


それまで姉に任せきりだった父が、

防衛のため、敵の侵入をすぐに分かるように夜の王城を永遠と照らし出せ

と命令したのだ。


いきなりどうしたと思ったが、


姉の反対を押し切り、

強行突破した結果があの闇夜に照らし出される王城というわけだ。



あの光のもとになる油を手に入れるのに

どれだけのお金が必要になるのか。


果たして、

あの父がそこまで導き出しているかは謎だ。


だが、

今さら興味もない。



闇に紛れて敵の侵入を防ぐ目的なのは

分からないでもないが、


モアナにとっては

別の意味でやっかいなことだった。



それでなくても・・・・・・・夜はモアナにとって明るすぎるのに、

王城までもが光り輝いては目も眩んでしまう。


ふぅと息を吐けば白い湯気が

細く闇夜に溶けていく。



砂漠地帯の夜は冷える。

それは森が多いウィリディスでも同じこと。


モアナはブルリと身体を震わすと、

ふと自分の手元が気になった。




正確に言えば、

その手に着けられた指輪に、だ。


王族を象徴するための印が施されたモアナだけの指輪。


各王国に王族が誕生すると、

中立国であるアルブスの大精霊がその魔力を込めた特別な指輪を創り出す。


そこには

その王族の生まれた王国の名とその王族の名前が刻まれる。


それは

決して書き換えることのできない祝福の印。


アルブスの大精霊が

その王族を守護する証だそうだが、真偽は不確かだった。


そして、


婚約を結ぶ際にこの指輪を配偶者に贈る。

王族同士であれば、贈り合う形になる。


そして、

新たに結婚して夫婦となった2人には

指輪をアルブスの大精霊がさらに創り出す。


これが

古い時代からの流れらしい。


だからこそ、


この指輪が自分が王族としての証であり、

婚約・結婚の際には必ず必要なものでもある。



(あ、じゃあ……)


モアナは唐突に思い立った。


モアナは結婚に興味がない。

いや、正確には人を好きになる感覚が理解できない。



人はいつだってモアナを異質な存在として排除する。

それはときに家族でさえも。


唯一

母と姉だけがモアナを理解を示してくれた。


それでも、

モアナのすべてを理解してくれたわけではない。


いつもモアナが何かをしでかす度、

2人ともふっと悲しそうに笑うのだ。


そこに

底知れぬ悲しさを感じてしまう。




だが、

母は他界し、姉は他国へ嫁いだ。


モアナの味方は

どこにもいないのだ。




だからといって、

今の状況をただ見ているだけは嫌だ。


ならば、

モアナの取る行動は決まっている。


モアナはすくっと立ち上がると、

手から王族の象徴たる指輪を抜き取る。


そして、

大きく息を吸うと同時に大きく口を開いた。

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