第14話 癪ではあるけれど。


モアナの指輪は

金にウィリディスの森をイメージした緑の宝石が

多数散りばめられたもの。



アルブス王国の王太子が忍ばせたこの指輪は


金に緑の宝石が散りばめられてはいるが、

ほんの少しだけデザインが違う。


モアナのオリジナルは

宝石自体が葉の形をしているのだが、


忍ばされたこの指輪は

宝石は四角にカットされているだけ。


遠くから見れば

その違いはそうそう分からないだろう。


(まぁ、王族が誕生するときには誕生パーティを開くし、そこで指輪のお披露目もされるから、デザインについてはある程度情報を取れなくもない……か)


それにしても、


王族の指輪を模したものを作ることは

死刑を意味する重罪。


これを誰かに贈ること自体

諸刃の刃となることが分からないのだろうか。


(それとも、別の意図があるって言うの?)


モアナは

手紙と指輪をくまなく見るもそれ以上の情報は見つけられない。



「お待たせいたしました~」


「すみません。選んでいたら、思いのほか多くなってしまって」


じゃらじゃらと

装飾品を手に帰ってきたアンヌたちの声に

モアナは我に返った。


「あ、お帰りなさい。悪かったわね、取りに行かせて」


「いえいえ。その代わり、好きに着飾らせてもらえればわたしたちの苦労も報われますから」


「…………お手柔らかに」


腕を鳴らすジャンヌに怖じ気づきながら、

モアナは一旦考えることを止めた。




それ以降、

アルブス王国の王太子からあらゆる贈り物が届くようになった。


この間のドレスに合うような装飾品の数々。

化粧品や香油など、女性が好みそうな身体を磨く品々。


それに加えて、

何故か手に入らない稀少な書物などの文献が贈られてきていた。


(あたしが本を読むことが好きなのを知ってるのはごく少数の身内だけなんだけど)


淑女教育なんて知りません、お勉強もやりません、

というスタンスを取っているモアナは、


このウィリディス王国の王城では

本を読まないようにしている。



こっそり王城の図書館に忍び込んで

(きちんと利用する権利はあるのに)

人知れず読むことはあっても、


人の目の届く場所での読書は

意図的に控えている。



それ以外にも

アンヌたちが首を傾げる旅の道具の数々を

(旅をしない人には何のための道具か分からないから)


アルブス王国の王太子はせっせと贈ってくるのだ。


(どういう情報網なの?! 贈り物よりそっちの方が怖いんだけど)


まさか、

モアナの知らない間に監視でもつけられているのかもしれない。



軟禁された上に

謎の贈り物攻撃によってモアナのストレスは日々増えていく一方だ。



いつもなら

力業で自室から抜け出すこともできただろうが、


あの指輪事件から

どうもモアナの調子が上がらない。



とりあえず

何とかアルブス王国の王太子に直接接触してみるしかない。


下手に文字に残して

後々何かの証拠になるのはお互い本意じゃないだろうから。


(……本当に癪ではあるけど。結局のところ、お父様の思惑通りに夜会に出るしかなさそうね)


父王は

結局のところ、指輪問題をすべてモアナに丸投げした。


曰く、

『夜会前にアルブス王国王太子に会って、指輪交換をうやむやにしておけ』

というめちゃくちゃなことを宣った。


『うやむや』の具体的な例が

まったく浮かばないのをどうしてくれよう。


それよりかは

婚約しない方が指輪の存在を誤魔化さなくていいから楽だろうに。

とんだボンクラだ。

 


ため息をつきながら

昼食のフブスを口に運んだモアナは諦めたように目を閉じた。


アンヌたちからの情報で

他国の賓客を招いた夜会が明日に迫っていたからだ。

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