第12話 話の中で認識ズレてる事ってわりとあるよね?


父王に婚約拒否を強く主張した

あの日以来。


モアナは自室から出ることが許されなくなった。

いわゆる、軟禁という奴である。


自室は3部屋からなる。

奥の寝室、居間、そして侍女部屋。


実質、

2部屋以外(侍女部屋はアンヌたちの居場所だから)は

自由に移動できない。


おそらく、

今度の夜会までモアナを部屋から出さない気なのだろう。


いや、

もしかしたら指輪が出てくるまで出さない気か、

婚姻を承諾するまで出さない気か。


ともかく、

父王に啖呵を切ったあと、雪崩のように押し寄せた近衛騎士たちにより

モアナは自室に軟禁された。



「馬鹿なんですか?」


「馬鹿なんでしょうね」


ジャンヌの問いに

その母親であるアンヌが答えた。


モアナは

自室のベッドでゴロゴロしている。



王族が指輪を無くすなど言語道断だ。

この空島の創世記すら覆す重罪である。



それを

モアナはあっさりとやってのけてしまった。


かける言葉もない。


「そんなに結婚したくないなら、お国を出奔なさればよかったのでは?」


「……あのときはそれが最善・・の策だったの」


最善・・どころか最悪・・の策なのですけど」


ジャンヌの問いに答えるモアナに、

アンヌが最もな意見を付け加える。


いつも王族たれ、と言われ続け、

王族でなければと恨みが募った結果の暴挙だ。


許してもらえる、とは思っていない。

いや、正確にはそこまで考えてはなかった。


「あの、その姫様が指輪をお捨てになった砂漠を探してみるというのは?」


「陛下が秘密裏に兵士をやって探させているようだけど……まだ何も」


「……」


ジャンヌとアンヌは

無言でため息を付き合った。


頻繁に砂嵐が巻き起こる砂漠から

何かを探すのはほぼ不可能。


ウィリディス王国内にあればまだ良い方で、

他国へ飛ばされていてもおかしくない。


そして、

そうなればウィリディスは終わりだ。


その指輪を見つけた者が

それを元にこちらを脅すことも容易に考えられる。


それこそ、

王国が亡ぶかもしれない緊急事態だった。


「まぁ、いいじゃない。どうせ、婚約や結婚をしようがしなかろうが、あたしに自由なんてないんだから」


「モアナ様……」


そうだ。


婚約や結婚をしようがしまいが、

王族という枠に縛り付けられ、モアナの自由は制限される。



それなら、

自分のままで生きていけばいい。



どの道、

自由が制限されるなら、自分を偽ったって同じ事だ。



姉がいてくれた時は、

モアナの突飛な言動をかばってくれたが、

今はそうもいかない。



(まぁ、ジャンヌの言う通りさっさとこの国捨てればいいって話だけど)


それができない理由がモアナにはあった。


(せめて、の手がかりさえあればいいのに)


王族でなければ会えない存在がいる。

それを今は失うわけにはいかない。


いや、いかなかった・・・・・・のだが。


(アルブス、カエルレイム、ルーフスも空振りだったし、あとは最近滅んだウィオラーケウスしかないんだけど)


「モアナ様? 聞いていらっしゃいますか?」


「はぁ、もう万策尽きた〜」


モアナが寝台に突っ伏したのを見て、

ジャンヌとアンヌは顔を見合わせた。


「起こしてしまったことは仕方がありません。何とか方法がないか。私たちも考えます」


「そうですよ。ドゥーナ様にもお知恵を拝借いたしましょう。きっと力になってくださいます」


「……お姉様」


カエルレイムへ嫁いでしまった姉を思い出し、

モアナは再度寝台に突っ伏した。


(うち・・のはまったく協力的じゃないから、望みはカエルレイムのあいつ・・・しか……)


あの見た目が麗しいだけ・・の、

毒舌な少年の顔がチラつきだしてモアナは自然と気分が落ち込む。


「はぁ」


「元気をお出しくださいませ、姫様」


「大丈夫です。きっと見つかりますよ、指輪」


実は

彼女たちの認識は若干ズレているのだが、


そのことに

誰一人として気づく者はいなかった。

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