第10話 覆らない決定事項。


王の寝室は

王城の中央の、さらに奥まった部分に位置する。


当然

出入りできる者も限られている。



そんな制限された空間に

モアナは勢いよく乗り込んだ。


案の定、


寝台の上で気だるそうにこちらに目線を向ける父王と、

その父王にしなだれかかっている正妃が目に飛び込む。


視界に入れたくない面々を前に、

エルザは内心ため息を付く。


(本当はあの人・・・のいないところでお父様と話をしたかったのだけれど)


父は姉が嫁いで以降も、

ほとんどの王の仕事を重臣に放り投げている。


故に、

執務室にはいつも不在。


基本的に

モアナと食事を取ることもないから会えない。


いや、

モアナも会いたくないから会わない、というべきか。


食事は、


寝室で正妃である継母と一緒に取るか、

継母と義母弟の部屋との共用部で、継母と義母弟と3人で取っているらしい。


らしい、というのもモアナはその席に呼ばれたことはなく、

侍女たちの話を伝え聞いたまでのことだ。



「何用だ、騒々しい」


「まぁ、夫婦の寝室に先触れもなく現れるなんて、あなたに淑女教育を受ける意味なんて、これっぽっちもなかったのねぇ」


「結婚しないって、言ったでしょ? なんで勝手にお披露目しようとしてるのよ!」


モアナが

憤慨しながら父王にそう告げる。


淑女教育で身につけた言葉使いは

婚約話続行を聞いてその辺に投げ捨てた。


継母は無視するにかぎる。

下手に反論するとアンヌやジャンヌに被害がいく。


夜会に呼ばれないようにしても、

身の回りの侍女や護衛を減らしても、

ドレスや装飾品にかけるお金を制限しても、


姉やモアナが平気でいるのを見て、

継母は今度は侍女であるアンヌやジャンヌをいじめだした。


さすがに

姉やモアナに直接的に危害を加えると、後で揚げ足を取らるとも限らない。


そのくらいの頭の回転はあるらしい。


侍女ならば、

正妃たる権限で注意をしていただけと言われれば、

大抵のことは通ってしまう。


そして、


アンヌやジャンヌに被害がいけば、

姉もモアナも大人しくなることをちゃんと心得ている。


味方の少ない彼女たちにとって、

侍女の親子は家族も同然だから。



(いっそのこと、あたしや姉さんを殴ったり叩いたりしてくれたら、そのを元に裁判にかけるのになぁ)


まぁ、

モアナの性格上、やられっぱなしではいられないだろうが。



「婚約は決定事項だ。お前の意見など聞いてはいない」


「なっ。あたしの意見を聞く気がないなら、事前に言う意味なんてあるの?」


「ある。いかなお前でも、心づもりくらいは必要であろう? これまで王族の義務と責任から逃れてきたお前故に、戸惑うこともある。そこを配慮した私からの温情だ」


「温情?」


その温情とやらを父王に尽くしてきた姉や重臣、

そして何より王国民に当ててほしい。


そんな恩着せがましい温情など、

モアナ自身には要らない。


「準備もあるであろうから、今後の外出は控えよ。そして、アルブスの王太子の心を繋ぎ止めろ」


そこで、

くすりと継母が笑った。

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