覆らない決定事項。


王の寝室は

王城の中央の、さらに奥まった部分に位置する。


当然

出入りできる者も限られている。



そんな制限された空間に

モアナは勢いよく乗り込んだ。


案の定、


寝台の上で気だるそうにこちらに目線を向ける父王と、その父王にしなだれかかっている正妃が目に飛び込む。


視界に入れたくない面々を前に、

エルザは内心ため息を付く。


(本当はあの人・・・のいないところでお父様と話をしたかったのだけれど)


父は姉が嫁いで以降も、

ほとんどの王の仕事を重臣に放り投げている。


故に、

執務室にはいつも不在。


基本的に

モアナと食事を取ることもないから会えない。


いや、

モアナも会いたくないから会わない、というべきか。


食事は、


寝室で正妃である継母と一緒に取るか、

継母と義母弟の部屋との共用部で、継母と義母弟と3人で取っているらしい。


らしい、というのもモアナはその席に呼ばれたことはなく、侍女たちの話を伝え聞いたまでのことだ。



「何用だ、騒々しい」


「まぁ、夫婦の寝室に先触れもなく現れるなんて、あなたに淑女教育を受ける意味なんて、これっぽっちもなかったのねぇ」


「結婚しないって、言ったでしょ? なんで勝手に他国へお披露目しようとしてるのよ!」


モアナが

憤慨しながら父王にそう告げる。


淑女教育で身につけた言葉使いは

婚約話続行を聞いてその辺に投げ捨てた。


継母は無視するにかぎる。


下手に反論するとアンヌやジャンヌに被害がいく。


夜会に呼ばれないようにしても、

身の回りの侍女や護衛を減らしても、

ドレスや装飾品にかけるお金を制限しても、


姉やモアナが平気でいるのを見て、

継母は趣向を変えて、侍女であるアンヌやジャンヌをいじめだした。


さすがに、

これ以上姉やモアナに直接的に危害を加えると、後で揚げ足を取られるとも限らない。


そのくらいの頭の回転はあるらしい。


侍女ならば、

正妃たる権限で注意をしていただけと言われれば、大抵のことは通ってしまう。


そして、


アンヌやジャンヌに被害がいけば、

姉もモアナも大人しくなることをちゃんと心得ている。


味方の少ない彼女たちにとって、

侍女の親子は家族も同然だから。



(いっそのこと、あたしや姉さんを殴ったり叩いたりしてくれたら、そのを元に裁判にかけるのになぁ)


まぁ、

モアナの性格上、やられっぱなしではいられないだろうが。



「婚約は決定事項だ。お前の意見など聞いてはいない」


「なっ。じゃあ、あえて聞くけど、あたしの意見を聞く気がないなら、事前にあたしに言った意味なんてあったわけ?」


「ある。いかなお前でも、心づもりくらいは必要であろう? これまで王族の義務と責任から逃れてきたお前故に、戸惑うこともある。そこを配慮した私からの温情だ」


「温情?」


その温情とやらを父王に尽くしてきた姉や重臣、そして何より王国民に当ててほしい。


そんな恩着せがましい温情など、

モアナ自身には要らない。


「準備もあるであろうから、今後の外出は控えよ。そして、アルブスの王太子の心を必ずや繋ぎ止めてみせるがよい」


そこで、

くすりと継母が笑った。

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