第9話 幕間 少女のささやかな願いごと。


「あのぅ、ペルス様」


「なんだい、エルザ。改まって」


エルザと呼ばれた少女は

ご機嫌で手の中のそれを眺める主に対し、遠慮がちに言葉をかける。


「本当にやるおつもりですか?」


何を、という言及は避けたい。


ここは自国ではないし、人の気配はないが、

彼ら・・はいつでもどこでもエルザたちのそばにいる。


万が一にも

彼ら・・が誰かに告げ口する必要もある。


彼ら・・

本来気まぐれで、それでいてとても残忍だ。


だからこそ、

この空島にいるのだから。


それを

自分自身もよく分かっている。


エルザは

自分の胸の前に握った手を置く。


「だって、彼女を助けてって言うからさ」


ペルスは

その整った顔に笑みを浮かべる。


それの合わせて

彼ら・・が呼応するのよう光り出す。



彼の内面をしらなければ

うっとりするであろうその笑みにエルザは寒気を覚える。


別に主のことが嫌いなわけではない。


ただ、


何を考えているのか皆目見当もつかない彼が、

ときどき恐ろしくなるのもまた事実だ。


「その、確かに救いになるのかもしれませんが、ご本人の意志は完全無視ですよね?」


なんせ、

彼女は先程あのように叫んでいたのだ。


ペルスの要求を

はい、喜んでと言いそうにないのは誰でも分かることではないだろうか。


「まぁ、流れに乗せてしまえば、後はどうとでもなるよ」


「その流れに乗せる前に、いろいろあると我が王国にも影響があるのでは?」


強引に事を進めようとすれば、

何かしらの障害が出てくるのは当たり前のことだ。


そして、

どう考えても波乱が起きる予感しかしない。


「せめて、彼女ともう少し距離を縮めてからでも」


「大丈夫。僕は失敗しないから」


そんなの、

今までの結果であって、これからを必ずしも保証するものではない。


そう言いかけて、

エルザはペルスを改めて見上げる。



夜空を煌めく星のような銀髪。

彼を取り巻く淡い光たちは今も昔も変わらずここにいる。


ただ、

それが見える人々が大幅に減っている。


それが

何を意味するのか。



エルザはため息をついた。


結論は分かりきっていた。

主の決定を覆すことはできない。


エルザの与えられた役目を考えても

到底不可能だろう。


けれども。


「……大丈夫、ですか?」


「ん?」


エルザは

ペルスにそう問わずにはいられない。



大丈夫でない人に大丈夫と聞くほど、

愚かなことはないのかもしれない。


けれど、

それ以外に言葉が見つけられないのだ。


故に、

こんな無駄な問いを投げかけてしまうのだろう。



「大丈夫だよ。ありがとう」


ペルスはいつもの笑みをしまうと、

その宝石のような瞳をふわりと綻ばせた。


あまり心を開かない彼が身内だけに向けるその表情。


(願わくば、彼女ともそういう関係になってくださいますように)


エルザが祈るように目を閉じると、

ペルスは彼女の頭をぽんぽんと叩いた。

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