第2話 モアナのこれまで。

モアナは

ウィリディス王国の第二王女として生まれた。


この大陸は

空島そらじま』と呼ばれ、精霊が守りし神秘な島……らしい。


ウィリディス王国は空島の西に位置しており、

砂漠地帯が多い他の王国の中で最も緑豊かな王国だった。


そんな恵まれた王国で生まれたモアナだが、

彼女10歳のときまで、自分が周囲からみて『変』だということに気が付かなかった。


母が

特別大らかだったからかもしれない。


子どもの好きなコトをそのまま良しとする母は、

王城の外に出て行きたがるモアナを愉しはしても、止めはしなかった。


一応、

姉同様に王族に恥じない淑女教育なるものを受けてはいたが、


姉と比べると

ギリギリの及第点がつくかどうかだった。


母と姉は

思うままに空島中を旅して回るモアナに呆れつつも、

しっかりと支えてくれたのだ。


だが、

そんな母が亡くなった。


モアナが10歳のときだ。


それと同時に、

モアナの周囲がガラリと変わった。


まず、

父はほぼ母の喪に服することなく、次の妃を娶ったのだ。


そして、

彼女は当然のように母の位であった『正妃』に据えられた。


それが

母が亡くなってから、わずか一月足らずの出来事。


そこから、

父はモアナより5歳年上の姉に15歳ながら王政を任せ始めた。


いや、


正確には姉に王政を押し付け、

娶った妃である現正妃とともに遊び暮らし始めたのだ。


国政の重要事を決める議会にも出ず、


姉と重臣が吟味した書類に王印を押すだけの、

ただのフヌケと成り下がった。


だが、

それだけであったなら、まだ良かったのかもしれない。


姉は

頭脳明晰で政治にも強い。


だから、

優秀な重臣の助けで何とか国内が混乱するのを防いでいたと思う。


けれど、


前正妃の子である姉やモアナの扱いは、

それまでとはまったく違ってきたのだ。


別に衣食住を十分に与えられない、

というわけではない。


けれど、


側仕えの侍女や護衛騎士などは目に見えて減らされ、

王族として必ず出席せねばならない夜会以外には呼ばれなくなった。


まぁ、

この点はモアナにとっては願ったり叶ったりだったのだが。


当然、

あまり姿を現さない王女たちには国内から縁談があるわけもなく、

(現正妃があることないことを噂として流していたからでもある)


姉は

ついこの間まで『嫁ぎもせずに国政を欲しいままにする悪女』と言われ、

20歳まで良い縁談話は一切来なかった。


まぁ、

その姉が嫁ぐことになった経緯が、

別の意味で頭の痛い話だったのだが、そこを今は割愛したい。



そんなこんなで、

モアナは15歳の現在、


王女としての役割を果たすことなく、

婚約者もおらず、


しかも

城を度々出奔しては冒険者の真似事をするじゃじゃ馬王女、

という分けの分からないあだ名がついている。


そして、

ついこの間まで結婚のけの字も話題に上らなかったわけだが。



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