第8話 決着



「僕を蹂躙だって?おもしろいことを言ってくれるねぇ、ゼクト。あははは。ほんとにおもしろいよね、キミ」


ひとしきり笑うとクズリスはとある女の子に目を向けた。

そこにいたのは王都からクズリスといっしょに来ていた女の子だ。


金色の髪の毛を持った女の子。

目は細く意志の強そうな女の子。


「審判は彼女に任せていいよね?安心しなよ。贔屓なんて絶対にしないから。良くも悪くも公平に判断してくれる」


クズリスは俺を見て笑ってこう続けた。


「ま、君にとって"不公平"に見えるかもしれないけどね。ははは」


俺は女の子に目をやった。


「審判、そろそろ始めて欲しい」


こいつの長話に付き合うのもウンザリしてきていた。


「分かった。両者準備はいいな?」


だが、クズリスはこの後に及んでまだこんなことを言い出した。


「ダメだよソフィア。ゼクトがまだ遺書を書いてな……」


「いつまでもうるさいぞ。クズリス」


俺はソフィアと呼ばれた女の子に目を向けた。


「始めてくれ」


ソフィアはコクリと頷いた。


「では、試合開始」


先手を取ったのは俺だ。

俺はただ踏み込んでクズリスへと接近。


「戦い方も知らないのかい?ゼクト?!まずは軽い技を出して牽制しあうんだよ!」


俺の接近を咎めるような剣の振り方をしてきた。


パーン!

俺は剣でクズリスの攻撃を弾いた。

クズリスの手を剣が離れる。

宙をクルクルと回りながら舞っていた。


「んなっ?!剣が!」


「お前こそ戦い方を知らないんじゃないか?クズリス」


牽制?

技の出し合い?


そんなもの俺には必要ない。

策というのは同じくらいの強さの者が相手を出し抜くのに使う小細工である。


極論、人間に踏み潰されようとしているアリが策を練ったところでなにも変わらない。


「百獣の王であるライオンがウサギを仕留めるのに小細工など必要ないだろう?」


俺はクズリスを殺さないように、剣を逆手に持った。

そして、柄の部分でクズリスのこめかみを殴ってやった。


こいつは腐っても公爵家の息子だ。

不用意に殺さない方がいいだろう。


「かはっ……」


息を吐き出す。

クズリスは片膝をついて倒れ込む。


「はぁ……はぁ……」


ダメージによって立ち上がれないクズリス。


クズリスを見下ろしながら聞いた。


「降参したらどうだい?もう動けないだろ?今ので」


感触的に頭蓋骨は少し割れてると思う。


「これ以上続けたら死ぬかもよ?」


周りから声が聞こえてきた。

子供たちの声だった。


「ゼクトさんすげぇ!」

「ってかクズリスってやつ弱すぎない?あんだけゼクトボコボコにするって僕達呼び出したのにw」

「ねぇwよわっw」


クズリスは俺を見上げながら歯を食いしばっていた。


「ゼクトぉ……」


そのときだった。

タッタッタッ。

ソフィアが近付いてきた。


「あと3秒で立ち上がらなかったら勝敗は決定する」


ソフィアはカウントを始めた。


「3,2」


「くっそぉ……ぶはっ!」


クズリスは血を吐き出した。


そのとき。


「1、0」


ソフィアはカウントを終えた。


「お前の負けだ、クズリス」


ソフィアは俺の勝ちを宣言した。


クズリスの言った通りソフィアは完全に公平なジャッジをしてくれた。

あまりにも公平すぎて俺の口から自然と言葉が出てくるほどだった。


「いいのか?そんなにあっさり負けを認めて。味方なんじゃないのか?」


「私は剣士としていつでも正しい判断をしなければならない」


ソフィアがそう言ったときだった。


「まだだ、勝負は終わってない」


よろっ。

クズリスが立ち上がってきた。


「しつこいやつだな。クズリス」


俺はソフィアといっしょに目を向けた。


「勝敗はついた。剣を納めろクズリス」


ソフィアもそう言ってくれていたけど、クズリスは剣を俺に向けてきた。


「【聖剣フルパワーモード解除】死ねぇぇぇぇぇ!!!ゼクト!!」


ピカッ!


剣が光を放った瞬間に爆発した。


「えっ……なんで」


クズリスはその場に倒れ込んだ。


「教えてやろうか。さっきの戦闘中に俺はお前の剣を弾いたな?そのときにその剣を徹底的に破壊するように全力で振り抜いた。そのせいだ」


飛んで行った剣に目をやるクズリス。

ソフィアも呆れていた。


「まだ罪を重ねるつもりなのか?クズリス。この件はしっかりと報告させてもらうぞ」


ギリッ。

歯を食いしばってその場で黙り込むクズリス。


ソフィアはクズリスの捕縛を始めた。


「迷惑をかけたな。このままこの男は厳重に監視して王都へと帰るよ」


ソフィアはぺこりと軽く会釈をしてそのまま村の入口の方へ向かっていった。


「明日の朝もう一度この村にくるよ。もちろんクズリスは抜きでね」


ソフィアはそのまま村を去っていった。


(この戦いの結果はすべて学園側に伝わるはずだ)


学園でも期待されているというクズリスを圧倒した。

学園から俺への招待がくるかもしれない。


今は期待して待つことにしよう。


俺が広場を立ち去って家の方向に向かおうとしたときだった。


ミーシャと目が合った。

どうやら俺たちの決闘を見ていたらしい。


「ゼクトー」


駆け寄ってきた。


「すごいじゃん。クズリスに勝っちゃうなんて、スカッとしちゃった」


そこで不思議そうな顔をしたミーシャ。

ん?なんなんだろう。この顔は


「でもなんでクズリスと戦ってたの?」

「ミーシャに手を出させないようにだよ。ミーシャに手を出せば痛い目みるぞって意味で」

「私のために戦ってくれてたの?ジーン。私感激しちゃったっ!」


上機嫌な表情のミーシャ。


「でもさ。そんなことしなくてもよかったのに」

「へっ?」


気の抜けたような声が出た。


「だって私、ゼクトと婚約するつもりだったから」


「え?婚約?」


「うん。婚約した女性に手を出すのは法律で禁止されてるよ。だから婚約しちゃったらクズリスも手が出せないよ」


ゴソゴソ。

ミーシャはカバンから白い箱を2つ取り出してきた。


パカッ。

箱を開けると2つの指輪が入ってた。


「こほん」


ミーシャは恥ずかしそうに顔を赤くして咳払いした。

それから上目遣いで俺を見てくると……


「私と婚約してくれますか?ゼクト」


「……(うん?)」


ひょっとして。


俺はなにか早とちりしてしまったのだろうか?

この子が俺を裏切るような展開とかあるんだろうか?


否!


裏切られるようなことはたぶんないと思うけど、婚約はしておくか。

脳は少しでも破壊されたくないし。


俺はミーシャの顔を見た。


「婚約しよっか」


そのあとミーシャからこの世界の婚約に関する情報を軽く聞いた。

この世界では親の同意とかは特に必要が無いらしく、基本的に当人たちが婚約したいと言えば出来るらしい。


俺とミーシャは婚約を果たしお互いの指に指輪がはめられることになった。


「へへ、えへへへ。ゼクト雰囲気変わったよね」


少し前アリスに言われたことをミーシャに言われていた。


「私は今のゼクトの方が好きかな。前は私がいなきゃなにもできない感じで母性くすぐられてたけど」


(あっ……なるほど。ダメ男に引っかかってたのね)


それからミーシャはこう言った。


「じゃあ、また明日ね。ゼクト」


一週間ほど前にまったく同じセリフを聞いた。


でも……今はあの子は絶対に寝盗られないという確信を持っていた。



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