第7話 反撃

「さ、案内してよゼクトくん。この一週間好きにさせてあげたんだ。別れの準備くらいは済んだだろう?」


笑っていた。

嫌味な笑顔だった。

明らかに俺に敵意を向けているようなそんな笑顔。


最初に会った時も思ったけど、ほんとに嫌な奴だ。


(案内は、いやだけどするしかないか)


王都行きだが今日中に行く訳では無い。

ここから王都まで約12時間ほどはかかる。

そのためクズリスは今回この村で世を明かすことになる。


その前にミーシャとの挨拶を済ませるらしい。


「分かった。案内しよう」

「頼むよ。ゼクトくん」


俺はクズリスを連れてミーシャの家まで案内することにした。

ミーシャは家の前で待っており、俺たちが近付いてきたのにはすぐに気付く。


一番最初に声を出したのはクズリスだったけど。


「やぁ、ミーシャ。僕はクズリス。学園に入学したら君といっしょにパーティを組むことになる男だよ」


ミーシャに言いよろうとしていたクズリス。


でもミーシャはクズリスとは違う反応を示す。

クズリスを無視して俺に目を向けた。


「ゼクト。私は3年後ぜったいに帰ってくるから。待っててくれるよね?」


俺は頷かなかった。

3年も別れるつもりはないからである。

クズリスは俺の沈黙を諦めと受け取ったようだ。


「安心しなよミーシャ。3年もあればゼクトのことは忘れるからさ。いや、僕が忘れさせてあげよう」


「忘れないよ。私はゼクトが大好きだから」


ピクリ。

クズリスの眉が不快げに動いた。


「ミーシャ、君の口から他の男の名前は聞きたくないんだけどなぁ」


やれやれといった表情でクズリスは肩をすくめていた。


「私もゼクト以外に気軽に名前を呼ばれたくないんだけど?」


「ミーシャ?言葉には気をつけた方がいい。僕はアーノルド学園でも期待されている人間だ。媚の売り方としっぽの振り方を教えてあげようか?」


ミーシャの手を掴もうとしていたクズリス。


(ミーシャには触らせない)


クズリスの手を掴んで行動を止める。


「そのへんにしておいてくれないか?」


クズリスの顔が思いっきり歪んだ。


「平民が、僕の手を掴むなよ下等生物が」


ギリギリ。


目を細めて睨みつけてくる。


「今すぐこの僕に謝れよゼクト。貴様の汚い手で僕の体に触れたことを」


「なぜ、謝る必要が?お前が先にミーシャに触れようとしたんだろうが」


ギリッ。

クズリスは歯を食いしばって吠える。


「クズが!こんな辺境の下級貴族の息子の分際で!僕が王都在住の公爵の息子と知らないで言ってるのか?それならまだ許してやる」


こいつが今まで威勢良かったのはこれが理由か。

まぁ、もっとも身分が高くなければ父さんも【客】なんて扱いしないだろうし、察してはいたけど。


「お前に許してもらわなくてもいいよ。クズリス」

「おまえぇ……」


それからクズリスは顔を下に向けて笑った。


「はは、ははは。教育が必要なようだねぇ」


クズリスは顔を上げて俺を見た。

狂気的な笑い方をしている。


「目上の人間に対する接し方を教育してあげるよゼクト」


俺に対して"くん"付けはしなくなっていた。

それだけ余裕がなくなったのだろうか。


クズリスはミーシャに目を向けた。


「ミーシャ。まだその男の肩を持つのかい?今すぐにでも僕の味方をすると言うのなら見逃して……」

「あなたの味方をするくらいならここで死んだ方がマシ。勘違いしないでよ、私はゼクトのことだけが好きだもん」


クズリスは俺とミーシャから勢い良く目をそらした。それから背を向けると怒りの声を吐き出す。


「ゼクトォ……!今夜広場に来い」


顔だけで振り返る。

俺の事を視線で殺すと言わんばかりの鋭い目付きで言った。


「決闘しようゼクト。どちらの方が上かを決闘で決めよう。ミーシャ、君は生意気だし奴隷にしてあげるよ。そしてゼクトお前は公開処刑だ。八つ裂きにして恥をかかせてやる」


「ははは、はーはっはっはっは!」と笑いながらクズリスは歩いていった。


これでもう後には退けなくなった。

とは言っても初めから退くつもりなんてみじんもないけどね。


「悪かったねミーシャ。巻き込んじゃって」


首を横に振るミーシャ。


「いいよ。ぜんぜん。むしろゼクトのかっこいいところ見れてうれしいからもっと巻き込んで!」


そう言って笑顔を向けてくれるミーシャ。


この子が寝盗られそう、とか思ったのは俺の思い過ごしだったかもしれない。


まぁそれはそうと、俺も学園に招待されるだけの結果を残したいと思う。この決闘を使えば学園への入学も叶うと思う。

具体的に言うと……


決闘でクズリスを八つ裂きにして倒す。


それだけだ。


この決闘の勝敗の報告はおそらくだが王都にも行くことになる。

この話を聞いた学園の関係者が俺に招待を送る。

それで俺も学園への入学を許可される。


今のところのプランはそんなところである。

俺が決闘に向けてコンディションを整えようとしていたところ、ミーシャが声をかけてくる。


「ねぇ、ゼクト」


「なに?」


神妙な顔のミーシャ。


「実はこれまで、クズリスについて少し調べてたの」


「なにか分かったことはある?」

「クズリスは【S級剣士】って呼ばれてるみたい」

「なんなんだ?それは」

「とにかく強いんだって。それから、これは噂だけど【聖剣】を持ってるかもしれない。だから、気をつけてね」


俺はミーシャの頭に手を置いた。


「言われなくても気をつけるよ」


俺は1度クズリスにボコボコにされている。

もちろん手は一切抜くつもりは無い。

本気で奴をボコボコにしてやる。



そうして俺は時間通りに広場にやってきた。

すでにクズリスは待機していたし。

周りには沢山の野次馬が集まっていた。


(クズリスのやつ観客を集めるために少し時間を置いたのか?)


クズリスは笑顔を浮かべながら観客に目をやった。


「皆さんお集まりいただきありがとうございます」


そうして今度は俺に目を向けるとこう言った。


「これからあの男を一方的に蹂躙します」


「ははは」


俺は肩を揺らして笑った。


蹂躙?

それは俺のセリフである。

俺はこの時のために【試練の山】にこもり強くなった。


だが、クズリスは俺が笑った理由を別の理由だと思ったらしい。


「どうしようもなくて笑っているのか?かわいそうにな。今からお前はこの大勢の人の前で恥をかかせられるんだもんな」


まだ余裕の表情を浮かべているクズリス。


「違うよ。クズリス」


俺はクズリスの考えを真正面から否定してやることにした。


「蹂躙するのは俺の方だ。今から一方的な決闘にしてあげよう」


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