第4話 変わる反応

俺はミーシャの介抱を断って家まで帰ってきていた。

痛さとかよりも悔しいって気持ちが大幅に上回っていて


いても立ってもいられなくなったのだ。


家に帰ってきた俺を真っ先に出迎えたのは父親だった。


「ゼクト、どうしたのだ?その傷は」

「道端で転んでしまって」

「そうか。今すぐアリスを呼んで治療させよう。部屋に戻り安静にしていろ」


そう言われた俺はとりあえず自室へと戻ることにした。

自室にいるとすぐにアリスが来てくれた。


「お待たせしました」


アリスはすぐに治療に入ってくれるんだけど。


「なにがあったんですか?転んだだけではこうはなりませんよね?」


彼女には嘘が通じないようだ。


「喧嘩に負けたんだ」


思い出すと悔しくなってきた。

あんなに一方的にボコボコにされるほど俺は弱かった。

でも、次はきっと展開を変えてやる。


「強くなりたい。誰にも負けないくらい」


「修行がしたいということですか?」


コクン。

首を縦に振る。


「この家の近くに【試練の山】と呼ばれる場所があります。そこには強いモンスターが出現して修行にうってつけなんです」


(試練の山か。厳しそうな山だな)


だが、見方を変えれば厳しい環境ということはより早くレベルアップが可能であるということだ。


効率のいいレベリングをするなら厳しい環境を選んだ方がいいだろう。


「ゼクト様。興味があるようでしたら山まで案内しましょうか?」


「手当が終わったら頼むよ」



俺の手当が終わると俺たちは【試練の山】へと向かうことになった。


見た目は普通の日本でも見かけるような山った、けど数歩も歩けばこの山が異世界の山だということがはっきりと分かった。

モンスターの存在である。


「ギィ……ギギィ……」


ゴブリンが鳴き声を出しながら山の中を歩いていた。


「あれがモンスターか」

「モンスターを見るのは初めてですよね?」

「うん」

「モンスターとの戦い方をお教えします」


アリスは手に持っていた弓矢をゴブリンに向けて構える。


「基本的には闇討ちがオススメです。先手を取れるからです」


シュパッ!


アリスがゴブリンに向けて矢を放った。

ゴブリンの太ももに矢が刺さる。


「ギィッ……」


ゴブリンの体は痙攣していた。


「即効性の毒が塗ってあります。矢が当たった相手は麻痺して動くことができません」


「なるほど」


タッタッタッタッ。


アリスはゴブリンに近寄って後ろからナイフで首を一突き。


「ぐぎゃっ」


その場で倒れたゴブリン。


「これが基本的な流れです」


「やってみてもいい?」


「どうぞ」


俺はアリスに言われた通りにやってみることにした。


狩りに必要な道具はここに来るまでに持ってきていたのでなんの問題もない。


矢を放ち、麻痺させ剣で叩き斬る。


「グギャッ!」


そして獲得できる経験値。


【レベルが上がりました】


「レベルアップ?!」


俺はつい興奮してしまった。


「レベルアップおめでとうございますゼクト様」


「ありがとうアリスのおかげだよ」


目をまん丸にするアリス。

どうやら驚いているようだけど?


「どうかした?アリス」

「いえ、なんでもありません」


アリスは少しだけ嬉しそうに柔らかい表情をした。

ちなみに今まではほとんど真顔だった。


「ゼクト様は変わられましたね」

「へっ?」

「昨日までのゼクト様とは別人のようでございます」


(そりゃ、別人だからなぁ)


俺がこの肉体に入ったのは今日の昼頃。

それ以前はちゃんとした持ち主のゼクトの魂が入っていたわけだし。

文字通り今の俺は別人なんだよな。


しかし、この子はなかなか勘が鋭いよな。

俺が別人であることに気付くなんて。


「ゼクト様の中でなにが起きたのかは詮索しませんが私は今のゼクト様の方が好きです」

「ははは、ありがとう」


それから俺は少しの間アリスと共にレベリングに励むことにした。

普段であればレベリングなんて面倒なことしたくないんだけど、今の状況そうは言ってられない。



気付いたら夜までレベリングしていた。


「今日の成果でも確認するか、ステータスオープン」


名前:ゼクト・オースティン

レベル:100

攻撃力:300

防御力:300


スキル:女神の加護EX


「おぉ、気付いたらかなりレベルが上がっているようだ(それといつの間にかスキルが増えてるけどなんなんだろう?)」


それにしても、こんなに高速でレベルが上がる世界だと思っていなかった。

だから驚いていたんだが……。


「すごいですね。これは一日でこんなにレベルが上がった人なんて見たことありません」


アリスも驚いていた。

どうやら俺の成長速度は他の人目線でも驚くようなものらしかった。


「でも、俺は何でこんなに成長速度が速いんだろ?」

「スキルのおかげでは?成長速度は基本的にみんな同じです。違いがあるとすればスキルで差が生まれます」


なるほど。

ちなみにこのスキルはレベルが2に上がったら獲得できた。

どうやらかなり当たりなスキルのようだ。


(よし、ステータスの確認はこれで終わったな)


周囲に目をやる。


周りはすっかり暗くなってきていた。


「そろそろ帰るか?」

「夜の山を歩くのは危険でございます。テントを持ってきているので今夜はテントで夜を明かしましょう」


アリスはテキパキとテントの準備を始めてくれた。

そして、それから夕食の準備も。

もちろん俺も手伝うと言ってみたんだけど、断られてしまった。


「悪いね」

「私の仕事です。お気になさらず。休んでいてください」


それからアリスは嬉しそうな顔をしていた。


「私は嬉しいですよ。ゼクト様が手伝うって言ってくれて」


「とうぜんのことだよ」


アリスは夕食に作ったスープを器によそってくれた。

それからパンを俺に渡してくる。


「うん、うまい」


スープもパンもなかなか美味しかった。

そうして食事をしているとアリスはふと口を開いた。


「あの、少しいいですか?」

「ん?」


「私はゼクト様のことがきらいでした。ワガママで傲慢だったので」

「ド直球だな」


人に向かってド直球に嫌いとかいう人俺は初めて見た気がする。

少なくともこんなこと言われたこと今までないんだよな。


ってわけで思わず苦笑。


「でも今ではゼクト様のことは好きですよ。目標に向かってがんばるゼクト様の姿には胸を打たれます。感動します」


俺に向かってぺこりと頭を下げるアリス。


「これからはゼクト様にだけ尽くしていきたいと思っております。命をかけて」


一見すると俺の努力が周りに認められて反応が変わるような、感動的な場面な気がする。


だが、俺は底知れない不安を感じていた。


(これ、この子の死亡フラグ立ったりしてないよな?)


主人公のことを嫌っていたキャラが改心して良い奴になった次の瞬間くらいにあっさりと死ぬ。


漫画やアニメでよくあるようなシチュエーションだと思うんだけど。


アリスはそんな死亡フラグを立ててはいないだろうか?

俺はそんなふうに思ってしまっていた。


(頼むから俺の周りの人が死んだり不幸な目に会うのはやめてくれよな?)


俺はそういうビターな展開はもちろん好きじゃないから。もちろん、こんな不安は杞憂かもしれないけど。

念のためこの子の動向には気を付けよう。

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