第3話 決意

俺の目の前にいる男はおそらくミーシャを奪う間男だと思う。

でも、一応確認してみることにしよう。なんで、ミーシャの名前を出したのか、とかミーシャに何の用があるのか、とか。


「自分はなにも事情を知らないんだけど、なぜミーシャに?」


「学園に入学すればミーシャはこの僕クズリスが率いるパーティで活動してもらうことになる。その前に挨拶にきたんだよ」


(なるほど)


そんでもって、このパーティに所属している間に身も心もミーシャはこの男に捧げることになる、と。そういうことか。


(うぅ……頭が、脳が痛い)


寝盗られるところを考えると少しだけ脳が破壊されそうになる。

正直ミーシャの家まで案内するのは気が進まない。


(だがどうする?案内を断るわけにもいかないよな?)


クズリスは顔を歪めた。


「あの子カワイイよね」

「……」


「実はと言うとね。僕のパーティに入ってくれることが決まった時に顔写真も見てるんだよ。とても気に入った」


それからクズリスはこう続けた。


「安心してよゼクトくん。ミーシャは僕が責任をもって大事にするからさ」


「……」


「さぁ、早く案内してよゼクトくん。早くあの子に会いたくてうずうずしているんだ」


俺の立場としては案内しなくてはならない。

しかし、案内すれば寝盗られることが確定してしまうような気がして、案内できなかった。


俺が踏ん切りが付かずに内心でモヤモヤしているとクズリスは俺の近くまで歩いてくる。


そして、俺とすれ違うような位置に立つと……


「君とあの子の関係はもちろん知ってるよ」


「知っていて、俺にこんなことを頼んでるのか?」


「うん。もちろんだよ。いずれ君の目の前であの子を犯してあげるよ。そのとき、君はどんな顔をするのか、僕に見せて欲しいな」


「はやく、はやく」と俺を焦らせてくるクズリス。


「分かってるよね?ゼクトくん、君が案内しないならミーシャの入学取り消しだってできるんだよ?あの子は悲しむだろうなぁ」


俺はミーシャの顔を思い出していた。

俺に入学の報告をするときの顔はとても嬉しそうな顔だった。

正直言ってあんな飛び切りの笑顔は日本にいた時ですら見たことがないようなものであった。


(ギリッ)


歯を食いしばった。


あの子の入学が取り消しになるのは避けなければならない。

複雑な気持ちを抱えていると、ポンと俺の肩に手を載せるクズリス。


「まぁ、安心しなよゼクトくん。まだ手は出さないからさ。今日は顔合わせするだけだよ」


クズリスはこれからの予定を語る。


ミーシャと共に王都の学園に向かうのは一週間後になること。

それまでは絶対に手を出さないそうだ。(時間ならたっぷりあるから)

ようは俺の事をジワジワといたぶりたいらしい。


「というわけだ。キミも愛する彼女がゆっくりと僕に落ちていく様子を見たいだろう?」


俺が激しい怒りを感じていたときだった。

凛とした声が響く。


「ゼクト?」


ミーシャの声だった。


振り返るとこちらに向かって走ってくるミーシャの姿。


「なんでこんなところに?」

「今日はもともとクズリスさんと顔合わせする予定だったのに全然来ないから見に来ちゃった」


なるほど。

そういうことだったのか。


俺が優柔不断なせいでミーシャの方から来てしまったようだ。


クズリスは俺を見てこう言った。


「安心してよゼクトくん。僕はこう見えてけっこう強いからさ」


シュッ!


鞘に収められたままの剣が俺の額にぶつけられた。

もちろんクズリスが放った攻撃である。


こめかみ部分がぱっくり割れているようだった。

血が流れてきて視界がじゃっかん赤くなっていた。


「なにをするっ……」

「え?強さの証明だよ」


ドカッ!

バキッ!


俺をぶん殴ってくるクズリス。


「君の大事なミーシャちゃんを預ける相手が弱かったら嫌だろ?だから君の体に教えてあげるのさ。僕が強いってことを」


胸ぐらを掴んでさらに殴ってくるクズリス。

俺は吹き飛ばされて背中から地面に倒れた。


「ゼクトッ?!」


ミーシャが慌てたようすで駆け寄ってきた。


俺の背中に手を回して介抱してくれている。


「なにするの?!」


ミーシャも怒ってくれていた。

そんなミーシャを見てクズリスは顔を歪めて……


「そのうち僕のことしか見えないようになるよ。ミーシャちゃん。顔合わせも済んだことだし、今日はこの辺りでお暇することにしようかな」


クズリスは近くにあった馬車に乗り込んだ。


そして、俺の事なんて見向きもせずミーシャのことだけを見ていた。


「一週間後にまた来るよミーシャちゃん。楽しい学園生活にしようね」


クズリスを乗せた馬車は走り出しいった。

村を出ていき王都へと帰っていったようだった。


(あの野郎……!)


俺は額を抑えて立ち上がった。


「ゼクト?大丈夫?」


「大丈夫」


ミーシャの前で大恥をかかせられた。

その恥ずかしさで少しぶっきらぼうになってしまった気がする。


(許さん)


俺は歩き出した。

ギリっ。

歯を食いしばり俺は誓った。


(クズリスは必ず叩きのめす)


今は手も足も出ずに一方的にやられてしまった。

でもそれは俺が弱いだけなんだ。


だから、強くなってやる。

次は蹂躙できるように。


クズリスを叩きのめして、ミーシャに手を出すのが怖くなるくらい俺が強くなってやる。


俺の人生にNTR展開なんていらない。

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