第2話 自分のこと


「ゼクト様。お探しました」


トテトテという擬音がつきそうな歩き方で女の子は俺に近寄ってくる。


(名前が分からん。誰だこれ)


そう思っていたら自己紹介をしてくれた。


「私はゼクト様専属メイドのアリスと申します。まだ家に来て日が浅いので覚えていませんでしたよね?」


どうやら俺の生まれた家はメイドを雇えるくらいの資金がある家っぽい。


ということは親は貴族だったりするのだろうか?

生活レベルについては少し不安があったが、親が貴族なのであれば心配は必要ないかもな。


「ゼクト様。大旦那様がお呼びですよ」


「父上だよね?」

「はい。今すぐに向かいますか?」

「よろしく頼むよ」


そう答えるとアリスは俺の前に立って案内してくれることになった。

自分の家の場所すら分からない俺からしたら非常にありがたいエスコートである。


やがて彼女の案内で一軒の家の前についた。

かなり大きめで豪華な家だった。


アリスは慣れた手つきで家の門を開けると中に入っていく。


門を抜けると大きな庭だ。


庭園があり、木なんかも植えてあるし、池もある。

金持ちの庭だ。


その庭を中ほどまで進んだところ、おっさんと鉢合わせた。


髭面の中年の男だった。


「ガリウス様。ゼクト様をお連れしました」


アリスにガリウスと呼ばれた男は尊大に頷いた。

アリスは会話の邪魔にならないように、少し離れた場所に立つ。


ガリウスが口を開いた。


「おかえりゼクト」


俺も返事をするとガリウスはさっそく本題に入る。


「ミーシャとの別れの挨拶は済ませたようだな。しばらくは寂しくなるだろうが、3年の辛抱だ。あとはゆっくりしていなさい。お前は貴族の子なのだからな」


そう言うとガリウスは家の中へと帰って行った。


俺のそばに戻ってくるアリス。

俺はふと気になってアリスに聞いてみた。


「すまない、アリス。頭を打ってしまって記憶がないんだが、俺はどうして学園に行かなくていいんだろうか?」


アリスに聞いてみることにした理由はいくつかあるが。大きなところで言うと彼女は余計なことを口にしないと思ったからだ。


「頭を打ったのですか?大丈夫ですか?」

「問題ない。質問に答えて欲しい」


するとアリスはこの世界のことについていろいろと話をしてくれることになった。

そして以下のことがわかった。


この世界の学園は招待制になっているらしい。

学園側が欲しいと思った人材に招待を送り、そして受験させる。

テストに受かった人間だけが学園に通うことができるそうだ。


で、俺には招待がなかったと。

これが俺が学園に通わなくていい理由らしい。


「ありがとうアリス」

「いえいえ」

「ついでに聞くとこの世界の自分の強さはどうやって確認したらいいんだい?」

「ステータスオープンと言えば自分のステータスが確認できますよ」

「なるほどな」


試してみようか。


ステータス、オープン。


名前:ゼクト・オースティン

レベル:1

攻撃力:3

防御力:3


スキル:なし


「………」


思ったより弱いなって言うのが素直な感想である。

もうちょっと強いのかと思ってたよ。

ほぼ初期ステータスってやつではないだろうか?


「これ、ステータスはどうやったら上がるんだい?」


「戦闘をこなしたりすれば上がるみたいですが」

「なるほどな」


戦闘でのレベリングか。そこはオーソドックスなんだな。


やっぱり効率のいいレベリングスポットとかあるんだろうか?


(あるならそこでレベリングしてみたいな)


俺は効率厨である。

レベリングは効率よくやりたいし楽してあげたい。

苦労はしたくないのだ。


俺がレベリングについて色々と考えていると、アリスはぺこりと頭を下げた。


「それでは、私はこれで、仕事に戻らせていただきます」

「あー、ちょっと待って」


急いで呼び止める。まだ行かれては困るのだ。


キョトンとするアリス。


「まだなにかありますか?」

「俺の部屋まで向かって欲しいんだ」


もちろんの話だが俺は家の構造も知らないし部屋の場所も分からない。

なので案内を頼むことにした。


アリスは不思議そうな顔をしながらも特に何か言うことは無かった。

家の中は思った通り広くて迷うような構造だった。

歩いて、一室の前へ。


「こちらでございます」


「ありがとう」


俺の部屋もまた広かった。


意外と質素な感じで男の部屋って感じがする。


アリスは仕事に戻って行った。

俺は部屋の中にあった本棚の前へ。


上から下までビッシリと本が詰まっていた。

元々ゼクトは勤勉だったのだろうか?

それは分からないが……。


これだけこの世界に関する資料が置いてあるというのは非常にありがたいことであった。


今の俺はなにも分かっていない。

とりあえず情報収集だ。



「ふぅ、いろいろと情報が集まったな」


さいわいこの部屋には地図もあった。

どうやら俺が今いるこの場所はとある辺境の村のようである。


そしてこの辺境の村をまとめているのは我がオースティン家だということも分かった。


「寝取り回避のためにもとりあえず修行くらいはしてみたいよな……」


そう思ったときだった。


コンコン。

部屋の扉がノックされた。


「おーい、ゼクト。いるか?」


父さんの声だった。


「なに?」

「父さんの客人がこの村に来たようでな。出迎えに行って欲しいんだ今手が離せなくてな」


それから声は聞こえなくなった。

「自分でやりなよ」とか言う暇もなく父さんはいなくなったらしい。


俺はため息を吐きながらドアを開けた。

地面には俺への置き手紙。


手紙を取ってみた。

書いてあったのはどこにいって出迎えたらいいのか、とかそんな内容だった。


「とりあえず行ってみるか」


ちなみに外からの客人を迎えるのもオースティン家の仕事なんだそうだ。



手紙に書いてあった通りの場所に向かってみた。


ちなみに自分の部屋にこの村の地図はあったのでそれを確認して地理は把握済みだ。

そんなに広い村では無いのですぐに覚えられた。


俺が村の入口に着いたころには、すでに待ち人はそこにいた。

茶髪で短髪の男がひとり。

体は俺より少し大きいくらいの男。

耳にはピアス。

雰囲気はちょーぜつチャラい。


そいつが話しかけてくる。


「君は?」

「ゼクト・オースティンと言います」

「オースティン家の人か。この度は出迎えありがとうね」


それから男はさっそくこんなことを口にした。


「さっそくミーシャの家まで案内してもらおうか」


即座になんとなく察してしまった。


(あっ、たぶんこいつだわ間男)


顔と体格とか雰囲気が「寝取りますよ」って言ってる。


ついでに言うなら息子もデカいと思う。


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