異世界転生したらNTRフラグビンビンだった件~ぜったいに脳を破壊されたくない俺は徹底的にフラグを破壊することにした

にこん

第1話 転移したら寝盗られそうな幼なじみがいた


そよそよと吹く風が俺の髪や顔を撫でていた。


「ん?」


どうやら寝ていたようだ。


しかし、なぜ風が?

俺は家の中で寝ていたし窓は開けていない。

風が吹くはずがないのに。


周りを見る。

辺り一面には地面が見えた。


どうやらここは外のようだが。

拉致?誘拐?


一瞬だけそう思ったけど35歳の底辺なおっさんを誘拐してなにになるんだろうか?誘拐犯にとってなんの意味もない。


なので俺は迅速に誘拐の線を消した。


「どこだ?ここ」


立ち上がって真上を見た。


木があった。

俺は木陰に座っていたようである。


俺の視線の先では葉っぱを付けた木の枝が風で揺れていた。


枝と枝の間からは木漏れ日。

俺はその木漏れ日の先に驚くべきものを見た。


「え?太陽がふたつ……?」


ここからではよく見えない。

俺は急いで木の下から出る。


上を見た。

間違いない。


太陽がふたつあった。


「ありえない」


間違いなく地球ではなかった。


「えっ?」


ポカーンと立ち尽くしていたときだった。


「ゼクトーーーー」


女の子の声。


なぜだか分からないけどその声は自分に向けられたものだと察した。


振り返る。


少し離れたところから女の子がこっちに向かって走ってきていたのが見えた。


タッタッタッタッ。


「はぁ、はぁ」


俺の近くまでやってくると両手を両膝に。


肩で息をしていた。


「待ったかな?」


(なにか待っていたんだろうか?)


あいにくこれまでの記憶が無い。


どうやって答えようか悩んだ俺はストレートに聞くことにした。


「すまん、なんの話だっけ?」


女の子は目をまん丸にしていた。

たぶんだけど、俺とこの子はなんらかの約束をしていてここで落ち合う予定だったんだろう。


でもその約束を俺が忘れているものだから驚いたんだと思う。


「もう〜。今日は私の王都の【アーノルド魔法学園】の入学試験の結果が出る日なんだよ。合否を伝えるためにきたの」


(魔法?この世界には魔法があるのだろうか)


ということはここは異世界ってことか。


間違いない。

ふたつの太陽。魔法。

そんなものが存在するのは異世界しかありえない。


俺はどうやら異世界に転生してしまったようだ。


そうじゃなければ35歳のおっさんがこんなカワイイ女の子と会話出来るわけがないからな。


俺が現状を把握していると女の子は胸を張って言った。


「ふふーん。ゼクト、私の合否当ててみて」


「合格なんでしょ?」


「せいかーい」


嬉しそうに答える女の子。

でも、それから女の子は寂しそうな顔をした。


「……離れ離れになっちゃうね」


(そうなんだ)


ってことは、俺は学園には行けないんだろうか?


俺がぼけーっとしてると女の子は手を取ってきた。

柔らかい手だった。

女の子の手。


「忘れないでね。ゼクト。私の名前はミーシャ、あなたの幼なじみで彼女になる女だよ。将来を誓い合った仲だもんね」


笑顔を浮かべた。


(なるほど。やっと関係性が見えてきたぞ)


どうやらゼクトとミーシャは婚約相手のようなものらしい。


とは言っても俺は数分前にこの肉体に入ったし、彼女にはなんの思い入れもないんだけど……。


なんというか美人局なのでは?という気すらしてくる。

ちょっと不気味である。


俺がそんな複雑な心境でいるとミーシャはポツリポツリと話し始める。


「学園卒業まで3年かかるけど、待ってて欲しい。私はゼクトしか見えないし、ゼクトも、そうだよね?」


「うん(適当)」


「えへへ。将来はぜったい結婚しようね」


ミーシャは小指を一本俺に向けてきた。


「指切り。約束破ったら針千本飲ますから」

「はいはい(冗談だよな?)」


俺は一応指切りしておくことにした。

俺からしたらなんの義理もないんだけど、向こうからしたら違うようだし。


「へへ、えへへ……ゼクトの手すき♡」


すっげぇ。甘ったるい会話。

砂糖を直舐めしてんのかってくらい甘ったるい会話に顔が歪む。


なんというかこういう会話は俺の口に合わない。


「どうしたの?ゼクト。すっごい顔してるけど」

「あ、いや。なんでもない」


誤魔化した。


「ねぇ、ゼクト」

「ん?」


「キスしていい?」


(はぁ)


出会って間もない女の子とはキスする気にもなれないんだけど……。


「ていうか、しちゃうねっ?!」


ちゅっ。


軽く唇と唇が触れ合う程度の軽いキス。


かぁぁぁあぁぁあぁあっとミーシャの顔が赤くなった。


ガバッと俯いた。


(そんなに恥ずかしいならしなかったらいいのに)


と思ってたら……


「また明日ね!」


だっ!


ミーシャはものすごい勢いで走っていった。


俺はその後ろ姿を見て思うことがあった。


(あの子、すっげぇ寝盗られそう)


あの子だけが学園に入学して俺はこの場所で3年間ひたすら帰りを待つ。

この一文だけで寝盗られるのを察するのには十分すぎる情報量である。


(どうせ学園で金髪のヤンキーみたいなやつに寝盗られるんだろうなぁ。そんでもって3年後ふたりで俺の事バカにするんだろ)


はっきり言って、35歳のおっさんの俺としてはあの子は寝盗られても別にいいっちゃいいんだけど……(別に思い入れないし)


でも。かと言ってあんだけゼクトのことを好きになってくれている子なんだし、何もしないっていうのもはばかられる。


(なんにせよ少しだけ情報を集めてみるか)


寝盛られを回避できるようであればするし、出来ないようであれば回避しない。

そういうスタンスでいこうと思う。


ちなみにだが日本に帰る方法を探すつもりはない。

どうせ、ちょっとやそっとでは帰れないだろうし、そもそも日本に帰りたいとも思わない。


だって俺、日本に未練ないし。


(さて、方針はまとまったわけだ)


あとは情報収集とまいりましょうか。


よく考えたら俺この世界のこと何も知らない訳だしな。


つーかさぁ。

聞き流してたけど、


「アーノルド魔法学園ってなに?なにするところなの?」


ってか、俺の家はどこ?

異世界転生するならするで元の人物の記憶くらい引き継がせてくれないのかなぁ?!不便すぎるだろこの異世界転生!


「はぁ」


額に手を当ててため息吐いてると……


「あのーゼクト様?」


女の子の声がまた聞こえた。


そちらに目をやると白と黒のメイド服に身を包んだカワイイ女の子が俺を見て立っていた。

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