2日目

朝、アレックスが収容室を見ると、静かに佇んでいた。

「おはよう。今日も実験を行う。実験の前に、なにか必要なものや言いたいことはあるか?」

「櫛と髪を結べるものをいただきたいです」

アレックスは、怪物の要望通りのものを収容室に入れた。怪物は、櫛で白く美しい髪を解いた。そして、髪を結うためのゴムを持って不思議そうな顔をした。

「お前の髪は結ぶほど長くないだろ?なんで要求したんだ?」

「わかりません。何となく必要な気がしたんです。すみませんでした」

「別に謝らなくてもいい。さて、今日の予定だが、所長が訪ねてくる。所長の命令で、その間はマイクを切るからな」

「はい。その間に、協力できることはありますか?」

「実験に使用された動物達の手当を頼めるか?」

「はい、もちろんです!」

怪物の部屋に、犬や猫、ウサギなどが入ったケースが入れられた。全ての動物が怪我を負っていて、苦しそうな鳴き声をあげている。

それを見た怪物は、魅了されてしまうほど美しい顔を歪めて、動物達に近づいた。

部屋の扉がノックされた。アレックスはマイクを切った。

所長が部屋に入ってきた。

「アレックス研究員、怪物の様子はどうだ?なにか思い出したか?」

「いえ、報告書に記載したもの以外は思い出せないようです」

所長は安堵したような顔をして、怪物の方を見た。

怪物は動物たちを慈しむような表情で見つめていた。動物たちは、怪物を怖がるどころか、怪物に擦り寄っている。

所長は怪物を、奥歯を噛み締めながら見ている。

「忌々しい……奴らの外見や言葉に惑わされないように」

「はい。承知しました」

「クレマンにも渡したものを、君にも渡しておこう」

所長は赤いスイッチを差し出した。押せば怪物のいる収容室に火を放つものらしい。アレックスは、そのボタンをポケットに入れた。

「ありがとうございます」

「私は近日中にここから去る。くれぐれも、この怪物達を逃がすな。逃がすくらいなら処分するように」

所長はそう言って部屋から出ていった。去る直前に所長はもう一度、怪物の方を見た。その視線は、恐れや恐怖を含んだ視線だった。

アレックスは、マイクのスイッチをつけた。

「遅くなったな」

「いえ、大丈夫ですよ。この子達の傷も治りました」

動物たちは、怪物の近くで気持ちよさそうに眠っている。その中央に座る怪物は、神々しさを感じさせる微笑みを浮かべている。

「その動物たちは回収する。早く実験を始めるぞ」

「あ、はい……」

怪物は悲しげな表情をした。青く美しい瞳が揺らいでいる。

「……実験は10分後に始める。10分後に動物も回収するからな」

「本当ですか?ありがとうございます!」

目を覚ました動物たちと楽しげに触れ合う怪物を見て、アレックスはため息をついた。

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