2日目

壊れた収容室から、新しい収容室に移った少女は、少しムスッとした顔をしていた。

「おはよう。よく眠れたかな?」

「あんまり……てか、お腹すいた」

少女の髪はボサボサで、長い髪は結われていない。人肉ではない肉を使った料理を提供した。出された料理を、少女は抗議もせずに食べ始めた。

「綺麗に食べるんだね。少し意外だったよ」

背を正して座り、ナイフとフォークを使って行儀よく食べている。服も髪も雑に整えているところや、寝ている時の寝相などを見た後だと意外だった。

「丁寧に食べないと怒られるんだよ……誰に怒られるかは覚えてないけど」

少女は食事を終え、口を拭きながらそう言った。

「さて、今日の予定だけど、この施設の偉い人が君を見に来るんだ。その間、マイクを遮断するから、何か欲しいものがあるなら、今のうちに言ってね」

「それはないけど、僕が飽きるまでに戻ってきてね?飽きたら全部壊すから」

不穏な言葉を残して、少女は収容室内を歩き出した。収容室の中にある、最低限の家具を持ち上げたり爪で引っ掻いたりしている。

クレマンはマイクを切った。ミラー越しに少女を見ていると、クレマンのいる部屋のドアが開いた。

「あ、父さん!いらっしゃい!」

真っ白な白衣を着たクレマンの父であり、ここの所長が部屋に入ってきた。周りにいた研究員が頭を下げている。

「頑張っているようだね。怪物の様子はどうだ?なにか思い出したか?」

「ちょっとずつ思い出してるみたい。でも、まだまだ全然だね」

所長は息を吐いて、収容室の方を見た。少女は眠そうに欠伸をしている。

「昨日は大変だっただろう?これを渡しておくよ。このスイッチを押せば、この部屋を炎が包む。あの怪物は火が苦手だからな。何かあれば押しなさい」

そう言って赤いスイッチを渡された。この部屋の連動しているらしい。

「ありがとう。父さんが初めて見つけた怪物がこの子なんだよね?なにか知ってる事ない?」

クレマンの言葉に、所長は少し怯えているような顔をした後、首を横に振った。

「私は、書類を整理でき次第、お前に所長の座を譲る。お前の功績は沢山聞いてるよ。これからは所長として頑張りなさい」

「わかったよ」

今まで頑として譲らなかった所長の座を、数日前にいきなり譲るといいだした。昔から狡猾で自分の利益しか考えない所長が自分に地位を渡すと言い出した時は、どんな裏があるのかと考えたが、なにも思いつかなかった。

「退任後、私は海外で研究をする。お前にこれを託そう」

所長は、自分の白衣のポケットに入っていた黒い羽根ペンを差し出した。それは、クレマンの物心がついた頃からずっと胸ポケットに入っていたペンだった。昔、クレマンはその羽根ペンをねだっていた。それを覚えていてくれたのだろうか。

「父さん、ありがとう!大切にするよ!」

クレマンは羽根ペンを胸ポケットに入れた。所長は、それを見て目を逸らした。

「……あぁ、頑張りなさい」

所長は部屋を出ていった。スイッチを慎重に、テーブルの上に置いて、マイクをオンにした。

「待たせたね。退屈だった?」

「あと数秒遅かったら全部壊してたよ!危なかったね!さぁ、遊ぼ!」

少女の嬉しそうな声を聞いて、クレマンの顔には笑顔が広がった。

「そうだね!実験するんだけど、君が楽しめるように考えてきたから協力してくれるかな?」

「僕の為に考えてくれたの?いいよ!君のために協力してあげる」

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