第2章
1.騒がしい幼馴染みと、懐かしい記憶。
「ん……あ、れ……?」
カーテンの隙間から差し込む陽の光に、俺はゆっくりと閉じていた目を開く。
雑魚寝のような状態ではあったが、毛布はしっかりと掛けられていた。きっと麗華の気遣いだろうと思うのだが、身を起こして周囲を探しても彼女の姿は見当たらない。あるいは『料理の感想』というのが『願いごと』だったのか……。
「……あぁ、作っていってくれたのか」
そう思っていると、不意に香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。
誘われるままに食卓の上を見ると、そこにはできて間もない朝食がある。どこまでも律儀な、気遣いの塊のような彼女の姿を想像して、俺はつい目を細めて笑みを浮かべていた。
せっかくなので、素直にいただくとしよう。
俺は洗面台で顔を洗ってから、腰を落ち着けて手を合わせた。その時だ。
「いただきま――」
「おはよー!! 律人、おはよー!!」
嵐のような、もう一人の幼馴染みが襲来したのは。
俺は手を合わせたまま硬直するが、そんなこちらなど意に介さず。海晴はなんとも堂々とした態度で、部屋の中へと押し入ってくるのだった。
そして、俺に了解も得ないままに室内を物色し始める。
「いやいやいや、ちょっと待てよ。海晴さん……!?」
「ちっ……なんだよ。いまこっちは、ちょっと忙しいんだぞ?」
「あー……忙しいところ申し訳ないんだけど、まずは常識を弁えてもらえます?」
そんな彼女の小さな身体をひょいと持ち上げて、俺はひとまず真正面から話し合うことにした。互いに意味もなく正座をして、しばしの沈黙。
とりあえず、こちらから質問するべきか。
「……で、今朝はいきなりどうした?」
「あぁ、それだけどさ。どう考えてもおかしいから、な!」
「おかしい、って何がさ……」
そう思って訊ねると、海晴は腕を組んでそう答えた。
話が見えてこないので首を傾げていると、幼馴染みはふと食卓の上を指さす。そこには当然、麗華が作っていってくれた朝食が並んでいた。
それがいったい、どうしたというのか。
俺がまた不思議に思っていると、海晴は途端に声を張り上げるのだった。
「律人が、まともに朝食を作れるわけがないっての!?」
「失礼すぎるだろ!?」
そして、とかく心外なことを言われてしまう。
俺が脊髄反射的にツッコみを入れると、しかし海晴は引き下がらずに続けた。
「女か? 女なのか、え? 律人、正直に言ってみろ……な?」
「な……どうして、そうなる……」
にじり寄って、どこか光のない眼で答えを迫る幼馴染み。
俺は今までに経験したことのない海晴の態度に、戦々恐々と後退ってしまった。何事だろうか。今朝の彼女には、やけに凄味があった。
そして、そのまま押し切られる形で海晴に行動の自由を許してしまう。
「程々にしてくれよー?」
こうなっては、やむなし。
俺は聞こえているか分からないが、念のために声をかけて食事を始めた。麗華の料理はやはり美味しく、普段は何も食わずに出かける自分でも違和感なく箸が進んでいく。そうして、いつの間にか綺麗に平らげていて――。
「ごちそうさま。……って、海晴のやつ、まだやってるのか」
この場にいない少女へ、感謝を伝えるように手を合わせて気付く。
もう一人の幼馴染みがいまだ、一心不乱に部屋の中に『女の痕跡』を探していることに。そんな海晴の後ろ姿を眺めて、俺は――。
「ホントに、こいつは昔から変わらないよな……」
ふと、小学生の頃を思い出した。
俺と麗華が、海晴と出会ったのは小学校に入学してから。
きっかけはあまり記憶にないが、いつの間にか一緒に行動するようになった俺たちのグループは、いつも彼女の好き勝手な行動に引っ張られていた。
周囲の呆れる視線などものともせず、我が道を行く海晴。
そんな彼女を見て、俺と麗華はいつも苦笑いを浮かべていた。
「…………」
それが、とても懐かしい。
あの頃のような日々をまた、取り戻したいと願わずにはいられなかった。それは俺がここへ帰ってきてから、ずっと胸に抱いている希望でもある。
そんなことを考えていると、ついつい時間の経過を忘れていて――。
「って、ヤバいな。……もうこんな時間かよ!」
俺はスマホに設定していたアラームで、我に返った。
そして、いつまでも物色を続ける海晴の首根っこを掴んで持ち上げる。
とりあえず、今日も学校へ行かねばならない。
幼馴染みを小脇に抱えて、俺は急ぎ学校へと向かうのだった。
――
ここから第2章です。
※次回更新、作者の体調回復のため昼頃目標にします。
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