第1章
1.どうしてこうなった?
「えっと、有栖麗華……だよな?」
「あ、はい……そうです」
混乱せざるを得なかった。
当たり前だ。だって俺の目前には、先ほど病院で眠っているのを確認した生徒会長の姿があるのだから。出で立ちこそ違うが、その顔を見間違えるわけはなかった。
彼女は、有栖麗華。
俺が地元に帰ってきてから、ずっと視線で追い続けた女の子だった。
「待ってくれ。少し、状況を整理したい」
畳の上にちょこんと正座をする麗華に、俺はどうにかそう告げる。
そして、状況の整理をしたいのは彼女も同じだったらしい。静かに頷くと、生徒会長は顎に手を当てて思案し始めた。
その姿を見てとりあえず、こう訊いてみる。
「いつから、ここに……?」
「……分からない。車に轢かれたと思ったら、いつの間にかここに」
「つまり、その間は分からない、か」
「うん……」
事故の発生時刻はたしか、ちょうど俺がアパートを出た頃合いだったらしい。であれば、にわかに信じがたいが辻褄は合ってしまっていた。すなわち麗華は事故に遭ってからずっと、この部屋にいたということ。
俺が考え込んでいると、今度は彼女の方から問いが飛んできた。
「……私は、死んだの?」
それはきっと、彼女にとって怖ろしい疑問だっただろう。
だが幸いにして俺は、それに対する答えを持っていた。
「いや、一応……医学的には、まだ生きてるはず。ただ目覚めない状態が続いていて、これからどのように判断されるかは、分からないけど」
「そ、そう……なんだ」
「…………麗華?」
だから、分かる範囲で教える。
すると麗華はどこか、複雑な表情を浮かべていた。
俺にはその理由が分からない。そして、探りを入れる筋合いもなかった。だからいま、自分にできるのは少しでも疑問を解消すること。
彼女はいま自分以上に混乱しているのだ。
だから努めて冷静に、考え得る可能性を提示する。
「もしかしたら、いま麗華は幽体離脱している――つまりは『生き霊』の状態、なんじゃないのか?」
「生き、霊……?」
「あー……いまいち、説得力に欠けるけどな」
しかし、あまりに現実離れした内容だ。
自分で言っておきながら、どこか頭がおかしいように思えてしまう。そのため、誤魔化すように苦笑して頬を掻いた。
麗華はそんなこちらの可能性を耳にして、少しだけ情報を整理する。
その上で頷いて、こう言うのだった。
「……でも、それ以外に考えられないと思うから」
本人も『信じられない』という様子ではあったが。
でも、そう考えないと説明がつかないのだ。
高嶺の花と呼ばれる憧れの生徒会長が、俺の部屋にいる。
しかも彼女は今朝、車に轢かれて意識不明の状態だ。改めて考えても意味が分からないが、すべてが現実に起きている出来事だった。
でも――。
「だったら、すぐに戻るべきだと思う」
「……え?」
だからこそ、俺はこの異常な状態を正すべきだと考える。
可能であるのなら、一刻も早く麗華は自身の肉体に戻るべきなのだ。それが周囲のためであるし、何よりも有栖麗華という女の子のためでもある。
そう思ったのだが、しかし麗華は思わぬ反応を示した。
「……そう、だね。たぶん、それが正解だと思う」
「どう、したんだ……?」
どうにも歯切れが悪い。
自分の身体に戻るという当たり前の提案に、どうして彼女は悲しげな表情を浮かべるのだろうか。本人もそれが正しいと理解しているはずなのに、何故このように泣き出しそうな表情を……?
「……ねぇ、律人?」
「あ、うん……」
考え込む俺に対して、麗華はこう言った。
「たぶん、私は今すぐにでも戻るべきなのだと思う。でも――」
悲しい表情のまま、まるで縋るようにして続けるのだ。
「戻るから。……一つで良いの、私の『願いごと』を叶えてほしい」――と。
麗華はそう言って俺へ静かに手を差し伸べた。
そしてひどく緊張し、震える声で――。
「こっちにきて? それで、少しで良いから手を繋いでほしい」
そう、告げたのだった。
――
ここから第1章ですね。
とはいえ、まだ序章のような内容です。
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