第33話

 サイゾウたちはイベント開始までの三日間にできる限りの準備をした。


「な、なんだよあれ!?」

「おかしいだろあんなの!」

「どうやって倒せばいいってんだよ!」


 サイゾウは火の海の中を突き進む。


「全然攻撃が入らねえ!」

「こんなシールドどうやって破ればいいんだ!?」

「く、来るな! くる」


 どす黒いガスが周囲にまき散らされる。残っていたプレイヤーがバタバタと倒れ、戦闘不能になると共に姿を消していく。


 毒ガスを浴びても生きている者もいた。おそらく毒無効か即死無効のスキルか装備を持っているのだろう。しかし、そんなものは問題にならない。生き残った者はチェーンソーで切り刻めばいいだけだ。


 エンジン音が火の海に鳴り響く。サイゾウは毒ガスで死ななかった者たちにチェーンソーを振り下ろす。血のエフェクトをOFFにしているのでそれほどグロテスクではないが、やはり人間をチェーンソーで切り刻むのはさすがにゲームと言っても抵抗があった。


「よーし、サイゾウくん。次はあっちの砦に行ってみよう」


 敵を1人残らず倒したサイゾウはメフィストの指示に従い移動を開始する。加速のスキルを使い高速で移動する。

 

 正確にはスキルショップで手に入れた『猪突猛進』というスキルだ。このスキルは移動速度が10倍になる代わりに真っ直ぐしか進めなくなるスキルである。普段なら使い勝手の悪いスキルだが、今のサイゾウには全くそんなデメリットなど関係がない。


 サイゾウはシールドを張ったまま次の砦のある方角に突撃していく。


「ぎゃぶっ!?」

「な、なんだ!?」

「こっちにちがごべっ!?」


 サイゾウは防御魔法であるドームシールドでプレイヤーたちをひき殺していく。そして、サイゾウが進む後ろを真っ黒く分厚い雲が追いかけていく。


 サイゾウが通った道に雨が降る。


「雨?」

「天候の変化なんてあるのか?」

「いや、待て。クセえ」

「ガソリンだこれ!」


 このゲームでは味やにおいの設定がある。味を感じるには口に入れる小型のデバイスを必要とするが、匂いはヘッドセットに装備されている機能で対応できるため、においの設定をONにしているプレイヤーはそれなりにいる。


 プレイヤーの何人かはその雨がガソリンだと気が付いた。だが、その時にはもう遅かった。


「ぎゃああああああ!?」

「ちくしょう! なんなんだよ!」

「逃げ場がねえ!」

「た、助けてくれええええええ!」


 気化したガソリンに引火し大爆発が起き、そのあとには広大な火の海が現れる。プレイヤーたちは炎に巻かれて逃げまどい、そんなプレイヤーたちをサイゾウは蹂躙していく。


「し、シールドアタック!」

「ぎょべっ!?」

「あがっ!?」

「びょっ!?」


 シールドアタック。これは文字通り盾で攻撃するスキルである。本来の用途は装備した盾を使い相手を攻撃するスキルなのだが、実はこのスキルには実体を持つ盾以外にも効果を発揮する。魔法で生み出したシールド、つまりは今サイゾウが発動している防御魔法ドームシールドでも相手に攻撃ができるのだ。


 しかもドームシールドはサイゾウの周囲を取り囲むシールドのため範囲攻撃となる。サイゾウは範囲を広げたドームシールドのシールドアタックにより自分の周りに残っていたプレイヤーを一掃し砦へと突き進む。


「剛三郎。もっと派手に燃やしちゃって」

「うーっす」


 サイゾウは砦へ。背後からこっそりついてきていた剛三郎は一旦サイゾウから離れて周囲をガソリンの雨で燃やしていく。


 サイゾウの眼前に砦が迫る。しかし、止まらない。


 激突する。


「ぐわあああああああ!?」

「じょ、城壁が壊された!?」

「敵襲! 敵襲!」


 砦の城壁に激突したサイゾウは城壁を突き破り砦内に突入を果たす。そんなサイゾウに砦の中にいた者たちが一斉に攻撃を始める。


「み、皆さん大人しくしてください! こ、攻撃をやめてください!」

「怯むな! 相手は一人だ!」

「け、警告はしましたからね!」


 砦内にいたプレイヤーたちがサイゾウに攻撃を加えていく。だがそれはサイゾウが張ったドームシールドに弾かれて全く本人には届かない。


 だが、本人に届かなくても『攻撃された』という事実は変わらない。

 

 ドームシールドに攻撃が当たるたびにサイゾウの変化が進んでいく。サイゾウの装備している白衣が裾の先から毒々しい紫色に変化していく。


 そして、サイゾウの白衣の全体が紫色に変化すると毒ガスが広範囲にまき散らされた。


「な、なん」

「どくが」

「に」

「あ」


 毒ガスが周囲にまき散らされる。それに触れた瞬間プレイヤーたちは戦闘不能になりその場から姿を消す。


「……やっぱりこれ、バグだよね」


 紫色になっていた白衣がもとに戻る。先ほどと同じように毒で戦闘不能とならなかった者たちを殲滅していく。


 サイゾウたちはイベント開始までの三日間いろいろなことを研究した。装備だけでなくスキルショップで使えそうなスキルを探し、作戦を練り直していった。その過程でサイゾウが装備している『死毒の聖衣』の効果もいろいろと分かった。


 この死毒の聖衣は一定回数の攻撃を喰らうと触れただけで相手を戦闘不能にして装備を全破壊する致死毒をまき散らす。しかもそれはサイゾウ本体だけでなくサイゾウが展開している防御魔法も対象のようだった。つまりドームシールドに対しての攻撃もカウントされるのである。


「め、メフィストさん。制圧完了です」

「了解。じゃあ、『ゴーレム』置いて次に行こうか」


 サイゾウは毒ガスで砦の奥に辿り着く。どうやら毒ガスは砦の内部奥深くにまで広がっているようで、サイゾウが砦の内部に入った時にはプレイヤーの姿はどこにもなかった。


 砦の中に入ったサイゾウはそこで一分間待機する。砦の主を倒した後、その砦を一分間防衛すると守りきったチームの陣地となるのだ。


 その一分間の間にサイゾウは砦の中に『木の像』を設置していく。


「これでよし。あとはこれをっと」


 一分経過するとサイゾウの手元に紫色の宝玉が現れる。これが砦の主を示すアイテムで、これを持ったプレイヤーを倒せば砦を奪取できる。


「それじゃあ頼むね、仁王くん」


 仁王くん、と名付けた木像の一体にサイゾウはその宝玉を渡す。チームのリーダー、つまりは総大将には砦の主の任命権があり、サイゾウはその権限を使って設置した木像をリーダーに設定した。


 メフィストの読み通り、サイゾウのところにはサイゾウたち以外の傭兵団は来なかった。つまりサイゾウのチームはサイゾウたちの傭兵団『雑草魂』だけということだ。


「メフィストさん、そっちはどうですか?」

「んー? 順調順調。強い強い」


 たった一人で砦を制圧したサイゾウは次の砦へと向かいながらメフィストの様子を確かめる。


「さすがLV100の木製ゴーレムだ。並みのプレイヤーじゃ傷ひとつつかない」


 木製ゴーレム。サイゾウたちが人員不足を補うために作り出したゴーレムである。


 サイゾウが持っている『チェーンソーカービング』と『造園』に統合された『木材加工』のスキル。この二つは木から様々な物を作り出すスキルである。そして、本来ならばこのスキルは戦闘用スキルではなく、ただ庭に設置する家具やオブジェクトを制作するだけのスキルだ。


 だが、ここに称号『庭王』が加わると話が変わる。


 この庭王の称号。その効果に『魂をこめて作品を作る』という一文がある。職人や芸術家が魂をこめて作品を作るようにである。


 そしてそれは比喩でもなんでもなく実際に魂を持った木製のゴーレムを生み出すことができた。しかも材料は木材だけ。あとはチェーンソーカービングのスキルを使ってチェーンソーで木材を切り出せばゴーレムが出来上がる。


 木材も大量にある。以前、魔樹の森へ入った時に手に入れた木材を保管していたし、木製ゴーレムが制作できるとわかると森へ向かい追加の木材を大量に確保してきた。


 しかもこの木材はすべてトレント材。樹木のモンスターであるトレント、しかも上位のダークトレントの材木を使用しているため、非常に硬く頑丈だ。


 さらにはこの木製ゴーレムは作成の際に注入するMPにより強さが変わる。MPを1000消費するごとにゴーレムのレベルが1上昇する仕様になっている。


 1000と聞くとかなり多いように思える。しかし今のサイゾウには全く問題にならない量だ。


 なぜなら今のサイゾウのMPは999万9999。たかが1000程度どうということはない。


 なので注ぎ込めるだけのMPを注ぎ込みゴーレムを作り出した。


 木製ゴーレムの最大レベルは100。レベル100にするのに必要なМPは10万。サイゾウは作れるだけのレベル100木製ゴーレムを制作し、足りなくなったら朔望の小手の能力でモンスターからМPを回収したり宿屋で回復したりして補い、イベント開始ギリギリまでゴーレム作成を頑張った。


 そのおかげで200体以上のレベル100トレントゴーレムを確保することができた。


 しかもこのゴーレムは起動するまではアイテム扱いなのでアイテムとして持ち運べる。そのおかげで運ぶ際に場所を取らず、簡単に砦内に持ち込んで設置することができるのだ。


「サイゾウくんみたいに伐採のスキルを持ってる人はいないみたいだし。楽勝楽勝」


 メフィストはかなり余裕そうだった。そんなメフィストは今、サイゾウたちの拠点であるマップ中央の砦で留守番をしながら狩人のスキルである『遠見』により周囲を監視している。


 いや、監視というより自分たちの陣地に隣接した陣地の蹂躙を観察していた。


「いやいや、壊れてるねえ。いろいろと」


 明らかにおかしな性能をしている木製ゴーレム。一体だけで相手プレイヤーの集団を壊滅さるほどに戦闘力が高い。


「暇があったら追加で作っておいてね。数は多いほうがいいから」

「わかりました」

「それじゃあ、砦の攻略がんばって」

「は、はい。頑張ります」


 というようなのん気な会話をしながらサイゾウは次の砦に突撃していく。そして、前の砦と同じように破壊し、蹂躙し、虐殺し、制圧していく。


「……これでいいのかな」


 砦を制圧したサイゾウは次の砦へと突撃していく。


 その勢いを止めるプレイヤーはまだ現れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る