第15話 これで思う存分ゲームができます!
現実。草太朗にとってそれはあまり楽しいものではない。
「学校、行きたくないな……」
目が覚めるといつもため息が出る。疲れていないはずなのに体が重くて、それでも支度を済ませて登校しなければならない。
学校についても憂鬱なのは変わらない。むしろ憂鬱が加速する。
しかももうすぐ期末テストだ。それが終われば夏休みになるが、テストが近づいているというだけで気分が沈む。
さらに今回は特に気が重い。テストで悪い点を取ればゲームを禁止される可能性があるのだ。
草太朗はあまり頭が良くない。悪くもないが良くもない。いつもテストは70点代で目立って成績がいいわけでもない。
だから不安なのだ。
草太朗は成績がいいわけではない。もし今回のテストの成績が悪かったら、親からゲームを取り上げられる可能性がある。成績が良ければテストの成績が一回ぐらい悪くても問題はないかもしれないが、草太朗の場合そうはならないだろう。
「しばらくゲームはやめておこう」
残念。非常に残念。だが成績を落とすわけにもいかない。
こうして草太朗は期末テストまでの間、ゲームの世界に一度もログインしなかった。そして、テスト勉強を必死に頑張り、成績を落とすことなくテスト期間を乗り切ったのである。
「これで思う存分ゲームができます!」
約2週間ぶりにゲームにログインしたサイゾウは歓喜の声を上げた。そんなサイゾウにメフィストと剛三郎は拍手を送った。
「そう言えば夏イベの告知がありましたよ」
「……あの、頑張ったのでもう少しほめてもらっても」
「いや、勉強を頑張るのは当たり前でしょう。学生なのですからな」
「はい、ごもっともです……」
勉学は学生の本分である。それを頑張るのは当たり前ではあるのだが、サイゾウはもう少しほめて欲しかった。
「で、でも、頑張ったおかげでいつもより成績が良かったんですよ。だから、その」
「ふふふ……」
「な、何笑ってるんですか、メフィストさん」
メフィストは口元を隠して笑っている。
「いや、かわいいなぁと思ってね」
「か、かわいいって」
「確かに、少しそそる物がありますなぁ」
剛三郎がニヤニヤと笑いながらサイゾウに顔を近づけてくる。
「何か欲しいものでもあるのかい?」
「え? いや、あの、ちょっと、言ってみただけで」
「では、今度のオフで何かプレゼントしてあげましょうかな」
「お、オフって。あれ、本気なんですか?」
オフ会。この前ビデオチャットをしたときに話していた。3人でオフであって遊ぼうという話だ。
「え? 会いたくないのかい?」
「そうじゃなくて、あの、その」
「大丈夫大丈夫。我輩たちがサイゾウ殿のところへ行きますから。交通費は気にせず気楽に」
「そうじゃなくてですね」
怖い。人と会うのが怖い。けれど、会ってみたい。
「ま、この話はまた後にして。テストを頑張ったご褒美を上げよう」
そう言うとメフィストはサイゾウに一つの巻物を渡した。『スキルスクロール』と呼ばれる羊皮紙の巻物である。
「あ、ありがとうございます」
「ああ、ご褒美って言ってるけど最初から渡すつもりだったしそんなに喜ばなくて大丈夫だよ。喜んでもいいけど」
「……ありがとうございます」
とりあえずサイゾウはスキルスクロールを受け取ると中身を確認する。
「『リサイクル』? なんですかこのスキル」
サイゾウが受け取ったのはスキル『リサイクル』の巻物だった。
「ショップを漁ってたらそれを見つけてね。面白そうだから買ってみた。そんなに高くなかったしね」
ショップ。それはゲーム内でアイテムや魔法やスキルを販売している店のことだ。そこではゲーム内通貨のギルダンを消費して装備を整えたり新たな能力を手に入れることができる。
「スキルの内容は『ゴミをリサイクルできる』。説明を見たとき、これだって思ったよ」
ゴミをリサイクルするスキル。一見すると有用なスキルに思える。
しかし、このゲーム内にゴミは存在しない。アイテムを消費すればゴミも残さず消えてしまうし、装備が壊れることはあっても修理ができるのでゴミにはならない。
「サイゾウくん。ゴミはどれぐらい集まった?」
「えっと……。10,000,000近く集まってます」
サイゾウがログアウトしている最中もオートでゴミ集めをしていたので相当量のゴミが集まっている。
「じゃあ、さっそくゴミをリサイクルしてみてよ」
「わかり、ました」
サイゾウは巻物を消費してスキルを習得するとさっそくゴミをリサイクルしてみる。
「……一回のリサイクルでゴミ3000? 一つ一つリサイクルするわけじゃないんだ」
リサイクルのスキルを発動すると何もないところに突然リサイクルボックスが現れ、その蓋が開いた。どうやらそこにゴミを投入するとリサイクルできるらしい。
サイゾウはボックスの中にゴミを3000個投入する。するとボックスの真上の『PUSH』という青いボタンが表示された。
「押せって、ことでしょうか?」
「だろうね」
「サイゾウ殿、さっそく押してみましょうぞ。ぬふふ」
どうやら二人にもボックスやボタンは見えているようだ。サイゾウは恐る恐る空中に浮かんでいるボタンを押してみた。
ボタンを押すとボックスがガタガタと震え出し、中から何かが飛び出した。
飛び出した物の数は10個。その内容は『空き瓶』が6個に『再生紙』が2個、そして『鉄くず』が2個である。
「どうやらガチャみたいだ。ゴミを3000個投入するとリサイクルガチャが引ける、みたいな感じだろうね」
リサイクル10連ガチャ。どうやらゴミと言うアイテムはこのガチャを引くためのアイテムのようだ。
「あ、これ草も投入できますね」
アイテム画面を見ていたサイゾウはアイテム『草』が光っていることに気が付いた。
「草?」
「はい。草むしりをすると草が手に入るんですよ。なんとなく今まで捨てられなくて集めてましたけど、ここで使えるんですね」
少々貧乏性の気があるサイゾウは草むしりした際に手に入る草を捨てることができずに溜め込んでいた。アイテムをため込んでもボックスを圧迫することがないので、捨てる機会を失っていただけなのだが、それが功を奏したようだ。
「こっちも投入してみますね」
サイゾウは草をリサイクルボックスに投入する。するとゴミを投入した時と同じようにボタンが現れ、ボタンを押すとリサイクルボックスからアイテムが飛び出した。
「『リリ草』に『キージュ草』、あ、『世界樹の葉』も出ました」
「どれも薬の調合に使用するアイテムだね。いいじゃないか」
「世界樹の葉はレア素材ですな。これは期待が持てそうだ」
草はそれほど量がなかったので10連1回で終了。その後はゴミをリサイクルボックスに投入し続けてた。
しかし、出て来たのはほとんどが空き瓶や再生紙などのアイテムで、特にレア度の高そうなアイテムは出てこなかった。
サイゾウたちはリサイクルを続けた。そして、大体500連ほど回した結果、ひとつだけ他とは違うアイテムを獲得することができた。
「……この『錆びた短剣』と言うのはなんでしょうか」
「リサイクルなのですから錆ぐらい取ってほしいものですなぁ」
「まったくだね」
リサイクルガチャで獲得した『錆びた短剣』。これにどんな意味があるのかわからないが、とりあえず取っておくことにした。
「今日は飽きたからこれぐらいにしておこうか」
というメフィストの何とも適当な理由でリサイクルは一旦終了。今後もゴミを集めは継続し、また今度リサイクルガチャを回すこととなった。
「そういえば、夏イベが発表されたとかなんとか」
「ん? ああ、そう言えばそんなこと言ったね」
「まあ、我々にはあまり関係のないイベントですからな」
もうすぐ夏休みだ。そして、もうすぐエデンズフォールの夏イベが始まる。
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