第14話

 日曜日。一日あいだをおいて集まったサイゾウたち三人は草原のど真ん中にいた。


「むほほ、今日は我輩の力をお見せいたしましょうぞ」


 剛三郎は得意げにそう言うと出っ張った腹をボンと叩いた。


「あの、そのしゃべり方大変じゃないですか?」

「何を言うのですか。キャラづくりは大事ですぞ」

「そう、なんですね……」


 小汚いおじさんのロールプレイとは本当に剛三郎は変わっている。


「では、さっそくお見せしましょう。まずは『ウォーターレイン』」

 

 剛三郎は手を上げると自分たちより離れた場所に水魔法ウォーターレインを発動する。


「これはね、雨を降らせる『だけ』の魔法なんだ」

「雨を降らせるだけ?」


 サイゾウは雨を降らせている雨雲を見上げる。魔法で生み出された雨雲から草原に雨が降り注いでいるが、どうやらその雨には何の効果もないらしい。


「これは基本でございますよ。この魔法に毒を発生させる魔法やスキルを組み合わせると『ポイズンレイン』に、酸を組み合わせると『アシッドレイン』になるのです」


 なるほど、とサイゾウは改めて雨雲を見つめる。ただ雨を降らせるだけの魔法も応用次第で攻撃魔法になるということだ。


「そして、これが私の編み出した魔法『ガソリンレイン』でございますよぉ」


 剛三郎はニヤリと笑うとスキル『油』を発動する。するとすぐに草原に変化が現れる。


「これって、ガソリンの臭い?」


 鼻をつく不快な臭いが草原に充満する。剛三郎の魔法により降り注いだガソリンの雨が揮発し、臭気がサイゾウのところにまで流れてきているのだ。


「そして、ここに火の魔法を少々」


 剛三郎はガソリンの雨が降っている場所に向けて初級の火魔法『ファイアーボール』を放った。すると魔法の炎が揮発したガソリンに引火し大爆発を起こしたのである。


「おほほほほほ! 燃えろ! 燃えろ! ヒャッはあああああ!!」


 爆風がサイゾウたちを煽り、熱気が肌を焼く。剛三郎は燃え盛る草原の一角を見て狂ったように笑い声をあげている。


「ご、剛三郎さん?」

「大丈夫、ただのキャラづくりだから」

「ほ、本当ですか?」


 おそらく放火魔を演じているだけなのだろうが、なんだかサイゾウは剛三郎を見て不安になる。たぶん大丈夫だとは思うが、怖い。


「というのが我輩の力のひとつであります。雨雲を発生させる範囲を広げればさらに広範囲を火の海にすることが可能でございます。ぬふふ」

「す、すごいですね、ははは……」


 確かにすごい。戦闘の時は敵を一気に火だるまにできるだろう。


「他にも油の使い道は無限大。サイゾウ殿も何か思いついたら教えてくだされ。ぬふん」


 こうして剛三郎の危険すぎる能力のお披露目が終わった。


「じゃあ、次は私だね」


 次はメフィストの番だ。番なのだが。


「あの、あれはどうするんですか? 消火とかは」

「ん? 燃える物がなくなれば消えるでしょうな」

「そもそも消火の魔法なんて知らないし、水をかけると逆に危ないからね」

「そ、それでいいんですか?」

「良くはないでしょうなぁ」

「そうそう。前に森でやって騒ぎになったからね」

「ええ……」


 騒ぎになったというのにどうしてそんなに平気な顔をしてるんだろう、とサイゾウは二人が少し怖くなる。なんというか、二人とも感覚が少しずれているような気がする。


「ま、ほっとけばいいよ」


 というわけで燃え盛る草原は放置するようだ。無責任すぎる。


 しかし、そんな無責任が許されるわけもない。


「あんたら! 何してくれてんだ!」


 どこからか四人組が現れた。その四人は明らかにブチギレていた。


「どうしてくれんだ!」

「薬草集めのクエスト中だったんだぞ!」

「せっかく群生地を見つけたのに台無しだ!」

「責任取れ責任!」


 その四人組以外にも何組かのパーティーが現れてサイゾウたちに抗議の声を上げた。


 まあ、当然である。謝っても許されることではない。


 では、どうするのか。


「うん、逃げよっか」


 メフィストはサイゾウと剛三郎の手を取るとその場から一目散に逃げだした。


「ま、待ちやがれ!」


 サイゾウたちを複数のパーティーが追いかける。けれど、まったくサイゾウたちに追いつけない。


 そして、逃げ切った。メフィストはサイゾウたち二人を連れて逃げ切ったのである。


「これが私の能力『パーフェクトエスケープ』だ。どう? すごいでしょ」


 逃げ切ることができたメフィストは実に得意気で満足気であった。しかし、やっていることは放火して放置して逃げ出すという最低の外道行為である。


「狩人やシーフのスキルやいくつかの魔法を組み合わせるてるんだ。まあ、閉鎖された場所では使えないけどね」

「全然パーフェクトではありませんなぁ」


 とりあえず逃げ切れた。逃げてよかったのかは別としてではあるが。


「さて、それじゃあ次はサイゾウくんの番だね」

「え、ぼ、ボクですか? ボクは、その、特に変わったことは」


 次は自分の番だと言われてもサイゾウは困ってしまった。確かに変わったスキルは持っているが、変わったことはできないからだ。


「あるじゃない。掃除屋とかゴミ拾いとか」


 掃除屋。先日取得した新しいジョブだ。いろいろな意味で掃除をする掃除屋だ。


 ゴミ拾いはゴミ拾いだ。ただ『ゴミ』と言うアイテムを拾うだけのスキルである。


「とりあえずゴミ拾ってみてよ」

「わかり、ました」


 サイゾウはゴミ拾いのスキルを発動する。するとどこからともなくなんだか変な黒い塊がサイゾウの手の中に現れた。


「『ゴミ』だね」

「しかし何のゴミなんでしょうかな?」

「なん、でしょうね……」


 わからない。ゴミの上のところに『ゴミ』と表示されているゴミというアイテムである。


「続けてみよっか」

「続けるんですか?」

「うん。何か変化があるかもしれないし」


 サイゾウは続けてゴミ拾いのスキルを発動してみた。しかし、先ほどと変わらずゴミと言う名のアイテムを手に入れただけだった。


「あの、まだ続けるんですか?」

「そのスキル、オート設定できる?」

「え? えっと……。できるみたいです」


 オート設定。特定のスキルを自動発動する設定である。設定できるスキルとできないスキルが存在し、ゴミ拾いはオート設定ができるようだった。


「じゃあ、獲得したゴミはボックス行きにして、ゴミを集めてみよう」

「それ、何か意味が」

「あるかどうかをこれから確かめるんだよ」


 というわけでサイゾウはとにかくゴミを集めることにした。集めたゴミはアイテムボックス行きにして、とにかくゴミを集めまくった。


「うわぁ、ゴミがどんどん増えてく……」


 ボックスの中を確認すると『ゴミ』と言うアイテムの数字がものすごい速さで増えていく。そして五分程度でゴミを1,000個以上獲得することができた。


「しばらく続けてみよう。もしかしたら何か特別な物を拾うかもしれないし」

「わかり、ました……」


 サイゾウはメフィストに言われるままにゴミ拾いのスキルをオートに設定したままにすることにした。


「それじゃあ、他のスキルも見てみようか」


 それから三人はサイゾウの持っているスキルや他二人のスキルを確認し、いろいろと試しているとあっという間に時間が経った。その間もゴミ拾いのスキルをオートで発動していたおかげで、夕方ごろにはとんでもなく大量のゴミを獲得するに至ったのだ


「ゲームでよかったね。危うく不法投棄で捕まるところだったよ」


 アイテムボックス内に表示されている『ゴミ』の数を見てサイゾウは頭を抱える。


「結局、ゴミ以外は拾えませんでしたなぁ」

「一体何なんだろうね、このスキル」

 

 本当によくわからないスキルを手に入れてしまった。草むしりに続いて。


「じゃ、ログアウトの間もゴミ拾いよろしくね」

「え!?」


 どうやらオート設定したスキルはログアウトしても発動するらしい。


「我輩もこの機能に助けられております。スキル『油』は一時間に10リットルしか生産できませんからなぁ」


 そのオート機能を使って剛三郎もスキル『油』による油の生産を行っているようだ。生産量に制限のある剛三郎のスキルは常に発動することで大量の油を獲得しているのである。


「それじゃあ、今日はお開き。また明日ね」


 こうして三人の日曜日が終わり、ゲームから現実へと戻っていったのだった。

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