第11話 ……なんだか草むしりと同じ道を進んでる気がする

 新たにスキル『掃除LV1』を取得したサイゾウは再び傭兵ギルドでクエストを探していた。


「……これ連続クエストみたいですね」


 空き家の掃除クエストを完了したサイゾウが再び掲示板を確認するとそこには次の掃除の依頼が貼りだされていた。ただし、それはサイゾウにしか確認できないようで、彼に付き添っているメフィストや剛三郎には見えていないようだ。


「内容は?」

「えっと、『広場の掃除』ですね」

「また妙なクエストですなぁ」


 広場の掃除クエスト。内容は町の中にいくつかある広場のゴミ拾いや花壇の草むしりに植木の剪定などである。このクエストも特にモンスターが出てくるという事前情報はなく、報酬もかなり安い。


「やってみましょう」

「やるのですかな?」

「サイゾウくん、キミはこのゲームで何をするつもりなんだい?」


 クエストを受注したサイゾウはピタリと動きを止める。


「えっと、特に、何も考えてません……」


 そう、サイゾウは何も考えていない。ただ何となくできそうなクエストをこなしているだけで、特に目標も目的もない。


「普通ならモンスターと戦ってレベルを上げたり、ダンジョンを探索したり、パーティーを組んで仲間と冒険したりすると思うんだけど」

「まあ、そう、ですよね」

「そう言うことに興味は?」

「……あります」


 ある。大いにある。本当ならみんなと世界を旅して強敵を倒したり、宝物を見つけたりしてみたい。


 けれど、サイゾウはついこの前までひとりぼっちだった。誘ってきたクラスメイトに捨てられて、どうしていいかわからず草むしりをしていたのだ。それにサイゾウは基本的に他人とのコミュニケーションが苦手で、今もメフィストと剛三郎を前にして緊張しているくらいである。


「と、とにかく今はクエストを終わらせましょう」

「まあ、確かに変なクエストではありますからなぁ。すでに『掃除』という知らないスキルを手に入れたようでありますし」


 そう、傭兵団『雑草魂』の活動方針は『珍しいものを探す』である。なので今のサイゾウの行動は団の方針に沿った行動なのだ。


「行ってみましょうか。今日はサイゾウさんの観察がメインですからね」


 ということで三人は町の広場のひとつに向かった。広場には管理人と名乗るおじさんNPCが待っており、サイゾウがそのNPCに話しかけるとクエストがスタートした。


 サイゾウはさっそくゴミを拾い、花壇の草をむしり、植木の枝をきれいに切りそろえ、あっという間に広場の掃除を終えた。


「素晴らしい。完璧ですね」


 そしてこのクエストもランク評価があり、今回もSランクを取ることができた。


「スキル『ゴミ拾い』を習得しました。スキル『掃除』のレベルが2に上昇しました」


 広場の掃除を終わらせて報酬を受け取ると、前回と同じタイミングで新しいスキル『ゴミ拾い』を手に入れた。今回のスキルはレベル無しのスキルなのでこれ以上成長することはないし、性能もあまりいいとは言えないおのだった。掃除のスキルもレベルが上がったが、特に能力の内容は変わっていないようだ。


「どういうスキルなんですか?」

「『ゴミを拾う』というスキルです」

「ゴミを拾うとは、そのままですな」


 新しいスキルを手に入れたのでサイゾウは早速二人にスキルの説明をした。


「とりあえず使ってみますね。『ゴミ拾い』発動」


 サイゾウはゴミ拾いのスキルを使ってみた。するとアイテム『ゴミ』を手に入れた。とりあえず何回かスキルを使用してみたが、やはりゴミというアイテムを拾うだけだった。


「クールタイムも使用制限も無し。なんだかよくわからないスキルですね」

「雑魚スキルと言うか無駄スキルですな。おほほ」

「……次、行きましょうか」


 新しく手に入れたスキルは今後検証するとして、サイゾウはギルドに戻って掲示板を確認することにした。


「やっぱり連続クエストですね」


 ギルドに戻って掲示板を確認すると新たな掃除クエストが貼りだされていた。


「今回は『屋敷の掃除』ですね」


 今回の掃除依頼は昔貴族が住んでいた屋敷の掃除だ。今は誰も住んでいない廃屋同然の屋敷をきれいにしてくれ、というクエストである。


「あ、でも、今回は虫が出るみたいです」

「虫? 虫系のモンスターかい?」

「そうみたいです。あー、どうしよう」

「やめるのですかな?」

「うーん、あんまりモンスターとは戦いたくないんですよ。でも、ここで止めるのもなぁ」


 今回の掃除クエストにはモンスターが出るらしかった。どうやら放置された屋敷に虫のモンスターが住み着いてしまったので掃除のついでに退治して欲しいという。


「なら大丈夫では?」

「どうしてですか?」

「だってサイゾウさん、『殺虫』のスキル持ちじゃないですか」


 確かにサイゾウは殺虫のスキルを所持している。しかし、それで虫モンスターと戦えるのかサイゾウは疑問だった。


「だったら試してみるのはどうですかな? 最悪、危なくなったらクエストをリタイアすればいいでしょう。ぬふん」

「そうですね。私たちの団はスキルの活用法を見つけるのも目的のひとつ。やってみてはどうですか?」

「うーん……。わかりました」


 というメフィストと剛三郎の説得によりサイゾウはこのクエストを受けることを決めた。そして、三人は目的地の屋敷へと向かったのである。


 目的地の場所に来ると屋敷の前には今までと同じでNPCが待っていた。サイゾウはそのNPCに話しかけてクエストを開始すると屋敷の中へと入っていった。


 屋敷の門をくぐったサイゾウはその様子に絶句した。屋敷は本当に荒れ放題だったのだ。


「現実なら一人でできないかもだけど、ここはゲームだから大丈夫だよね」


 サイゾウは早速スキルをフル活用して掃除に取り掛かった。


 その途中、クエストの説明にもあったように虫のモンスターが現れた。


「『殺虫』!」

「ギョベエエエエエエエエ!?」


 巨大なムカデのようなモンスターに遭遇したサイゾウは怯えながらも殺虫スキルを発動した。するとモンスターは一撃で倒れ、アイテムに姿を変えた。


「……こんなにあっさりでいいのかな」


 初戦闘は呆気なく終わってしまった。サイゾウは手に入れた『大ムカデの甲殻』や『毒液』などを眺めながら複雑な表情を浮かべていた。


「……次、行こう」


 サイゾウは掃除を続けた。その際、何体もの虫モンスターと遭遇したがすべて殺虫スキルで一撃で倒すことができた。そして、それなりの数が出現したおかげで、虫モンスターの素材も集まった。


「……よし、終了っと。ちょっと時間かかったな」


 モンスターと闘いながらもなんとか掃除を終えたサイゾウはふぅっと息を吐いて額を拭う。屋敷はそれなりに広く、部屋数も多かったので思ったよりも時間がかかってしまった。


「ありがとうございます。これは報酬です。お受け取りください」


 掃除を完了したサイゾウはNPCに話しかけ報酬を受け取った。今回も今までと同じようにランク評価があり、今回もSランクの評価だった。


「スキル『掃除』のレベルが3に上昇しました」


 報酬を受け取ったタイミングで掃除スキルのレベルが上がった。


 しかし、他のレベルは上がらなかった。


「弓も短剣も使っていないから当然でしょうな」

「種族レベルは上がりにくいからねぇ」


 クエスト終了の報告をしに来たサイゾウにメフィストと剛三郎はそんなことを言った。メフィストの言う通り種族レベルはもともと上がりにくいし、剛三郎の言う通り弓や短剣を使用していないのでジョブ弓兵のレベルも上がっていない。もちろん弓も短剣も使っていないのでそれらのスキルレベルも上がらなかった。


「でも思った通り殺虫スキルは虫系モンスター特攻スキルだったみたいだね」

「うむ。これからは虫モンスターはサイゾウ殿にお任せですな」


 メフィストと剛三郎は上機嫌だった。それに対してサイゾウはものすごく複雑な気分だった。


「……なんだか草むしりと同じ道を進んでる気がする」


 サイゾウはそんな不安を抱えながら次のクエストへと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る