第10話 またおかしなスキルを手に入れましたね

 サイゾウがゲームにログインしたのは三日後のことだった。


「おお、久しぶりですなぁ。大丈夫でございますか? んふ」

「は、はい。あのあと少し熱が出ちゃって。でも、もう大丈夫です。ありがとうございます」

「いやいや。元気になったようでなによりなにより」


 剛三郎は三日前と同じように小汚いおっさんだった。あの時、女の人の声が聞こえてきたが気のせいだと思わせるほどのおっさんだ。


「メフィストさんもすいませんでした。あの、ログインできなくて」

「大丈夫大丈夫。キミが元気になってなによりだよ」


 三日だけだ。けれど、なんとなくログインするのに勇気が必要だった。何か言われるんじゃないか、嫌われてるんじゃないかといろいろと考えすぎてしまったのだ。


 けれど杞憂だった。本当に考えすぎだった。剛三郎とメフィストは三日ぶりにログインしたサイゾウをあたたかく迎え入れてくれたのだ。


「さて、それじゃあ改めて傭兵団『雑草魂』始動といきましょう」


 こうしてサイゾウたちの傭兵団が動き出したのである。


「と言っても私と剛三郎さんで活動をはじめちゃったんですけどね」

「すまんねぇ、サイゾウ殿」

「いえいえ、ボクが休んでたのが悪いので。それで、何をしてたんですか?」

「剛三郎さんのスキルの確認さ。とっても面白かったよ」

「少しやり過ぎてしまいましたがなぁ」

「やり過ぎ、ですか?」

「うむ。森を焼き払ってしまいました。ぬほ」

「も、森を?」


 森を焼き払った。確かにやり過ぎだ。


「まあ、今度見せて差し上げますよ」

「今日は今日でやることがあるからね」


 何をして森を焼き払ったのかサイゾウは気になるが、今日は別のことをやるらしいので一旦忘れることにする。


「それで今日は何をするんですか?」

「観察です」

「観察? 何を観察するんですか?」


 何かを観察する。メフィストのことだからきっと珍しいものを観察しに行くのだろう。と、サイゾウは考えたのだが、それが何なのか見当もつかなかった。


 そして、本当に思いもよらないものだった。


「観察するのはサイゾウさんです」

「……サイゾウサン? そう言うモンスターがいるんですか?」

「いえ、サイゾウさんです」


 サイゾウは首をかしげる。メフィストはにこにこ笑っている。


「サイゾウ殿、貴殿のことですよ」

「ぼ、ボク? どうしてボクを観察するんですか?」

「あなたが珍しい存在だからです」


 珍しい存在。確かにそうなのか? とサイゾウは考えてみる。


 サイゾウは☆10の称号『草むしりマスター』の所有者である。そして超越者の一人であり、聖域の主でもある。しかも現在、メフィストが知る限り☆10の称号を持つプレイヤーはサイゾウ一人しかいないらしい。


 確かに珍しい。確かに珍しいけれども……。


「さあ、サイゾウさん。今日は何をしにどこへ行くのですか?」


 つまり自分はメフィストにとっての観察対象。珍しい野生動物であり研究対象というわけだ。


「あのう、ボクはそんな、変なことは」

「いやいや、ゲームを始めてモンスターを倒すこともレベル上げもせずに最初の町でずっと草むしりばかりして超越者になるなんて普通じゃないですよ」


 褒められているのか馬鹿にされているのかはわからないが、メフィストはどうやらサイゾウに興味津々なようだ。


「……わかりました。でも、期待しないでくださいよ」


 サイゾウは諦めて研究対象になることを受け入れた。


「じゃ、じゃあ、ギルドに行きましょう。いつもそこでクエストを探してましたから」


 三人は傭兵ギルドへと向かう。そして、いつも見ている掲示板の前に立った。


「サイゾウ殿。クエストを選ぶ基準はあるのですかな?」

「えっと、なるべく安全な、モンスターとかが出ない、一人用のクエスト、ですかね」


 サイゾウはいつも通り討伐系や素材収集などのクエスト以外を探す。そしてちょうど良さそうなクエストを見つけた。


「『空き家の掃除』か。えっと、今日はこれにしてみます」


 サイゾウが見つけたのは『アクトーク不動産』という不動産屋が発注したクエストだった。内容は不動産屋が所有する空き家の掃除。報酬は1000ギルダンとかなり安い。


「また変なクエストを選びましたね」

「そうですか? モンスターも出ないですし、安全じゃないですか」


 安心安全、サイゾウにとってはそれが最優先事項だ。草むしり以外が最低レベルのサイゾウにとってはどんなモンスターでも魔王のように見えてしまう。


 というかサイゾウは未だにゲームの中でモンスターを見たことがなかった。PVやチュートリアルで一応見たことはあるが、実際のプレイではまだ戦闘未経験である。


「じゃあ行きましょうか。えっと、指定の場所に行ってNPCの話しかければクエストスタート、ですね」


 クエストを受注した三人は目的地へと向かう。目的地は町の一角にある空き家だ。


 目的地の空き家の前には見た目からして気難しそうなメガネの男性NPCがいた。サイゾウはそのNPCに話しかける。


「あなたがギルドから派遣された傭兵ね。ほら、さっさともたもたしてないで掃除を始めなさい。手抜きなんてしたら報酬は払いませんからね」


 高圧的な態度のNPCに驚きながらもサイゾウは空き家の掃除を始めた。付いてきたメフィストと剛三郎は近くでその作業を観察している。


「本当に掃除のクエストのようですなぁ」

「経験値も入らないし、なんなんでしょうね、このクエスト」


 メフィストと剛三郎は疑問を抱きながらもせっせと掃除するサイゾウを目で追う。サイゾウは二人のことは気にせず、ほこりを払い、床を磨き、屋内の掃除をせっせと行った。


 屋内の清掃を終えたサイゾウは次に庭の掃除に移った。


 庭はかなり放置されていたようで雑草が生え放題に生えており、植木の枝も伸び伸びになっている。


 しかし、サイゾウにとっては荒れた庭など簡単に整えられる。サイゾウは草むしり LV100を駆使してあっという間に庭から雑草を抜き去り、造園のスキルで庭を完璧に整備して見せた。


「パ~フェクト! なかなかやるではありませんか」


 空き家の掃除を完了したサイゾウがNPCに話しかけるとそう言って喜んでいた。どうやら今回のクエストはランク評価があるようで、サイゾウの今回のクリアランクは『S』の最高評価だった。


「素晴らしい。特に庭の手入れは完璧です。では、報酬を」


 クエストを完了したサイゾウはNPCから報酬を受け取る。そして、それと同時にスキルを一つ習得した。


「スキル『掃除LV1』を習得しました」


 新たなスキル『掃除LV1』。レベルありのスキルのようで、レベルを上げていけば強力なスキルになる。はずだ。


「またおかしなスキルを手に入れましたね」

「ほほほ、さすがですなぁ、サイゾウ殿」


 サイゾウはとても複雑な気分だった。メフィストと剛三郎は喜んでいるようだが、ほめられてもあまり嬉しくなかった。

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