第8話
サイゾウは初めてパーティーを組んだ。
「では改めまして。私はメフィスト、種族はヒューマン、ジョブは狩人とシーフだ」
「我輩は油谷剛三郎。種族はヒューマン、ジョブはコックと魔法使いであります。ぬふん」
初めての仲間は怪しい美少年とネッチョリとした小汚いおっさんだった。
サイゾウたちはサイゾウが主であるあの地下庭園にいた。そこで改めて自己紹介をして今後のことを考えようという話になったのだ。
「ぼ、ボクはサイゾウです。種族はヒューマンで、ジョブは弓兵、です」
「サブジョブは設定してないのかい?」
「えっと、その、設定しなくてもよくなってしまったので」
サイゾウは称号『庭王』の効果の説明をする。その説明を聞いたメフィストは興奮気味に目を見開く。
「その『庭王』って称号を見せてもらってもいいかな?」
「は、はい」
サイゾウは称号に庭王をセットしてメフィストに見せる。
「☆7。レア称号だ。これをどうやって?」
「庭師のジョブをマスターしたら自動的に」
「庭師? 聞いたことのないジョブだ」
メフィストは興味深げにサイゾウを眺めまわす。
「おそらくEXジョブのひとつでしょうなぁ。それで、解放条件はなんだったのですかな?」
「えっと、この地下庭園ある道具倉庫にあった『庭師の道具箱』がキーアイテムだったみたいです」
「なるほどなるほど。メフィスト殿、同様のアイテムに心当たりは?」
「ありませんね。入手できるクエストにも心当たりはありません」
「となると、今のところ庭師はサイゾウ殿一人という可能性がありますな」
メフィストと剛三郎は二人でサイゾウの体を眺めまわす。
「他にも何か隠していることがあるのではないですかなぁ?」
「い、いえ、そんなことは」
「まあ、それはこれからゆっくりと知っていくとして。今は今後についてのことを話し合いましょう。ぬほほほ」
サイゾウは仲間を得た。しかしその仲間はなんだか少し、いや、かなりの変わり者のようだ。
「そ、それで今後のことって」
「私たちの団の活動方針を決めるんですよ」
「だ、団?」
いったい何のことだろうとサイゾウは疑問を抱きながら、なんだか嫌な予感を覚えていた。
「団は団でございますよ、サイゾウ殿」
「私たちで傭兵団を組むんですよ」
「……ええ?」
まったく聞いていない。と言うか全くそんな話などした覚えがない。
「私たちって、ボクたち、ですか?」
「そうでございますよ、当たり前ではないですか。でゅふ」
全くそんな話をした記憶がない。しかし、どうやら二人名間ではすでに決定事項のようだった。
「な、なんで団を組むんですか?」
「キミ、超越者なんだよね?」
「ま、まあ、一応」
「一緒に団を組んだら楽しそうではありませんか。のほほ」
「そ、そんな理由で?」
そんな簡単な理由で傭兵団を結成していいのだろうか、とサイゾウは少し不安になる。そもそもメフィストと剛三郎とはついさっき出会ったばかりなのに、一緒に傭兵団を組むなって考えられない。
「そんな理由でいいんですよ」
「そうです。楽しそうだからやってみる、それでよいのです」
「……楽しそうだから、やる」
サイゾウはハッとする。自分は楽しんでこのゲームをプレイしているのだろうか疑問を抱く。
無理矢理に誘われて、ゲームをプレイし始めたらすぐに見捨てられて、それからずっと一人でプレイし続けて来た。誰かに声をかけるのが怖くて、なんだかよくわからない状況に怯えて、あまりゲームを楽しめていない。
「ゲームは楽しい。楽しみ方は無限大。一人でやるもよしみんなでやるもよし」
「我輩はサイゾウ殿と一緒に遊びたい。理由はそれだけでございますよ」
「……そう、ですね。それで、いいんですよね」
サイゾウは涙を拭う。なんだか、今まで感じていた寂しさが消えてなくなり、あたたかいものが体の中を満たしていくのをサイゾウは感じていた。
「……でも、なんだか丸め込まれたような気がしないでもないような」
まあ、いいだろう。とにかく仲間ができたのだ。
「では、私たち三人で傭兵団を結成すると言うことで」
「異議なしでございますな」
「だ、大丈夫です」
こうしてサイゾウはメフィストと剛三郎と共に傭兵団を結成することとなったのである。
「では、団の結成に際して団長から一言」
「……ボク?」
サイゾウは自分の顔を指さす。メフィストと剛三郎の様子からどうやらサイゾウが団長のようだが、とうのサイゾウはと言うとなぜ自分なのかと不思議そうな顔をしていた。
「当たり前でしょう」
「この中で一番レベルが高く称号のランクも高いんですから」
「い、いや、でも、ボクが団長なんて」
「ああ、そう畏まらなくてもいいですよ。私たちの団は他の団と争ったり戦ったりするつもりはありませんから」
どうやらメフィストは団の活動方針をすでに決めているようだった。
「私たちの団の活動は『珍しいものを見つける』こと。レアな称号、レアなジョブ、レアなスキルを探し出して、それらの活用方法を研究する。いわば研究系の傭兵団です」
傭兵団にはそれぞれ活動方針によって分類がある。正式に分類されているわけではないが、団長や団員たちの考え方や行動によって団の系統と言うのは決まっているのだ。
例えば『炎竜の牙』はバリバリの戦闘系傭兵団だ。モンスターの討伐や他の傭兵団との戦闘など武闘派のプレイヤーが揃っている。
傭兵団『雪薔薇』も戦闘系だが、こちらのメインは魔法使いだ。モンスターと闘いながら魔法の発見や応用方法を研究している研究者集団でもある。
ほかにも工業系や商業系の傭兵団も存在している。サイゾウたちのように魔法やスキルの研究をしているダンも珍しくはない。
「私たちは争わず、競わず、ただひたすらに珍しいものを探し出し、活用法を見出す。どうですか? サイゾウさん」
「戦闘指揮をとることもなければ強くなる必要もない。まあ、称号を獲得するために強くなる必要がある場合は別ですがねぇ。おっふ」
サイゾウは二人と顔を見合わせる。その表情はどこか不安そうだが、しかし、何か決意の様なものも宿っていた。
「ほ、本当にボクでいいんですか?」
「はい」
「もちろんというか、ぜひに」
サイゾウは下を向き、手をぎゅっと強く握り閉め、それから顔を上げてこういった。
「わかりました。団長、やります」
団長。まさか傭兵団の団長になるとは夢にも思わなかった。サイゾウは不安はとても不安そうな顔をしていたが、その瞳の奥には強い決意が見て取れた。どうやら覚悟を決めたらしい。
「あの、これから、その、よろしくお願いします」
「よろしく、団長」
「よろしくですぞ、団長殿」
こうしてサイゾウは傭兵団の団長となった。
「で、その、さっそくなんですが」
「はいはい、団の名前ですな」
「どんなのがいいですかね?」
「やはりここは他人が引いて恥ずかしくなるぐらいに中二臭いものがいいかと」
「いや、それは、ちょっと……」
ああでもないこうでもないと、三人は話し合いを始めた。そして、そんな楽しい議論は夜遅くまで続いたのだった。
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