第7話

 話すことができない部分を適当に誤魔化しながら話し終えたサイゾウは、ふうっ、と小さく息を吐いてから少し怯えながらメフィストの顔を見た。


「あ、あの、どうでしたか?」


 メフィストは何やら真剣な表情で顎に手を当てて考え込んでいる。


「すいません。その『草むしりマスター』という称号をもう一度見せていただけますか?」

「は、はい。大丈夫です」


 サイゾウはメフィストにステータス画面を見せる。もちろんレベルなどは隠したまま名前と称号だけを見せた。


「☆10。やはり最上級のレア称号。もう一度確認しますが、この称号の効果は?」

「一度の草むしりで草を100個むしることができるだけです」

「本当にそれだけなのですか?」

「えっと、そう書かれているので、そうなのかと……」


 何を疑っているんだろうとサイゾウは不思議に思う。


「ぬふ、もしやメフィスト殿はこの称号に隠し効果があるのではと疑っているのですな?」


 と言って剛三郎がニチャリと笑う。その笑顔がなんとも得意げで、少しばかりイラっとする。


「はい、その通りです。☆10の称号にその程度の効果しかないとは信じられません」

「あ、あの、この称号ってそんなにレアなんですか?」

「はい。数々ある称号の中で☆10の称号は10個しかありません。しかも未だに☆10の獲得者はいなかったはず……」


 メフィストはものすごく真剣な眼差しでサイゾウを見つめる。


「サイゾウさん。何か隠していますね?」

「そ、それは……」


 サイゾウは冷や汗を流す。


「まあまあ、隠し事のひとつやふたつあるものです。あまり追及すると可哀そうですよ、メフィスト殿。ぬふ」


 剛三郎がメフィストをなだめる。


「……そうですね、申し訳ない。あまりにもレアな称号だったので少し興奮してしまったようです」


 そう言うとメフィストはサイゾウに頭を下げて謝罪する。


「い、いえ。こちらも、その、話せなくて、ごめんなさい」

「いえいえ。こちらこそ無理矢理聞き出そうとしてしまい申し訳ない」


 サイゾウとメフィストは頭を下げ合う。そして二人の謝罪合戦が始まろうとしたとき、それを止めるように剛三郎がパンパンと手を叩いた。


「いやはや日本人ですなぁ。謝罪癖が染みついている。おほほ」


 剛三郎は楽しそうに笑う。その笑い方は今までとは違いニチャニチャ粘っこくなくなんだか普通の笑い方だった。


「では、サイゾウさん。報酬の100000ギルダンを」

「あ、ありがとうございます。あ、でも、半分お返しします。ちゃんと、その、お話しできなかったので」


 サイゾウはメフィストが渡してきた報酬の半分を返却しようと布袋に手を入れる。


「いえいえそんな」

「いえいえこちらのほうこそ、そんな」

「いえいえいえいえ、こちらこそそんな」

「はいはい、そこでお終い。話が先に進まないでしょうが」


 はぁ、と剛三郎が呆れたようなため息をつく。そのため息をする姿も今までのような粘っこさはなくいたって普通のため息だった。


「今回は受け取ってください」

「受け取りなさいな、サイゾウ殿」

「わ、わかりました。ありがたく、いただきます」


 サイゾウは報酬のすべてを受け取ると申し訳なさそうに頭を下げる。


「では、今回の依頼は終了。お開きと言うことで」


 これで終わり、というようにメフィストは拍手をする。それに合わせてサイゾウと剛三郎も拍手をする。


「さて、最後にフレンド登録をしましょうか」

「は……。ええっ!?」


 サイゾウは驚いて椅子から立ち上がる。


「ふ、フレンド登録ですか!?」

「はい、何か問題でも?」

「い、いえ、その、えっと、ちょっと、困るかなぁ、って……」


 サイゾウはメフィストと剛三郎の顔を交互に見比べる。


「まずい、フレンド登録したら、バレちゃう……」

 

 フレンド登録をすると名前とレベルがバレてしまう。それ以外は隠すことが可能だが、サイゾウにとってはレベルがバレるだけでも致命的だ。


 どうしよう、どうしよう、とサイゾウは考える。ここで断っても二人とも何も言わないかもしれないが、なんとなく断りづらい。


「サイゾウ殿。何か事情があるのですかな?」

「じ、事情があるといか、無いというか」


 サイゾウは二人を見つめる。二人を見つめながら、考える。


 そして、ごくりと息をのみ、覚悟を決めた。


「お、お二人にお話ししたいことがあります」


 サイゾウは覚悟を決めた。そして、二人に自分の今の状況を話した。


 話してもいいと思った。二人はいい人そうだし、話しても大丈夫だろうとサイゾウは考えた。


 それに寂しかった。今までずっとひとりぼっちのソロプレイでもしかしたらこれからもソロかと思うと耐えられなかったのだ。


「……あなたが、超越者の最後の一人」


 話を聞いたメフィストと剛三郎は驚いた顔でサイゾウを見つめている。


「疑うようで悪いんだけど、その草むしりスキル見せてくれる?」

「え? はい。これでいいですか?」


 なんだか口調が違うな、と少し気になることはあったが、サイゾウは剛三郎に言われた通りステータス画面を見せ、草むしりのスキルがレベル100であることを確認させ、自分が嘘をついていないことを認めさせた。


「レアだ、ものすごくレアだ。素晴らしい、素晴らしい」


 メフィストはものすごく目を見開き興奮した様子でサイゾウの両手を握る。


「サイゾウさん、あなたの存在自体が超レアだ。素晴らしい、本当に素晴らしい」

「あ、ありがとう? ございます」


 褒められている。褒められているようなのだが、なんだかメフィストが怖い。


「サイゾウさん、ぜひ、ぜひ私とフレンドに。いいえ、フレンドだけでなくパーティーを、パーティーと言わず傭兵団に私を」

「あ、あの、ボク、傭兵団には」

「もしかして、超越者なのに傭兵団を結成してないの?」


 剛三郎は信じられないと言った表情で目を見開いている。


「い、いえ、超越者が全員傭兵団を結成しているわけじゃないと思いますけど……」

「でも、他の超越者たちは傭兵団の団長よ?」

「そ、そうですけど、あの……」


 サイゾウは剛三郎の顔をじーっと見つめる。


「なに?」

「いえ、その、さっきから口調が」

「あ、しまった。……ん、うんん」


 剛三郎はわざとらしく咳ばらいをするとニチャァとした笑みを浮かべる。


「とりあえずメフィスト殿、傭兵団はともかくとしてフレンド登録をいたしましょう。サイゾウ殿が事情を話してくれたと言うことは、断る気がないということでしょうからな。ぬふ」


 口調が戻った剛三郎は粘っこい笑みをサイゾウに向ける。


「よろしいですかな?」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 こうしてサイゾウはメフィストと剛三郎の二人とフレンドとなったのである。

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